スピードルート 処刑回避
私はスピードを選んだ。
どうせ死ぬならひとおもいに殺してくれ!!
ガチャリ、手に木製の拘束具をはめられる
私は死刑台へと連行される。
「つまらんな」
スピードは笑みを浮かべ、退屈そうに服の襟を直した。
拘束具が外れ、地面に落ちる。
「もしかして解放してくれるの?」
「気が向いた……丁度退屈していたからな、お前、何か面白いことを披露しろ」
一芸を披露しろと言われても困る。
なにか、ないかと当たりを見回す。
私の世界と同じ形の植物、色が濃い赤、白、黄、青、緑、黒で原色ばかりだ。
私は花を摘んでいいか、スピードに聞いた。
許されて、全部の色の花を一輪ずつ摘んだ。
花ビラをそのあたりに流れる川の水でしめらせ、赤と青、黄色と赤、青と白など、二色の花を組み合わせた。
それを手で練り、絵の具のように新たな色をつくる。
これでダメなら木彫りを作るしかない――――。
「ほう、これまでそんな芸当を観たことはない」
この世界には色があまりない気がする。
もしかしたら、原色しかないのかと思って、混色をやってみてよかった。
「だが、色を作るだけなら、この先誰でもできよう」
たしかに、そうだけど、そう簡単には王様の退屈は紛れないみたい。
「王様、石はある?」
「石…?」
スピードが手より大きい宝石の固まりをふところから取り出して、私に見せる。
「いや普通のでいいんで」
===
「ねえ、スピードは何か好きなものないの?」
「ない」
そんなきっぱりはっきり言わなくても。
「えー好きな形の彫像でも彫ろうと思ったのに…」
「それは明日でいい」
いいのか。
「今何時?」
「向こうに時計があるだろう」
なんで異世界に時計が!?
「あ、10時か…」
明るいし朝の、だよねどう見ても。
でも、ここは異世界だから元の世界とは違うかもだし…
こんなときデジタルならわかりやすいのに。
「そんなに時計を気にして、どうした」
「私、元の世界でコンクールを受けなくちゃいけないの」
せめてこっちに飛ばされるのはコンクールが終わってからにしてもらいたかった。
「なぜ、人はそれぞれ違う考え、感性を持ちながら、審査員はさもそれが皆の総意であると、己の意見が正しいなどと決めつけ、優劣をつけるのか」
人それぞれ好きなものは違う。
なのに、どうして審査員が好きなものが良いものだと決めるのか。
スピードはそう言っている。
「……確かにそうだけど、それを一等キングのあんたが言うの?」
「ああ、本当におかしな事を言ったものだ」
早く家に帰りたい。そうだ――――
ここに来たとき、いたあの場所にいけば、何かわかるかもしれない。
私はこっそり、見つからないように慎重に城を抜け出す。
意外と簡単に着いた。
初めて見る夜の森を、ドキドキしながら歩き進む。
どうやら虫も動物もいなそうだ。
安心して探索を続ける。
「アハハ…ゲームスタートってヤつかなぁ?」
「あなた…」
暗くてよくわからないが、シルエットは十中八九
私がこの世界に来た元凶のピエロだろう。
「丁度よかった!私をこの世界から帰して」
「ソれはデキナイんだ~」
ケラケラと、ピエロは笑う。
「ボクはキミをコロすタメのソンザイなんだ」
まずい―――――
逃げないと。
私は、とにかく走った。
「ふ…もういな……」
「オソカッタね~」
街灯に照らされ、はっきりとうつるピエロ。
その手には、身の丈ほどのカマ。
彼はにっこり、おぞましくほほえんだ。
もう、だめだ――――――
「こんな時間に出歩くとは、愚かな……」
後ろから長いものが延び、空気を切る音を立て、ピエロのカマの持ち手に巻き付けられた。
「スピード!!」
「チ…ジャマシヤガッテ……」
ピエロは悔しげに、それでも笑顔のままに、武器ごと消えた。
「えっと…助けてくれてありがとう!」
お礼を言うと、スピードは真顔になった。
怒られると思ったら。
「なにをしている。早く明日に備えろ」
そういえば明日はスピードを何かで感動させないといけないんだった。
「…怒らないの?」
「はあ……」
ため息をつかれ、呆れられた。
「怒りの感情は我にはない」
めちゃくちゃありそうに見えるんだけど。
まるで怒りだけ無いみたいな口ぶりだけど、どういうことなんだろう。
今日はスピードに彫像を作ろうと思う。
「なにか好きなものないの」
「またか」
スピードが何を好きか、知らないと彫像は作れない。
だから聞いているのに、無いの一点張りで困る。
「強いて上げるならば」
「うん……なに?」
スピードは、なぜかじっと私の方を見ている。
なにか顔についてるの―――?
それにしても本当、絵に描いたみたいに、きれいな顔してるな――――
「あれだ」
彼が指をさしたので、後ろをふりむく。
そこには青い花があった。
「ああ、そっち……」
私ったらそれ以外に、なんだと思ってたんだろ。
答えられないみたいだから調べよう。
まずはスピードの身近な場所から調査する。
部屋は流石に躊躇われたので書斎と書かれた部屋に入った。
普通に本、机、椅子、窓がある。
机の上に、一冊の青い本がおいてあった。
どんな本を読んでいるのか気になり、栞のページを開く。
いくつもの章がある短編集のようだ。
【青薔薇屋敷】
[むかしむかし、とても美しい青薔薇の咲く、大きなお屋敷がありました
そこに住むのは幸せな一家
誠実な父親、穏和な母親、無邪気な子供
すべてが幻想のように、揃った家庭でした
けれど、少年が17になった頃、青薔薇屋敷は失くなりました]
この物語はここで終わった。
なんで、屋敷がなくなったのか、次のページをめくるも、理由は書かれていない。
とりあえずスピードの好きなものはわかった。
きっとあれに違いない。
スピードのところへ向かう途中、嫌な感じがして、後ろを振り返る。
「カギはミツケタ?」
「ピエロ……!」
こいつ、忘れた頃にまた現れた。
「イロヅキだよ~」
「どうでもいいよ!」
とにかく、逃げないと。
「……。もうコロさないからアンシンしてよ」
「は?」
どういうことだろう。
「モトのセカイにカエルホウホウ、シリタイ?」
「あたりまえでしょ!」
こいつ…イロヅキだっけ、やっぱりなにか知ってるのかな。
「スペクタクルの王の正体を、その心を暴いてごらん」
とだけ言って、消えてしまった。
「なんだったのあいつ…」
とにかく、はやくいかないと。
「何を作るのだ」
「できるまで待ってて」
細かすぎて、私の技術ではあれを彫像にするのは無理。
なので、粘土に色をつけることにする。
丁度城に、白い土を粘着性のあるものに変えたものがあった。
細い枝にするもの、葉にするもの、花弁にするものに分け、色を着ける。
スピードは黙ってこちらを視ている。
パーツを組み合わせ、すぐにそれは完成した。
「青い薔薇、これでどう?」
「――――!」
急にスピードが頭をかかえて苦しみ出した。
「どうしたの、大丈夫!?」
一体なぜ――――
「ああ……なぜそれを、好きだと?」
「本でそのページに栞が挟まってたから」
「本などあったのか?」
「うん書斎……」
二人で行ってみると、そこにあったはずの本はなくなっていた。
「あれ、なんで!?」
つい先刻のことなのだが、どうして本は消えたのだろう。
「わ…」
こつりと足に何かがあたる。
拾って確めると、それはなめらかな艶のあるスペードの形をした黒い石。
「ねえスピード……」
さっきまで後ろにいたはずなのに、彼の姿がない。
どこに行ったのだろう。
私は城中を駆け回り、スピードを捜した。
きっと全ての部屋を見た。でも、見つからない。
こうなったら
外に捜しにいこうか、諦めようか、ここで待つか―――――
ふと、私は何かに気がつく。
スペード型の石が、なんだか暖かい。
私の熱を吸収しているというより、自分から発熱している気がする。
「もしかして……」
そんなわけがないと思いながら、石を撫でた。
「スピードなの?」
そう言うと、石にヒビが入った。
あまりの衝撃に石を手放す。
「……」
スピードが目の前に現れた。
―――――――――――
――――いつかの屋敷では、庭園には毎年青い薔薇が美しく咲き、人々が酔いしれた。
今年も薔薇が綺麗に咲いた。
家族三人でそれを見るのが楽しみだった。
『母さん……どうしていなくなっちゃうの?』
『あなたはまだ知らなくていいの、いつかその理由を知るときが来るわ』
『いやだよ……』
『あなたはほんとうに、見た目も態度もお父さんにそっくりね』
笑みを作らせた無機物<ニンギョウ>のように笑う母。
『その人はだれ?』
『……お前の新しいお母さんだよ』
『どうして?』
『母さんはもういないからさ』
『母さんがいないのはどうして?』
『新しい母さんがいるからだよ』
――――――――――――
「あいつのせいで……あいつさえいなければ……」
「スピード?」
―――あいつ、誰のことだろう。
誰がそんなにスピードを苦しめているんだろう。
それを無くしたら、私は元の世界に帰れるのかもしれない。
「それで、あの薔薇は気に入ってくれた?」
うやむやにされていたので、聞いてみる。
「……そうだな、刑罰は放免としよう」
案外あっさりと解放された。
「あれは結局気に入ってくれたの?」
「まだ何か聞きたいと?」
もっとこう、一言くらい感想かなにかないのだろうか。
「ないけど」
「なら去れ」
余計なこと言ってまた振り出しに戻るのは嫌だ。
しかたなく引き下がることにした。
―――――
「元の世界に帰る方法を教えてあげるよ」
イロヅキかと思ったら、違う男だった。
「……誰」
どこかでみたおぼえがある。
「会うのはあれ以来だね俺はモノクロだよ」
そうだ。イロヅキと一緒にいたやつだ。
「モノクロ。さっそくだけど、方法ってなに?」
あるなら勿体振らずに教えてもらいたい。
「ああ教えるよ神は退屈な物語を終わらせて早く君に会いたがっているからね」
物語に神……。
「神なんていたんだ?」
「いなければ君はこの世界に呼ばれることはなかった」
なぜ神が私に会いたいのか、帰れる兆しが見えた今はどうでもいい。
「へえ……それで、帰る方法は?」
「簡単だよ四人の王の中で一番大切な相手を殺す必要があるというだけ」
―――――――――――
彼らの中で、一番大切な相手を殺す――――?
どういうこと、なんで彼等の命を奪うことと、私が元の世界に戻ることに関係があるの。
それに殺すなんて嫌だし、一番大切な相手って所にすごく悪意を感じる。
――――本当にどうしよう。
どうしても誰かを殺さないと帰れないのだろうか?




