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フェアリーブレイド ~旧き約定の剣と、新しき紲の剣~  作者: エキストリーム納豆
六. 精霊の道
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94. 目覚め

お待たせしましたが、展開を考えながらやってるので今回短めです

 さらさらと、心地よい風の音が少年の意識を撫でた。

 未だ半分微睡みの中にあるガメオは、ザアレとシィタが笑いあっていると言うあり得ない光景の幻を見ながらも、少しづつではあるが今の状況を思い出していた。


 今ここは荒野、フロスギン達プライムオーク族の里。

 ・・・こんなそよ風に木の葉が立てるような音がするのは、おかしい。

 そのような緑を湛えた木など生えてはいないはずだ。



 ぼんやり開けて行った視界に、何かの人影が見えた。

 シルエットからして、ガメオと同じぐらいの少女だろうか。



「・・・ザアレ?」


「悪かったね、アンタの恋人でも家族でもなくて」



 機嫌が悪そうに答えた彼女は、緑がかった肌に顎の長さで切った赤い髪をしたプライムオークの少女、チャンカだった。

 しかし初対面で挑みかかられた狂犬のような印象はどこへやら、随分と大人しくなった態度の様に見えた。



「アンタがブッ倒れてからもう三日よ。あの化物は無事に消滅したわ。あとあのちびピクシーも猪も普通に元気よ」


「三日、か・・・」



 妖精郷の虚で飛竜と戦った後などは一月位寝ていた事と比較し「その程度で済んだのか」などと安堵してしまうガメオは、感覚が狂っているのかも知れない。

 よく見ると寝ている寝床は自分があてがわれていた物よりも幾分豪華で、部屋も埃の匂いがする小屋ではなかった。

 また、デッキーの宿る鎧の腕輪は枕元にあるものの、ゾオレにスプー、モモら旅の仲間たちが見当たらない。



『オイオイ随分と素っ気無いじゃねェか!あンだけ毎日甲斐甲斐しく世話しに来てたってのによォ』


「黙ってろポンコツ!ミノタウロスの鼻輪にしてやろうか!?」



 軽口を叩いたデッキーはチャンカからの反撃に『おー怖い怖い』とわざとらしく返して見せた。

 それを横目に見ながら、ガメオは掛かっていた毛布をずらして軽く片足ずつ持ち上げたり下げたりして見た。



「・・・さすがにすぐに起き上がるのは無理でしょ。どうしてもって言うなら肩貸すけど」



 しかしそんなチャンカの忠告が聞こえないように、ガメオは「よっ」と転がった勢いのままに普通に立ち上がった。

 死の淵の昏睡から覚めるのが初めてではない故に慣れてしまっていた、と言うのもあるがそれだけではない。

 剣の才能こそ驚くほど無いため素の技量ではそこそこの枠に収まるが、それ以外の体の基本的な使い方と言うベース部分に、既に恐るべき使い手レベルの洗練さがあるのだ。

 身体操法の術理の凄まじさの一端を、力が入らない筈の両脚でふらつきもなく確りと立ち上がったというそれだけの動作から見て取れるだけの眼力はチャンカにはあった。


 一秒ほど立っていたガメオだったが、すぐに近くの柱に体重を預けた。



「やっぱ・・・三日も動いてないと立ってられないな」


「・・・驚かせないでよ。外見たいなら肩貸すって言ってるでしょ」



 チャンカがガメオの支えになるのと同時に、腕輪が勝手に転がり跳んでガメオの腕に嵌った。

 最初からあった機能なのかデッキーが取り憑いたから出来るのは定かではない。



 ドアの外の光景に、ガメオは息を呑んだ。


 殆どが赤茶けた地面だった筈の里が、かなりの部分が緑の芝で覆われていたのだ。

 また、あちこちに苗木から少し育ったぐらいの若い木も生えているのが見えた。

 点々と花の咲く草原は、石を積み上げた防風フェンスの外にも広がっていた。



「アンタがやったのよ、ガメオ」


「!?」


『お前自身は気付いて無かったが、眠ってたようなこの地の精霊たちがあの時一斉に活性化したんだぜ。枯れてた井戸水も復活したらしい』


「あと、ゾオレが前もってアンタの荷物からあのモリナシを百個ぐらい出して、戦士達の回復に当てるように言ったって聞いたわ。ところどころ生えてる木はそれの種が凄い勢いで育ったもんよ」



 呆けたように、あるいは感心したように辺りを見回すガメオ。

 きょろきょろする彼を見ていて、チャンカはこの三日間ずっと溜めていた疑問を堪え切れずに吐き出した。



「ねえ・・・どうしてさ、そんなに強いの?」


「・・・?」


「こないだと言ってる事違うとか、そう言う事じゃない。魔剣無しのアンタは私より少し強いけどそれだけ、なのは変わらない。でも・・・仮にその魔剣があたいにあったとして、あんな凄いって言うか訳の分からない事絶対に出来ない。ううん、兄様や父様だって無理。いくら強い武器があったって使えなきゃ無意味、ってのは口を酸っぱく教えられる。そしてアンタは、多分他の誰にも使えない剣を使えている・・・あたいには想像もつかない形の何かの『強さ』で」



 突然のそれにどう答えたらいいものかガメオが迷っていると、向こうからの呼び声がした。

 ゾオレ達、共に戦った仲間達が目覚めたガメオに気付いたのだ。

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