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優しい死神  作者: ミナセ
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06:異界にて




「失礼しましたー」


 仕事を終えた光希は上司に報告を入れて、今日の仕事を終えた。

 この後は明日の朝まで仕事は入っていない。

 折角時間が空いたのだから、どこかに行くか、のんびりするか。

 取りあえず空腹を満たすために街に出てから考えようと日が傾いてオレンジ色に染められた街並みを目に映した。


 ここは光希達、死神が暮らす世界。

 明確な名前はなかった。

 ただ人間の世界では黄泉の国、冥土、冥府、あの世などと言われているような世界だった。

 様々な呼び名はあるが、意味は全て同じ、死者が辿りつく世界。

 ただここの住人達は人間界とも天国とも地獄とも違う異なる世界ということで異界と呼んでいた。

 亡くなってから四十九日の間と、異界に送られたものの強い未練を抱いて行き先を失くしてしまった魂はここで暮らすことになる。


 ここで少しずつ忘れていくのだ。

 ゆっくり、ゆっくりと。

 未練を。

 傷を。

 人によってその長さはバラバラ。

 この世界で未練を晴らして先に進むものもいれば、未練を晴らしても自分の意思で残り続けるものもいる。

 死神になるのも一つの道だ。


 この世界は人間界と何ら変わらない、人間界を忘れる為に作られた、人間界ととても良く似た世界。

 多くの者が人間界ではできなかった事をこの世界で成そうとしている。

 だからこそ、人々の生活は活気にみち溢れていた。

 通りには店が並び、人々が行き交う。

 そこに生活がある。

 人はここで傷を癒して未練を断ち切る。

 この異界を光希は気に入っていた。

 そして死神という仕事も。

 最初は人間界と異界を自由に行き来できるから、そんな理由で死神の道を選んだが、思っていた以上に光希はこの仕事に向いていたらしい。


「つーきしーろせーんぱーい」

 揶揄いを存分に含んだ声に光希が嫌そうな表情を浮かべて振り返ると、そこにいたのは伊藤だった。

「ちょっと、先輩とか呼ぶのやめてくれる」

「なんだよ、折角立ててるのに」

「立ててるように見えないから言ってるんだよ。琴美ちゃんの姿が見えないけど、もう仕事終わったの?」

「ああ。仕事が終わって報告に行ったら琴美にだけ話があるとかで俺だけ先に上がった」


 いつも仕事場で会う時は伊藤の隣には必ずと言って良い程、相棒である琴美がいるのだが今日はその姿が見当たらない。

 そんな光希に伊藤は肩をすくめながら答えた。


「そろそろ新人教育が終わりだからかもね。続けられそう?」

「ああ。人間界とも行き来できるし、琴美もいいヤツだしな」

自分と同じ理由を挙げた伊藤に光希は小さく笑う。

「まあ、俺から見ても伊藤ちゃんは向いてると思うよ。この仕事」

「そう言えば光希は俺が死神になって再会した時、驚かなかったよな」

「まあね。長年死神やってると、死神になりたいって奴のことはわかることもあるからね。それに一瞬の隙をついて、俺から逃げるだけの狡さも速さもあったから素質は十分だと思ってたんだよね」

「研修を受けて初めて知ったよ。死神は基本的に二人で一組として動くんだな。光希は一人で俺の所に来たから知らなかった」

「……まあね」

できれば触れられたくない話題だった。

一言で片づけるなら面倒。

光希はこれ以上伊藤が深く突っ込んでくる前に話を切り上げてしまおうとした。

だが。


「なあ。なんで光希は一人なんだ?」

「……優秀だからだよ」

「へえ?」

 全く実感の籠っていない声に光希は確信した。


「何があったのか知ってて言ってるでしょ」

「聞いたぜ? 前の相棒とは最強コンビの名を欲しいままにしていたんだろ? その相棒が一時的に新人の面倒を見て、そのまま二人で組むことになったから光希は一人になったんだろ?」

「そうそう。新人ちゃんに譲ったの」

 半ば自棄になりながら答える光希の言葉に伊藤は皮肉気に笑った。

「光希の面倒はもう見きれないって相棒が言ったらしいな?」

「いいんだよ。俺はデキる男だから一人でも!」

「一人でいるから、俺みたいなのに当たった時に手こずるんだろ」

「手こずらせてくれた本人が言うセリフじゃないね」


 伊藤への仕返しとばかりに光希は言い返したが、伊藤の態度が変わる事はなかった。

 初めて会った時からも感じていたことだったが、伊藤は中々にいい性格をしている。それも、ふてぶてしい方向に。

 光希は首の後ろを右手で触りながら、これ見よがしに溜息をついた。


「新人教育中のひよっ子だっていうのに随分と情報通じゃない。情報屋にでも転職するつもり?」

「お前、結構派手だからな。良くも悪くも。俺の魂を狩ったのは光希だって言っただけだよ。そうしたら皆面白いように色んな話を聞かせてくれた。大変だな? 有名人も」

「全く……どうせ噂になるなら、光希さんカッコイイ、とか光希さん素敵っていう方がいいんだけどな」

「光希は相棒は作らないのか」

「うーん。気心が知れた相手じゃないとやりにくいからね。相棒にはならないけどいっそ使い魔でも造ろうかなって思ってる。助手としてね」

「使い魔なんて造れるのか?」

「俺くらいになればね。媒体に主に選ばれるのは動物だけど、人型も取れるような能力を持たせるくらいならできるよ。あ、そうだ。その力で人型の時にあの子似た子になるように造るってのもアリかもしれないねっ!」


 途中から何かおかしなことを異様に目をキラキラとさせながら話し始める光希に同意を求められても、そもそも伊藤は『あの子』が誰なのかも知らないし、その誰かに似せた使い魔を造るというのも、ちょっとどころじゃなく、かなりまずいのではないだろうか。

「なんか……すまん。聞いた俺が悪かった……」

「うん。俺も、なんかゴメン……あ、そうだ。あの子で思いだした。タマちゃんが伊藤ちゃんに会いたいってさ」


 いつの間にか話がすり替えられているが、伊藤が驚くべき所はそこではない。

 もっと驚くべき所がある。

 光希と伊藤に共通の知り合いは少ない。

 その中にたまと付くのは一人しか思い当たらなかった。


「タマちゃんってまさか」

「そう。そのまさか。伊藤ちゃんがイタズラしてくれた、あの環さん」

「なんで」

 普通の人間には死神は見えないはずだ。

 伊藤の表情が一瞬にして驚きと戸惑いの色を浮かべる様を見て、自分も環を見た時にこんな顔をしていたのかと思いながら、光希は伊藤を見た。


「まあ、普通はなんでって思うよね。これはただの予測だけど。伊藤ちゃんの影響かなって思ってる」

「……ああ」


 伊藤という別人の魂が入ったのだ。

 環に何が起きても不思議ではない。

 そしてこの後に何が起きてもその原因は伊藤にあるだろう。

 自分の行動が環に影響を与えてしまったことに伊藤の中で罪悪感が生まれる。


「別に責めてるわけじゃないよ。ただ、タマちゃんが会いたいって言ってたから伝えただけ。時間があるなら今度会ってみる?」

「ああ、行くよ」

「こんなケースは俺も初めてだし、色々資料もないか探したけど、似た案件もなかった。だからタマちゃんに異変が起きる心配がないか、たまに様子を見に行くことになってるんだ。いつ会うって約束してるわけでもないから仕事次第って所なんだけど。次は来週あたりを考えてるんだけど、行けそう?」

「来週は、日にもよるが遅れてなら行けるだろうな」

「わかった。また連絡する」


 そう言って光希と別れて歩き出した伊藤だったが、その足が突然ピタリと止まった。

「んっ? もしかして環に似た使い魔を造りたいって言ってたのか……? いや、俺は何も聞かなかった」

 いよいよもって光希の発言の何が危険なのかが垣間見た伊藤は、気付かなかった振りを決め込んだ。



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