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アルハードルート 彼の素顔は

アルハードを選んだ私は、地下にある牢屋に閉じ込められた。


準備が終わるまでここでじっと待つことになる。


立て付けの悪そうな木製ドアが開かれ、キィと音がした。


カツりカツりとヒールのような靴音が響く。


―――地下ってこんなに、恐怖を煽られるものなんだ。


「起きていますか?」

「はい」


暗くて顔が見えないが、声とシルエットはアルハード。


「死にたくありませんか?」

「それはもちろん!」


これからコンクールがあるのに、簡単に死ぬなんてできるわけない。



「私の要求をのみ次第、処刑を取り消してもいいんですよ」

「え?」


思いがけないことに、少しだけ期待してしまった。



「貴女は私を選んだ時点で、他の王のはあずかり知らぬところにある」

「あ…」

アルハードさえなんとか説き伏せれば、私は死ななくてすむ。


「嬉しいですか?」

私が歓喜し始める。アルハードは笑っている様子。


「その要求ってなに?」


「……私は丁度、玩具がほしかったんです」


挿絵(By みてみん)


私はアルハードの条件を受け入れることで助かった。


それはいいとして、その条件が――――――



「私なんでミノムシみたいに吊るされてるの~!」


いま、私はロープでグルグル巻き、天井から吊し上げ状態。


アルハードがそんなに酷いヤツだったなんて、嫌な夢だ。


死ぬよりはマシだけど、早く帰りたい。


――――でも、異世界で死んでも元の世界で死んだことにはならないんじゃないかな。


でも身体はここにあるから、そんな理屈通らないか――――


あ、これが夢って可能性もあるよね。



「気分はいかがですか?」

「最悪」


「なぜ、助けてと言わないのです?」

「べつに、言ってもしかたないし」


どうせ私はまだ帰れない。

ロープに吊るされていてもいなくてもだ。


どうやってここに来たのかさえわかっていない。


ゲートらしいものが開くのか、何か条件でもあるのか

―――



―――処刑も回避したことだ。

今度はアルハードから逃げないと。



私はなんとか自力で縄をほどくと、がら空きの城から飛び出した。



異世界で最初にいた森へいく。

あとは身を隠すには森が一番だという理由もある。



私はさっそく森の散策を始めた。


そこら一帯はただ草木が生えているだけで、生き物はいないようだ。



毒のある害虫や暴れた獣の心配がないのはいいけど、ちょっとつまらない。



「ヒサシブリ!」

「あんた……!」


あのときのふたりぐみのピエロのほうだ。



「ねえシンニュウシャ、ヒトリでイルトキにドウケシにミツカルなんて

とてもオソロシイことがマッテルよ!」


「なにいってんの、そんなのどうでもいいから

早く元の世界…家に返して!」


「ドウでもヨクナイよ?このセカイでキミのヤッタコトは、ゲンジツにもエイキョウするんだ~」


「は?」


私がこの世界で、やったことなんてとくに無い。


たとえば私が怪我をしたら、元の世界に帰ったとき、怪我がそのまま残る。


そういうことだろうか?


「キミがコノセカイをナオサナイとゲンジツのセカイもコワレタまま、なんだよ~」


「……意味、わかんない。なんで私なの?他の人がこの世界を直したらいいのに!」


「どうしてもイヤ?」

「嫌」


私が強く拒否すると、ピエロは微笑んだ。


「――――そっか、じゃあ仕方無いね」


ピエロの手から瞬時に鎌が現れた。


それが私にふりおろされた――――


避けられない。


―――私、死んじゃうんだ。


鋭い刃が、頭上に迫ったとき、諦めから目を閉じた。


――――ガン”



鉄が何かにぶつかる音がした。


目を開けたとき、鎌は遠くへ飛んで、木にぶつかってころげ落ちた。


「危ないところでしたね」


カツりと音がする。振り上げていた足を下ろしたからだ。


どうやら彼が、ピエロの鎌を足で蹴り飛ばしたらしい。


靴には斧のような刃がついている。

いわばスケート靴のようなものだ。


牢で聞いた靴の音はこれだったのか。


そんなことより――――


「どうしてここにいるのアルハード」


「それはこちらの台詞です……」


アルハードは眉を潜めて、とても怒っている。


「ご……ごめん、勝手に逃げて。」


きっと私が逃げてきたから腹を立てているだろう。


「そうではなく……」


アルハードが急に黙ってしまった。


「アハハハ……!」


沈黙をかき消すように、ピエロが笑う。恐ろしく。


「まだやりますか?」


アルハードがフトコロから持ち手のないナイフのような刃物を取り出した。


「ハハハ……ボクはイロヅキ…マタネ…異端者…」


ピエロは、姿を消した。




私またアルハードの城にお世話になったわけだけど――――――――



「気分はどうですか」

「最悪」


スゴロクでイチマス戻ったかのように、天井から吊るされている。


アルハードはニコニコ、いっそすがすがしいほど、爽やかな笑顔を浮かべている。


なぜアルハードはわたしを天井から吊るすのだろう。


ミノミシのようにぐるぐる回るだけで、どう楽しいのかさっぱりわからない。


―――ピエロに攻撃してたときは今より楽しそうだった。



意外と好戦的なのかな。

あんな物騒な靴はいてるくらいだし。


ようやく天井吊るしから解放されたので、アルハードの弱味でも握ろうといろんな部屋を物色する。


本棚に本がまったくない。


アルハード、最初に会ったときは静かに本を読みそうな印象だったのに。


だが本棚の上に、一冊の赤い本がおいてある。


棚の中には本がないので足をかけやすい。

よじのぼり、それをとった。


栞のページを開いてみる。



【赤にまみれた少年】


[ある少年は親に捨てられ、独りで生きていた

少年が生きるのは、影の世界、光などない

少年が街へ出ると、通りがかりに旅人が、愛とはなにか、物語を説いて、人々はそれをただ聴く

愛など知らない少年は、今日も赤き、血をまとう]



この物語は終わった。

次のページ、前のページは白紙だった。



見てはいけないものを見た気分になり、本を元の場所へ戻して、部屋を出た。



私は暇でしかたなく、城内の廊下をウロウロと歩いていた。


城なのにメイドや兵士の姿が見当たらない。


ここには彼と私がしかいないみたいだ。

食事は出るから不思議。


適当に開けた一室で、アルハードがハートモチーフのソファに、うつ伏せになって、スヤスヤと眠っていた。


吊るされた仕返しに寝顔でも見てやろう。


ゆっくり、そっと髪をよけて、頬に触れる。


――――――冷たい。


ねんのため手に触れるが、人形のような冷たさだ。


「――――?」


アルハードが目を覚ましたようだ。


「お……おはよう」


アルハードがまた眠った。


いても仕方ないので、去ろうとすると、手をつかまれた。



そのまま腕をひかれる。


それを私は――――――


「からかうなら天井だけにしてよね。まったく」


私は彼をまともに取り合わず。

別の部屋に移動して仮眠をとった。


「いま何時だろう……」

ここが異世界だということも忘れ、つい時計を探してしまう。



「おはようアルハード」

「おはよう、今日も代わり映えしないですね」


なんだか鼻で笑われたような。


「なにそれ、喧嘩売ってるの?」

「まさか、この世界ではこれが挨拶ですよ」


んなわけない。世界じゃなくて、この城限定でしょ。


「まったく、昨日は驚いたよ」

「昨日?」


「アルハードがソファで寝てて……」

「妄想ですか? 私は寝ていませんよ」


「え?」


あれは夢だったのかな。



「ソファで私が寝ていて、貴女が何か困るようなことが?」

「べつに無いよ!?」


夢ということにしておこう。



「はあ、早く帰りたいなあ」

「……異端者」


背後から誰かが声をかけてきた。

一瞬イロヅキかと思ったが、あいつはこんな低い声じゃない。



「久しぶり」


振り向くと、黒い衣服の男がいた。

たぶんあのときイロヅキといっしょにいたやつだ。


「なんなの、私に何かよう?」


まさかイロヅキと同じように、私を殺すつもりなんだろうか。


「あなた、私を殺す気?」

「いいや俺はイロヅキとは違って君は消さないよ」


饒舌。息継ぎもなく一気にこたえがかえってきた。


「じゃあさ、なんで私の前に現れたの」

「正確には後ろだけど君に用があったわけじゃないよ」


「そう、じゃあアルハード?」

「いまはそうなるね」


「どういうこと?」

「君がアルハードのところにいるなら俺が会うのも彼だ」


「じゃあ、私イロヅキに会いにいっちゃうおうかな~」

「ならついていく」


「冗談なんだけど。会いたくないよ、あんな殺人ピエロ」

「だろうね」

――――――――――



『……うわああ!』

『命だけは助けてくれ!』


『そういうわけにはいかない。これは仕事だから』


しかしこれは主のためではない。


自分が生きるためなら、他者を死なせてもいとわない。



敵や仲間が入り交じり死んで行った。


いいや初めから仲間も敵も私にはなかった。


今までもこれからも、頼れるのは自分だけだ。




「あれは……」


見知らぬ者が形子と話している。



「……なぜだろう」


この世界で人型が死ぬことはないのに、殺してやりたくなる。


ふみとどまり、彼等を祝福すべきだろう。


そうだ。優しさや愛など私には不相応。


形子が誰と話そうが、私の知るところではない。


モノクロという男はアルハードに会いたがっているようだ。

それに元々城の中に入るつもりだったし、連れていくことにした。


「じゃあ私、グラタン食べるから――――」

私に用はないようだから、去ろうとした。

けれどすかさずモノクロが左手で私の右腕をつかんだ。


逃がさないために強めたというより、わざと痛め付けるようにとても強い力。


「え?」


――アルハードに用があるんじゃないの?


モノクロは涼しい顔で両刃斧を右手に持つ。

彼があるくたび刃がガリガリガリとと地面に傷を作る。


「だめだよ`君がちゃんと見ていないと」


モノクロが今から何をやるか、察しがついてしまった。


アルハードをその手にある斧で殺すつもりなんだ。


「放して!」

「抵抗するならイロヅキを呼んで先に君を殺してもらうからいいよ」


「な……」


「けれど絶えかけ君を2等王に渡しても意味はないんだ」


やばい。冷静な顔をしているけど、本気で私を殺す気のある目だった。


だけど、こいつは私を殺せるはずなのに、なんでイロヅキを呼ぶ必要があるの。


脅したいなら斧をかざされれば私は黙ってたのに、それをしないってことは、モノクロには私を殺せない理由があるんだ。


「―――私をはなさなくてもいいけど、アルハードの所になんていかせないから」


そういうことなら逃げない。

こんな危ない武器を持った奴をアルハードに会わせたら大変なことになる。

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