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片田舎の小さな感情

作者: 灯希


 白い息を吐きながら久しぶりに地元の道を歩いていた。


 自動車の免許は無事取得したのだが、家族や友人からはあまり乗らないほうがいいと忠告されている。自分でもそう思う。乗るときは友人や祖母の車を借りるだけでマイカーも持っていない。稼ぎもそれほどないわけだが。

 それはともかく、帰省するたびにちょろちょろ歩き回る地元はなぜか前より輝きを失って見える。思い出補正かな、とひとりごちるがきっとそれだけではないだろう。それに地元といっても実家から車で30分はかかるそこそこにぎやかな市街地のほうだが、やはり現在一人暮らししている県庁所在地の繁栄ぶりには劣る。通行人は手押し車や犬を引き連れてゆっくり歩くジジババ、背伸びして大人びた格好をした小中学生ばかり。店も集中していない川沿いなので思い出したように車が前後から来るのみである。大学のレポートでは立地と特産物でそこそこ名の知れた地元を引き出すことも多いが、実際にはどこにでもある田舎町だ。

 大きな店と廃れかけの店が点在し、どこそこが道路補正をし、走るバイクの運転手の体格は見覚えがあり、ちょこちょこ小さなイベントがあり。正直青春時代の休日はひきこもることも多かったからいつからこんな風なのかはわからない。だけど気づいたらこんな風になっていた。


 この町が昔はもっと輝いて見えた。世界も人間関係も思考も浅く狭かった幼いころの視界が狭かったからそう見えただけなのだろうか。何も考えずに物心つく前からの幼馴染たちと遊び、部活をし、時々勉強に励んでいた自分自身が輝いていたのだろうか。趣味の悪いことに帰省するたびにアルバムを見返すのが恒例の自分だが、祖父母の代の白黒写真からつい最近(といっても高校時代まで)のカラー写真の中の人々の表情はどれも魅力的に思える。今とはどこか違う姿の町を背景に移る人間。

 いったい何を考えて生きているのだろう。あのとき何を考えていたのだろう。自分ばかりでなく他人のことも気になる思春期特有の病気をこじらせて現在まで引きずっているなと痛感せざるを得ないが、本当にそう思う。ほかの幼馴染たちや年子の妹、年の離れた兄、両親、祖父母、友人、多くの顔見知りたちの目にはこの町はどう映っているのだろうか。


 こんなことを考えてぶらぶらしているから恋人も結婚も縁遠いんだな、と思ってため息をつき、この町唯一の書店に足を踏み入れた。冷えた鼻先に温風を感じほほが緩む。一番最初に目のつくところにあるカレンダー、手帳、次の大河ドラマの特集の台を迂回して雑誌コーナーに向かう。隔地であるため入荷が二、三日遅れるのが常識のこの町では当然だが、目的の新刊はない。しょうがないか、と地元の情報誌を手に取る。新しくできた店や映画評、書評のチェックに余念がなかったが、ふと右隣に気配を感じて視線を横にやる。黒いダウンコートの腕、引き締まったジーパンの足に男物の靴。少し横に足をずらして雑誌に視線を戻して、あれ、と顔を上げた。一瞬見えた左手に見覚えがあった。




「よう、帰ってきてたのか。」




 寒がりのくせにまた薄い格好してるな、と上から降ってきた相変わらずの低い声の持ち主に、再び鼻先が、頬が赤くなるのを感じた。




 ふと思い立って書きました。

 前半の思索に気持ち悪さを感じましたらすみません、田舎かそうでないかに関わらず誰もが自分の育った町に(たぶん)感じるものを連ねました。舞台は作者の地元がモデルです。

 感想や誤字脱字、矛盾点の指摘などお待ちしております。


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