イロヅキルート 白百合の君
どうしよう――――
選んでもしぬだけだし、一体どうしたら逃げられるんだろう。
「アははは~!!」
突然誰かがフワフワと上から、笑いながら降りてきた。
「誰だ!」
「…どこかで見た覚えがあります」
「……」
「もしかして彼女が描いた変な格好のヤツ?」
降りてきたのはピエロのような格好をした男。
私が意識を失ったのも、こいつが原因のはずだ。
「丁度よかった!!私貴方のせいで大変なんだから!!元の世界に返してよ!!」
「エ?ヤだよ~ダって、キミがココにいるの、ボクのせいじゃないもん」
断られるのはともかく、異世界に来た理由が彼のせいではないなんて、予想もしていなかった。
「ボクはアくまで迎えにキただけなんだ~
…呼ばれたんだよ君は」
「どうして…コンクールはもうすぐなのに!!」
「アははは!ここはイセカイ!ならムコウとはジカンもチガウんじゃないかなあ~!」
「そっか…!じゃあ戻ったときにはまだ間に合うかも!?」
「いつまでくだらない会話を待たねばならん」
痺れをきらしたスピードが、私に声をかけた。
「ボクはイロヅキ、ホンライならボクってキミをコロすヤクなんだよ形子」
「なんで私の名前…それよりあんたも私を殺すつもり!?」
「マ、そうだったけど~キがカワッタからタスケテあげるよ~
コのままじゃキミ、ボクにコロサレるマエにシんじゃうし~」
「もうなんでもいいから助けて!」
とにかく生きるためにはこの場を回避しないと。
「ジャ、さようならフォーズ!!」
イロヅキが私を浮かせ、4人のキング等から逃げた。
「あのさ、ここどこなの?」
「白の国・カラーレスだよ~」
飛び上がるイロヅキの帽子がピョコピョコと揺れておもしろい。
「ふーん……何も色がないんだ」
見れば、あたりは全面真っ白で、建物のラインがあるのか、よく目をこらさないとわからない。
ただ、カラフルな彼の服がよくハえるのは確かだ。
「チいさなコヤだけどクつろいで」
白すぎてなんだか落ち着けない。
どう元の世界へ帰るかを考えている。
とつぜんイロヅキがさくさくと、音を立て、何かと思って見た。
まるい煎餅のようなものを食べていた。
「……なに食べてるの?」
「ライスセンペイ」
異世界でも煎餅があるんだ。
「…なんで?」
「ウまいから」
メルヘンのカケラもないよこのピエロ。
「私、どうしたら帰れるの」
「サあ?」
私は寝付けなくて外に出た。
夜だけど、建物が白いせいか、少し明るく感じる。
知らない青年が近くをうろついていた。
彼の周りだけ、ぼんやり明るくて姿が見える。
髪色はわからないけど。綺麗に切り揃えられ、首半分までかかる長さ。
「貴方もこの世界の住民よね?」
彼は兵のような無機物ともちがう。存在感が4王と同じくらいある。
そのため気がつくと、声をかけていた。
「……」
青年は何も答えずに姿を消した。
話せないのか、話さないのか。
起きていても退屈だ。もう寝よう。
「おハヨウ~」
「うん、おはよう」
朝っぱらからドキツいメイクの男が近くにいる。
そういえばイロヅキはどこで寝ていたんだろう。
……別の部屋の寝具だろうけど、あまり眠っている姿を想像できない。
「ねえイロヅキって、睫毛長いよね」
「モッテルからねぇ」
いつの間にピエロ化粧したんだろ。
色々塗ってから起こしたんだって考えると、ちょっとお嫁さんみたいで笑っちゃう。
部屋をまわっていると、本棚を見つけた。
そのなかで白い表紙の本は一際目立っている。手にとって読んでみた。
〔あるところに雨にうたれ、今にも折れてしまいそうな白百合の花がありました。
傘をさして雨の中を歩く一人の少女は、その花に傘をあげました。
白百合は少女に感謝の心を持っていました。
あるときそれを妬んだ黒薔薇は、彼を道連れに暗い深淵へ落ちたのです。
白百合はそこでふたたび少女と再開します。
けれども深淵の闇に、心を黒くした白百合は少女を幾度となく殺していきました。
白百合は今日も咲いています。
いつか少女と救われる日を夢みて――――――〕
「……意外」
イロヅキってこういう本読むんだ。
――――――――――
「あいつ……自分の役目、忘れてるんじゃないのか……」
黒服の男は呟いた。
「彼女が4人のうち誰かを選ばなければ……」
「このままでは我々は共倒れだ」
「君たち、いい話があるんだ」
―――――――――――
「イロヅキっていつ寝てるの?」
「?」
べつの部屋を探したとき、ベッドは全部屋合わせて一つしかなかった。
「シラナイヨ~いつのまにかオキテルんだもん」
――――なんだか外が騒がしい。
「……!」
イロヅキがカマを手にした。
「なに?」
「来る……邪魔なやつらが……」
「もしかして……」
4人の王が―――――?




