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スピードendA 死と知

しばらくして、去ったと思っていたスピードがこちらにやってきた。


「それで好きなところを刺せ」

鋭利な刃物を床に投げ捨てた。


「……!」

「ここにも向こうにも……たいした未練はないからな」

嘘だってわかる。本心でないことが。


「―――ねえ、私は帰らなくてもいいよ」

「……なぜだ?」


「もうギリギリなんだろうけど、不思議とね。

冷静に考えられるようになったんだ」



「なにそれ困るよ」

「―――モノクロ!?」


いきなり斧をもった黒い服の青年・モノクロが現れる。


「なにかは知らんが、奴は危険だ。逃げるぞ!」

「うん!」


「待てよ!!」

ガガガ”斧を横に降りながら走るモノクロ。


―――壁が次々崩壊していく。


「おーいつめたー」


大斧をこちらになげられる。


――――絶対絶命。


スピードが私の前に出た。


「いやー!」



ガキィイン”何かの壊れる音と共に斧が弾かれた。


「……イロヅキ?」


壊れた鎌が床に落ちる。


「青の王……形子、もう時間がない!元の世界へ帰るんだ!」



暗い穴に、私とスピードが落ちていく。

――――――――――



『この人がお前の新しいお母さんだよ』

『なに言ってるんだよ父さん、その人メイドじゃないか――なんで母さんが出ていかなくちゃならなかったんだ!』


『そうだね。でも父さんはこの人を愛しているんだ。そして母さんも―――』

――――――――――


いまのはスピードの過去?


「スピード。なにしてるの、いこうよ」

「……ここにのこる。お前ははやくいけ」


「ねえ、一緒に帰ろう? 」

「あちらに戻っても、いるのはクズだけだ。それならここで消えるのも悪くないだろう」


「―――死んだって貴方のお母さんは帰ってこないよ。会いたいなら向こうできっと会えるよ」


「まるで駄々をこねるガキ扱いだな。別に母のけとはもう関係ない」

「じゃあなに?」


「さあな、自分にもなにがしたいのかわからない」


「あ、わかった」

「……なにを」


「あっちに誰もいないから寂しいんでしょ?」

「……そうかもしれないな」


「大丈夫、私がそばにいてあげるって……友達として」


私がスピードに手を伸ばすと彼も伸ばし、それをとった。


私達は万華鏡のように青白く光って、狂うプリズムの空間を抜ける。


あまりの眩しさに、目をつむった。


「……帰ってこられたの?」

「ああ、そうみたいだな」

―――――――


「優勝は【薔薇】を作った色無形子さん!」


「おめでとー」


友人たちが祝福してくれている。


「おめでとう」

スピードの服が、ブレザー型の学生服になっている。


「ねえ、あれ制服ってあの有名な私立高だよね?」

「どうやって近づいたのよ形子!」

友人たちがヒソヒソと話している。


スピードって本当にお坊っちゃまだったんだ。

――――



「会はもう終わったんだろう?」

「うん」


「なら家の青薔薇を観にこないか」

「みたい!」



「青薔薇の花言葉は―――」

「知ってるよ“ありえない”“不可能”でしょ?」


「だが“奇跡”というのもある」

「そのまま帰ってこられたのも奇跡みたいなものなんだもんね……」


彼は一度死んであの世界で生きていた。

だけど、いまここに生きているのは――――――



神の祝福なんだろうね。

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