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閲覧ありがとうございます。冬童話2018にどうにか間に合いました。
ネタバレしますが、白雪姫が性格悪いです。
無理と言う方はブラウザバックをお願いします。
昔々、あるところに一人のお妃さまがいました。お妃さまはある日、白い肌に赤いほっぺ、黒い髪をした子供が欲しいと思ったのです。それからしばらくして、お妃さまは一人のお姫さまを産みました。生まれたお姫さまはお妃さまが望んだとおり、白い肌に赤いほっぺ、黒い髪でした。お姫さまは「白雪姫」と名づけられ大切に育てられました。
しかし、白雪姫を産んでしばらくしてお妃さまは亡くなってしまったのです。王さまは悲しみましたが、白雪姫には母親が必要だと考え、新しくお妃さまをもらいました。新しいお妃さまはとても美しかったのですが、うぬぼれが強くしっと深い性格でした。
幼かった白雪姫はとても可愛らしかったのですが、大きくなるにつれてだんだんと美しくなっていきました。新しいお妃さまはだんだん美しくなる白雪姫に嫉妬し、ひどくいじめるようになったのです。
「もう嫌よ。もう家に帰りたいわ。ねえ鏡、私はまだ家に帰れないの?」
大きな溜息を吐いて疲れ切った顔をしたお妃さま目の前の鏡、正確には鏡の中の顔の見えない男にたずねました。心労のせいか、お妃さまは儚く消えてしまいそうに見えます。それは一層、お妃さまを美しく見せていました。そんなお妃さまに鏡は晴れやかに告げました。
「お妃さま、おめでとうございます。今日から白雪姫がこの国で最も美しくなりました。」
「まあ!それは本当なの?いえ、鏡の貴方は真実しか言えないのでしたわね。ああ、でもやっとこの日が来たのね。これで私は家に帰れるわっ!」
花がほころぶような笑顔を見せて、年相応にはしゃぐお妃さまを見て鏡も嬉しく思いました。鏡はお妃さまが王様の元へ嫁いできたばかりのころに出会いました。それ以来、ずっとお妃さまを慰めたり励ましたりしてきたのです。
鏡はお妃さまがずっと家に帰りたがっていたことを知っていました。寂しくはありますが、お妃さまの望みが叶うのであれば自分の気持ちなど小さなことだと思うくらいに鏡はお妃さまが大好きだったのです。
「ねえ、鏡。もし、私が家に帰れるようになったら貴方に付いて来てもらっていいかしら?貴方をこんな屋根裏の物置に一人置いて帰るなんてできないわ。」
「お妃さまがそう望むのであれば、私はどこへでも付いて行きましょう。」
「ありがとう。早速、王さまに家に帰る許可をもらって来るわ。上手く行くように貴方も願っていて。」
晴れやかな笑顔でここへ来た時よりずっと軽い足取りで部屋を出て行ったお妃さまを見送って、鏡は小さな溜息を吐きました。真実を見通す鏡は少し先の未来も見通す力があったのです。鏡にはお妃さまが落胆して帰ってくる姿が見えていたのです。
「まあっ!真実の鏡が私を国一番の美女と認めたとそう言いましたの?」
「その通りでございます、姫さま。」
城によく獲物を献上しに来る狩人に真実の鏡の言葉を聞いて、白雪姫は嬉しそうに瞳を輝かせました。けれども、直ぐに困ったように顔を曇らせてしまいました。狩人がどうしたのかと聞いても白雪姫は直ぐには答えませんでした。そうすれば、狩人が白雪姫を可哀想に思い親身になってくれることを知っているからです。そんなことを知らない狩人は、力になりたいと白雪姫を励ましました。白雪姫はわざと言い渋るふりをしてお妃さまのことを話しました。
「狩人さんも知っていると思うのだけれど、お妃さまは私のことがお嫌いなの。今日の庭掃除もお妃さまに言いつけられた罰なのよ。公爵家の誕生日パーティに着ていくはずだったドレスをズタズタに切り裂いた罰なのですって。でも、私は切り裂いたりしていないわ。侍女に聞いたらお妃さまの侍女が切り裂いたのを見たと言っていたわ。このままだとお妃さまからの風当たりがもっと強くなってしまうかもしれないと思うと、とても怖くて・・・」
「ああ、それはなんて不憫なことでしょう。美しく可憐な姫さまに無実の罪をきせて更に罰を与えるなど非道です。私も何か力になれればよいのですが・・・」
「ありがとうございます、狩人さん。でも、お妃さまもきっといつか分かって下さると思うの。」
儚げに笑って見せると狩人は考え込みました。本当は白雪姫のドレスを切り裂いたのは、白雪姫に命じられた侍女でした。けれども可愛らしく瞳を潤ませながら言えば、誰もが白雪姫の言うことを信じたのです。そして、その後には白雪姫を慰め誰もが白雪姫のために良い案を出してくれました。この時、狩人も白雪姫のために考えを巡らせました。
「姫さま、死んだと見せかけて隣国へお逃げになってはいかがですか?」
「隣国に?」
「はい、隣国は気候も人柄もこの国と変わりありません。隣国の王さまも王太子さまもとても良い人柄で、国民からもとても慕われていると聞いております。姫さまが隣国の王子さまと結婚されれば、国同士のつながりも強くなります。王さまもお許しになるのではないですか?」
「それはとても名案だわっ!でも、隣国の王太子さまはすでにご結婚されていたのではなかったかしら?」
「王太子さまを除いても隣国の王子さまは四人もいらっしゃるのです。姫さまが気に入る王子さまがいらっしゃるでしょう。」
「王子さま方はどのような方たちなの?」
「優しく勤勉でご令嬢たちからも人気が高いと聞いております。きっと事情を話せば姫さまの力になって下さるでしょう?」
白雪姫はしばらく考え込んで、庭からお城を見上げました。もしも、お妃さまの命令で自分が死んだと思われたらお妃さまは周りから糾弾されるに違いありません。特に白雪姫と懇意にしている貴族の子息たちは、お妃さまに直接暴言を吐くことは楽に想像できました。
そうなればどれだけお妃さまを傷付けることができるだろうかと白雪姫はお思いました。白雪姫はいつも凛とすましているお妃さまが気に入りませんでした。お妃さまは白雪姫より二歳年上ですが、その美しさは白雪姫も認めざるを得ませんでした。誰からも愛される美しさを持つのは、姫である自分の特権だと白雪姫は思っていました。だから白雪姫は可愛らしさを武器にお妃さまに嫌がらせをしているのです。
「狩人さん、私は隣国に行きます。」
「分かりました。王さまには私から話しましょう。お妃さまに姫さまが死んだと思わせるために姫さまの身に付けているものをいただけますか?」
「ええ、もちろん良いわ。このペンダントでいいかしら?」
「十分です。これほどまでに大きなサファイアのペンダントを持つのは姫さまだけだと誰もが知っております。私は王さまに姫さまのことをお伝えしますので、途中までしか送れません。森の中に私の知り合いが住んでおりますので、彼らの家に数日お世話になって下さい。彼らの家はイトスギをたどっていけば見つかるでしょう。王さまに話しましたら直ぐに迎えに行きます。」
「狩人さん、何から何までありがとうございます。」
狩人は森の入口まで白雪姫を送り届けてくれました。白雪姫は狩人が教えてくれたスラリと伸びる特徴的なイトスギを目印に森の中へと入っていきました。森の中は薄暗く自分がどのくらい歩いたのかも分かりません。休憩をしようかとも思いましたが、聞きなれない不気味な鳥の鳴き声が怖くて立ち止まることもできませんでした。
夕方になり、白雪姫がどうにかイトスギを目印にしながらたどり着いたのは一軒の小さな家でした。ずっと歩き続けていた白雪姫はお腹は空いていましたし、のども乾いていました。白雪姫は家のドアを叩きましたが、返事がありません。空腹に耐えられなかった白雪姫はドアを開けて家の中に入りました。
玄関から入ってすぐに低いテーブルと小さな椅子が七つ並んでいました。まるで、子供が座るようなサイズに首を傾げながらもテーブルの上に置かれていたパンとチーズ、そしてワインでお腹を満たしました。お腹を満たした白雪姫は歩き疲れたこともあって眠くなってしまいました。
身体を休める所はないかと二階へ上がった白雪姫は、小さなベッドが並んでいるのを見付けました。ベッドも子供用のようなサイズでしたが、白雪姫でもギリギリ眠れるサイズでした。白雪姫は近くのベッドに潜り込むと直ぐに眠ってしまいました。
時間は少しさかのぼり、白雪姫と分かれた狩人は血が付いたサファイアのペンダントを持って王さまに会いに行きました。狩人の証言で白雪姫がクマに襲われて死んでしまったことがあっという間に広まりました。そして、白雪姫を気にかけてよく庇っていた貴族の子息たちがお妃さまに疑いの目を向けました。
「単刀直入にお聞きしますが、白雪姫を死に追いやったのはお妃さまではございませんか?」
「私は何も知りません。それに白雪は狩人が止めるのも聞かずに森へ入ったと言うではありませんか?」
「どうせお妃さまのことです。何時ものように白雪姫に無理をお命じになったのでしょう?」
「私は白雪に何かを命じたことなどありませんよ。」
「白々しい。白雪姫の美しさを妬み、いじめていたことを知っています。お妃さまは確かに美しいです。ですが、お妃さまのお心はとても醜いです。それに対して白雪姫は身も心も美しいのです。白雪姫は心の美しさで内側から輝いていました。到底、お妃さまは足元にも及ばないことをいい加減自覚してはいかがですか?」
「相変わらず、貴方かだの目は曇っていらっしゃるようですね。」
「それはこちらの台詞です。お妃さまは白雪姫と二歳しか違いませんから、自分より優遇される白雪姫が許せなかったのでしょう?」
「聞く耳を持たないのであれば、これ以上話しても無駄ですね。私はこれで失礼します。」
「お待ちくださいっ!逃げるおつもりですかっ!私たちは白雪姫を死に追いやったお妃さまを絶対に許しませんっ!」
お妃さまは貴族の子息たちから心無い言葉をぶつけられても凛として歩き続けました。そして、自分の部屋に入った途端、その瞳から涙があふれ出して来たのです。お妃さま付の侍女の一人が泣き出したお妃さまを慰めながら椅子に座らせました。
「お妃さま、よく耐えました。お妃さまは何も悪くありませんわ。危険だと分かっている森に自分から入った姫さまが悪いのです。」
「それにあのご子息たちの言いようにも腹が立ちます。いじめられているのはお妃さまの方ですのに。公爵家のパーティに着ていくはずだった姫さまのドレスは姫さまの侍女が切り裂いたに決まっています。現にその日担当だった侍女はもう城を止めたと聞いてますわ。」
「姫さまがよく言っている庭掃除だってお妃さまの命令なのって言いふらして、実際には掃除をしているって見せかけているだけですのに。本当に上流貴族のお坊ちゃまたちの目は節穴すぎますわ。」
「ああ、でもこのままだとあのバカ子息たちにお妃さまに何するか分かりませんね。」
「護衛が必要ですが、この城の男は信用できません。お恥ずかしながら騎士である私の兄も姫さまの戯言を信じて聞く耳持たないのです。」
「私の所も似たようなものです。」
「お恥ずかしながら、私の所も同様です。」
お妃さま付の侍女たちは、会話をはさみながらテキパキとお妃さまのお世話をしていきます。涙をふくハンカチを渡し、背中をさすり、心が落ち着くハーブティーをお妃さまの前に出しました。お妃さまは思いっきり泣いた後に、ゆっくりと少し冷めてしまったハーブティーを飲みました。
「ありがとう。大分落ち着いたわ。手間をかけてごめんなさいね。」
「いいえ、お妃さま。これが私たちの仕事ですから。それに私たちはお妃さまのお世話ができて本当に居れしいのです。」
「それでお妃さまを私たちでお守りしたいと思うのです。ですが、魔法での防御も私たちの力では限界があります。本来なら騎士を付けるのが手っ取り早いのですがこの城の男は誰一人として信用できません。もちろん王さまもです。」
「あんなエロ爺は最も信用できません。脅して親子ほど年の離れたお妃さまを自分の嫁にしたような男です。何を要求されるか分かったものではありません。」
妃になる前からお妃さまに仕えている侍女が、怒りをあらわにテーブルを叩きました。他の侍女たちも同意するかのように頷きます。王さまの妃は確かにお妃さまだけですが、王さまの部屋には侍女ではない美しい女性が何人も出入りしていることは周知の事実なのです。お妃さまは好きで妃になったわけではないので、逆に安心していました。
「それでお妃さま、誰か信用できる腕の立つ者を知っておりませんか?」
「ごめんなさい。白雪のせいで私は男性の方には嫌われているみたいで、親しい方はいないわ。」
「では、いつもお茶しに行く方のつてでどなたかいらっしゃらないのですか?」
「それは難しいと思うわ。茶飲み友達のあの方は人ではないもの。」
「えっ!ひ、人ではないとはどういうことですかっ!」
「自分のことをあまり話さない方だからはっきりとは言えないのだけれど、おそらく精霊の類ではないかと思うの。鏡の中にずっといるの。顔は絶対に見えないのだけれどね。」
「お妃さま、そのような怪しいものとお茶をしていたのですかっ!」
「確かに怪しい風貌だけど、優しい方よ。」
嬉しそうに鏡のことを話すお妃さまに侍女たちは何も言えませんでした。けれど、侍女たちはお互いの目を合わせて強く頷きあいました。お妃さま付の侍女たちはお妃さまのことがとても大切だったのです。お妃さまを怪しいものに近付けたくないと思うのは当然のことだったのです。
侍女たちはお妃さまが寝てしまった後、三人がお妃さまから聞き出した鏡のある物置へと向かいました。各々の手には金づちやのこぎり、釘抜きなどを持っています。侍女たちは得体のしれない鏡を破壊してしまおうと考えたのです。
城の誰も来ないような屋根裏の物置に鏡は置かれていました。人の全身を映せるほど大きな鏡は女の力では無理そうでした。大きさもそうですが鏡の周りの装飾も見事なもので、壊すのがもったいないほどでした。
「壊すのをためらうほどに高価そうな鏡だわ。」
「でも、これで間違いないのよね?」
「お妃さまが言っていた鏡の精は見当たらないわね。」
「おや、君たちはお妃さまの侍女かい?」
「「「きゃあああああああああぁぁぁぁっっ!!!!!」」」
鏡が侍女たちに声をかけると侍女たちは叫び声をあげました。そして、驚いた拍子に手に持っていた道具を鏡に向かって投げつけてしまったのです。
ガッシャーーーーンッ!
当然鏡は大きな音を立てて割れてしまいました。我に返った侍女の一人が慌てて駆け寄りましたが、割れてしまった鏡の中にはチラリと見えた人影は全くありませんでした。元に戻らないかと割れた鏡を手分けして元の形に並べてみましたが、戻るはずもありませんでした。
侍女たちは本当に壊すつもりはなかったのです。お妃さまに害があるのであればためらいなく壊すつもりではありましたが、害がなければ忠告だけで済ますつもりだったのです。ですが実際には、鏡を割ってしまいました。侍女たちは明日、お妃さまがどのような顔をするか想像して泣きたくなりました。