アルハードendA 愛と金
「なにをやっているんですか?」
―――アルハードが来てしまった。
「―――ちょうどいい」
モノクロは笑った。私を突き飛ばすと、斧を振りかぶる。
「……なんの真似ですか?」
アルハードは乾いた声で、モノクロに問う。
「赤の王―――お前はこの女が好きか?」
「なにを言うかと思えば、くだらない……私と彼女はたいして親睦を深めてはいませんが?」
「この女が元世界に帰る方法はお前の死だ
お前はこいつのため死ねるのか?」
「月並みで陳腐な質問ですね。馬鹿馬鹿しい……」
「そうか―――なら――
――殺してもいいだろ?」
モノクロは憎しみを込めた眼差しで、私をにらんだ。
―――私が彼になにをしたっていうのだろう?
ぎゅっと目をつむると、家族や友達の姿が浮かぶ。
「ちっ―――やっぱり邪魔が入ったか」
「好きとは言っていませんが、殺しても良いとも言っていません――から!」
斧の刃を蹴り飛ばしてから、アルハードはモノクロの腕を二度殴る。
さすがに腕が使えなくなったのか、モノクロは斧を放置してよろめきながら去った。
「ありがとう……」
彼にはまた助けられた。
「感謝の言葉は要りません。……謝罪の言葉がほしいところです」
「そこ普通は逆でしょ!」
アルハードが神妙な顔をして、こちらを見ている。
「お前のことを大して必要とも感じていないと、そう考えていたつもりですが――――」
「?」
「私は存外……形子。お前のことを気に入っていたようです」
彼はそういってナイフをとりだすと、止める間もなく心臓を貫いた。
「アルハード!!」
「心臓を…突いたら――すぐに絶えると……思っていましたが…意外と意識はあるんですね……」
「どうしよう……なんでここ病院ないの!!」
「――――お前は元の世界へ帰りなさい」
「死んじゃだめだよ……傍にいてよ!帰れなくていいから―――!」
―――涙が流れる。空間が壊れ、真っ暗な穴へ落ちていった。
―――――――
『オレもう長くないみたいだ。もうすぐしたらこの心臓、アニキにやるよ』
『なに馬鹿なこと言ってるんだ。きっと奇跡がおきて病も治るさ』
『――オレに奇跡なんておきそうにないな』
『ほら彼女からの電話がなってるぞ』
『……おう』
『弟さんの容態なんですがね。もって二日くらいです』
『……なんとかならないんですか?』
『さすがに全身に転移していては、手の施しようがありません』
『そんな……』
『大変です患者さんの容態が悪化しました!!』
『……いつか別れがくるって、わかってたんです。私は彼と出会えて幸せした。さようなら』
『――ああ、さようなら』
『飛び降りだって……』
『まだ若いのに……』
―――――
「私は……生きている……のか?」
「よかった……」
アルハードが意識をとりもどして、ほっとした。
「ごめん悲しいのはアルハードなのに」
アルハードの過去を知って、私は涙が止まらなかった。
「私は死にゆく人を見捨てた罪人。お前に泣いてもらう価値もありません」
アルハードは指で私のまぶたを拭った。
「……あんなことがあったら誰でもこうなるよね。天井から吊るしたりとか」うん。きっとしかたない。
「……お前は何故、せっかくのいい雰囲気をぶち壊すんです?」
アルハードがひきつった笑顔になる。
「いい雰囲気? そんなのいつあった?」
「知りません」
彼は不機嫌そうに眉をしかめた。
「これから私たちどうなるの?」
「おそらく元の世界へ帰るだけでしょう」
「―――また会える?」
「ええ、きっと」
________
「最優秀賞に輝いたのは――【心】をつくった色無形子さんです!」
あれから私は無事に元の世界へかえってこられて、コンクールで優勝した。
「おめでとう形子さん」
「ありがとう」
まさか審査員にアルハードがいるなんて衝撃だった。
____
「アル「しっ……ここでは針屋愛莵<はりやあいと>という名で通っているんですから」
「というかそっちが本当の名前なんでしょ?」
「さあ、どうでしょう?」
「はぐらかさないでよ……」
「受賞祝いへ行きましょう。フレンチの美味しい店を貸し切ってあげます」
「えーさすが大人」
―――心は見えないもの。だから人はそれを知りたがる。




