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フェアリーブレイド ~旧き約定の剣と、新しき紲の剣~  作者: エキストリーム納豆
六. 精霊の道
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91. 魔人オルミスロ

 その男は、才気に溢れた魔法研究者だった。

 マジックユーザーとしてはそれ程でもないが、古い文献を勤勉に読み解き新しい理論を構築するなど真理の探究にはその才能を発揮した。

 しかし苛烈な性格故か、誰からも認められなかった。

 あまりに斬新すぎるその考えに世の中の者達は付いてこれず、また奴隷を使った非人道的な実験に傾倒して行ってからは益々その傾向が加速した。


 優れた魔法使いを輩出してきた名家生まれ故に多少の事はもみ消してもらえたが、理想的な実験体としてとある伯爵の幼い令嬢の誘拐を盗賊に依頼した事は流石に見逃されなかった。


 事件そのものは握り潰されたが、家からは殆ど着の身着のままで放逐。

 未遂とは言えそれで済まされたのは温情があったのかも知れない。

 しかし結局男はどこのギルドや研究機関にも拾ってもらえず、少し魔法を使える二流半の冒険者として酒浸りの日々を送るようになった。



 或いはこれまでの時点で魔王に対抗するあらゆる力を求めていた当時の王・ガルデルダの目に留まったなら、彼の・・・多くの人々の運命は違ったかも知れない。

 だが世界最大の国の国王と言えどその目は無限ではなく、また犯罪者崩れの根無し草の方から接点を持つのも無理があった。


 しかしどれだけ堕ちようと、汚い犯罪に魔法の力を利用する外道になろうと、魔法研究に対する情熱の火だけは消える事は無かった。

 ――暗い執念、怨念と呼ぶべきものに変わり果てていたとしても。



 ある時、男は命を落とし掛けた。

 国立魔法研究所で実験用に飼われていたオークの檻が壊れ、逃げ出したそれに運悪く遭遇してしまったのだ。

 偶然そこを通り掛ったやけに腕の立つ騎士が一刀両断にしなかったら、そのまま石畳の染みになっていた事だろう。


 男が感じたのは安堵でも無力感でも、ましてや命の恩人や神への感謝でもなく、自分自身を含む世界全てに対する漆黒の怒りだった。


 強い力に殺されかけて、より強い力に助けられた。

 どちらでも自分より遥かに巨大な物に振り回されているのに変わりはない。

 ――屈辱だ。

 世界を振り回すのは私であるべきだ。

 だが、今は力が足りない。

 力さえあれば。

 ・・・力さえあれば!



 男はなけなしの私財を掻き集めて簡易儀式用の魔道具や魔物除けのポーションなどを可能な限り製作し、ある場所に一人赴いた。

 そこは魔王の眠る領域。

 その力を己が物にしようと言う狂気の沙汰が、彼を支配し突き動かした。


 男は術師としてはどうにか形になる程度の腕しかなかったが、研究者としては紛れもなく歴史に残り得る天才であった。

 その手により作り出された魔法道具や魔除けの薬は、精鋭の警備する幾重もの門や魔王の瘴気に当てられた危険な魔物を全く障害にしない程に優れた物だった。

 そして男は、遂に魔王の黒球の手前にまで到達した。



 彼の人としての生は、そこで終わった。

 そしてほんの少し時を置き、彼と歳や背格好のよく似た人物が王都に現れた。


 名をオルミスロと言う。



 ()()でありながら卓越した魔法研究者にして()()

 柔和な人柄と人の欲しい言葉を的確に突く喋りは心に染み入るようで、複数の魔術ギルドや研究機関に招かれ斬新な発想による成果を次々に上げ出した。

 また、ともすると閉鎖的になりがちな魔法研究者の業界にあって冒険者や教会などとのコネクションも幅広く構築していった。

 やがて発生した王妃と王太子の暗殺事件、そして王弟への王位移譲と言う大きな動きに伴い、彼は王宮に取り立てられ貴族位を得る事になる。






「ぐはッ・・・ごッッ、はァッ!」



 宮廷魔術師団のナンバー2にして魔術参謀のオルミスロ準男爵・・・それが現在の彼を示す呼び名だ。

 そのオルミスロは現在、自分以外に誰も居ない自室で血を吐いて苦痛に耐えていた。

 ただの苦痛ではない、自身の存在を消滅させんとする強烈な力により肉体が、存在が崩壊させられるのを必死に食い止めているところだ。


 一体、何がどうなっている?

 主上の・・・いや、それを騙る何かがッ!

 我等に対して自滅を命じ、更に主上に奉ぐあらゆる行動を禁じた!?

 ・・・馬鹿なッ!


 不意に神聖王国前途を襲ったその凄まじい殺気は、オルミスロやその同種各々が主に奉げる忠誠が強い程に強い威力を発揮した。

 そしてオルミスロは・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 だが、ほぼ全てに近い同胞(手駒)が今ので消滅し、残ったモノも主上の悲願の助けとなる為に動く事を禁じられてしまっている。

 少なくとも感知できる範囲内では全滅と言っていい。

 何があったのかは理解できない。

 また直接動く事の出来る者が居なくなったのも重大だ。


 ――だが。



(何者か知らんが、残念だったな!既に何もしなくとも自動的に動く仕掛けは済んでいるのだ!フハ、フハハハハハ・・・!)



 それでも畏れ多くも主上の力を模倣した不埒者は自分の手で始末をつけないと収まらない、そう彼は決意を新たにした。

 そいつの首を勇者共々、偉大なる魔王に捧げるのだ。



 黒球から人為的に呼び出した魔王の影と融合する事である意味人類で初めて魔王の力を使うことに成功した男、オルミスロ。

 瘴気による存在変異の極致である魔族とも違うその在り様を、彼自身はこう定義している。



【魔人】と。

名前出した途端に吐血して死に掛けた男

どういう立場やバックボーンにしようかなって悩まされた結果です

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