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出会い系サイトの女

作者: 豚猫まん

 大学生の信男は、新宿駅で人と待ち合わせをしていた。その相手は明子といい、出会い系サイトで知り合った女である。その明子とは今まではメールのやりとりしかしていない。まだ一度も会った事が無かったのだ。偶然お互い今日何も予定が無い事を知り、会う約束をしたのだった。送って貰った写真の明子は、小顔で目鼻立ちのはっきりした可愛らしい女性であった。楽しみで胸が躍る信男。もうすぐ待ち合わせの時刻だ。

 

 約束の時間。彼女からメールがくる。もう待ち合わせ場所に着いたという内容だった。胸のドキドキが加速する。メールに書いてある通りの服装の女を探す信男。遠くの方にいるそれらしい女性を見かけた。あの人だ!!女性に近づいていく信男。だが、どこかおかしい。服装はメールの通りだが、顔、体型ともに全く写真と違う。


 「信男くん?」


 その女性に声を掛けられた。この人が、あの見目麗しい明子さん!?潰れたようなデカい面に、フーセンみたいに膨らんだ体型。ショートヘアーにも関わらず、ボサボサで汚い髪。ガラガラで、聞いてる方が不安になるような声。鼻水とよだれをダラダラ垂らしながら、不気味な笑顔を浮かべている。違う、こいつは明子さんではない。違うと言ってくれ。


 「じゃあ行こっかー。信男くん写真よりイケメンだねー」


 こいつが明子さんで間違いないというのか。なんだこの写真とのギャップは。なんだここにいるモンスターは。みるみる血の気が引いていく。信男はショックから小便を漏らしていた。


 2人は飲食店の並ぶ通りへと歩いていく。新宿は人が多い。カップルもたくさんいる。だいたいのカップルがお洒落で、髪形や服装に気を遣っている様子が伺える。美男美女も多く、一緒に歩いていく姿はとても楽しそうだ。すると、信男と明子もカップルに見えるのだろうか。明子はいざ知らず、信男はこんなドブス女とカップルになる事なんかまっぴら御免だった。

 

 「じゃ、じゃあここにしようか・・・」


 信男が選んだ店は90分1500円の食べ放題バイキングである。よく食いそうな豚にはこういった所で十分だろう、との目論見だった。すると明子はこういった。


 「アタシここがいいー」


 隣の店を指さす豚女。そこは洒落たイタリアン・レストランであった。こんな高そうなメシお前には勿体無いんだよって言ってやりたかったが、デート中の楽しみである食事を適当に済ますのも失礼なので、仕方なく隣の店に入る事になったのである。

 

 店内はシャンデリア照明が輝く上品な雰囲気だった。人も多すぎず、少なすぎず、デートには最適な場所であった。2人は奥のテーブルに腰掛ける。明子はメニューをパラパラとめくると、おもむろに立ち上がりどこかへ行ってしまった。一息つく信男。せめてここの料理だけでも思いっきり味わおう。信男はこのデート中だけは、出来るだけポジティブに考えるようにしていた。

 そんな事を考えているうちに明子が大量のコップに飲み物を入れて帰ってきた。一つを信男の方に置くと、残りすべてを自分の手前に置く。みんな違う種類のジュースが入っている。


 「ここのドリンクバーってみんな美味しそうだよねー。みんな注いできちゃったー」


 そういって、明子は破竹の勢いで目の前のジュースを飲み始めた。次から次へと空になっていくコップ。そのジュースは半分以上がテーブルにこぼれていて、コップが全て空になった頃には、テーブルには気味の悪い色をした水たまりができていた。信男は明子に気づかれないように下を向き、こっそりとゲロを吐いた。


 しばらくすると料理が運ばれてきた。信男にはグラタン、明子にはスパゲティと肉料理の皿が目の前に置かれる。信男がスプーンを取ろうとした途端、明子は目にも止まらぬ速さでフォークを両手に持ち、すごいスピードでそれぞれの料理を口の中にかきこんでいった。飛び散るソース。テーブルにボトボト落ちる料理。ベチャベチャになっていく口周り。赤ちゃんの食べ方が上品に見えるほど下品な食べ方だ。信男の食欲は塵ほども無くなっていた。それどころか吐き気がしてくる。頭痛もしてきた。信男は静かにスプーンを置いた。

 

 するとその時、突然明子の一切の動きが止まった。その顔は通常時よりも遥かに醜く歪んでいる。こんな時になに顔芸をしているんだ。両手のフォークを落とし、ブルブル震える明子。まさか・・・。


 ブオオエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!ビチャビチャビチャビチャビチャビチャチャチャアアアアアア!!!!!!!

 土砂崩れのように流れ出るゲロ!!!テーブルには嘔吐物のオートミール!!!

 ゴオオエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!

 信男もたまらず吐いた!!ついでに小便と大便を漏らした!!!


 店内には悪臭が漂っている。ほぼ全員の客が席を立ち始めた。信男はもうこの店に訪れる事は2度とないだろう。


 店を出て、新宿駅周辺を歩いていく2人。


 「ねえー、次どこ行こっかー」


 もうどこへも行きたくない。信男は帰る決心をしていた。簡単な事だ。気分が悪くなったと伝えて帰ってしまえばいい。この女も、常識の欠片くらいはあるようだから、気分の悪くなった男をこれ以上付きあわせたりはしないだろう。


 「明子さん、実は僕、気分が悪くなってしまいまして・・・」


 「そうなの?そういえば顔色良くないねー」


 「それで残念だけど、今日はもう解散ということで・・・」


 「あ、ちょっと待って」


 何やら神妙な顔つきになる明子。今度は何を吐き出すつもりなんだ・・・。


 「あのね、今日実際会ってみてね、なんか信男君の事すごくいいなあって思ってさあ。信男君、私と付き合って?」


 ブオエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!ベチャチャチャチャチャチャチャチャチャアアアア!!!!

 信男は滝のようなゲロを吐いた。全身寒気がし、膝が震える。小便とウンコも漏らした。

 何をいうんだ、このモンスターは。こいつと2度と会いたくないが為にウソまでついて離れようとしたというのに。


 「悪いけど、明子さん。ちょっと明子さんとは合わないというか・・・」


 「何で!?アタシのどこが嫌なの?」


 全部だよと言いたいが、2度と会わないと決めた今、別れ際くらいは紳士でいたい。


 「とにかく君とは付き合えない。申し訳ないが、縁が無かったというわけで・・・」


 言い切った。早く消えてくれ。さっさと帰って体を休めたいんだ。美しい女の写真集を見ながら。

 明子は無表情のままいつまで経っても動きを見せない。放っておいて駅まで戻ろうとしたところ、後ろから轟音のような叫び声が聞こえた。


 「なんでよおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!ふじゃけんなあああああああああああああああ!!!!!!!!!」


 脂肪で膨れ上がっている巨体が信男に突っ込んでいく!!そのタックルが直撃する!!信男は3~4メートルも吹っ飛んだ!!!その巨体に似あわぬ超スピードで、仰向けになった信男に跨った明子。その体の重みが信男を苦しめていく。そしてこう叫んだ!!!


 「信男くんが好きなのおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!付き合ってよおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


 明子は無理やり信男の唇を奪おうとする。信男は仰向けのままゲロを吐きながらそれを防いだ。この攻撃だけは喰らってはいけない。もし喰らったら、口から胃、腸まで全て薬品洗浄しなくてはいけなくなる。

 予想以上に激しく抵抗された明子は、信男の体力を奪うため、ゴリラのごときマウントパンチを繰り出す!!ボゴッ!!ボゴッ!!ボゴッ!!鼻血を吹き出し、息も絶え絶えの信男。意識が遠くなっていく。攻撃を防いでいる手がもう上がらない・・・。両手が地面に落ちた信男。その瞬間を見逃さなかった明子!!素早く信男の体に覆いかぶさり、そのまま激しいディープキス!!!!ブチュウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!


 ブチ!!ブチブチブチブチ!!脳の血管が切れていく信男!!!目・鼻・口・耳から噴水のごとく血が噴き出す!!!シャワーの様に噴き出す小便には血が混じり、流れ出る下痢便は血で染まっていた。体の全ての機能が停止した信男。享年19歳。まだ成人すらしていなかった。


 ネットでの出会いは危険を多く含んでいる。いくらでも自分をごまかせるし、相手がどれほど自分に嘘をついているのかもわからない。狭いコミュニティーで知り合い、相手の事をよく知らないまま会うと、こういう悲劇が起こってしまうかもしれない・・・。



   完




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