表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶大な力を持っているけれど、やっぱり異世界でカフェを開いてのんびり暮らしたい。  作者: ファースト
Season1

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/16

第4章:癒やしのラテアートとアルテラの令嬢

僕はカウンターの奥でまばたきをしながら立っていた。手には、湯気を立てる『カフェラテ』が入った陶器のカップをまだ持っている。コーヒーの表面に描かれた白いシダの葉の模様は、くっきりと美しいままだ。


先ほどまで温かくアットホームだった店内の空気は、謎の女性の背後に斜めに立つ、銀色の鎧を着た女性騎士から放たれる微かなプレッシャーに取って代わられていた。その騎士の視線は刃のように鋭く、僕と僕の持つコーヒーカップを極度の警戒心で見つめている。


(この服装のレベル……そしてこの純粋な魔力のオーラ……。おまけに王宮や領主様の話まで出た。間違いない、この街のトップVIPが僕の小さなカフェにやって来たんだ)


僕は深呼吸をして気を取り直した。お客さんが誰であろうと、カフェのマスターの仕事は、お客さんを一番幸せにする飲み物を提供することだ。


「疲労回復に効く黒い飲み物のことでしたら……当店でご用意しております」僕はできる限りフレンドリーでリラックスした営業スマイルを浮かべた。「そして偶然にも、今私が手に持っているこのカップが、私が開発したばかりの新メニューなんです。これは『カフェラテ』と言いまして、濃厚なエスプレッソと、きめ細かく泡立てたムーンホーンカウのミルクを合わせたものです……。こちらを召し上がってみませんか?」


銀髪の女性は少し目を丸くした。彼女のサファイアブルーの瞳は、隠しきれないほどの興味で輝いている。


「ムーンホーンカウのミルクですって? ボヴァン族は何年も街にミルクを卸していないはずなのに、どうやって手に入れたのですか?」彼女は驚いた声で尋ねた。


「ちょっとしたツテがありましてね」僕は言葉を濁しながら、彼女の前にカフェラテのカップを滑らせた。「どうぞお試しください。熱いのでお気をつけくださいね」


女性は純白のレースの小袋に包まれた手を伸ばし、陶器のカップをそっと持ち上げようとした。しかし……。


「お待ちください、お嬢様!」


銀色の鎧を着た女性騎士がパッと前に出て、彼女を遮るように手を上げた。「この奇妙な色の液体に、毒や麻痺薬が混ざっていないとも限りません。近衛隊長の『クロディア』として、出所不明のものを召し上がるのを黙って見ているわけにはまいりません! まずは私が毒見をいたします!」


クロディアがベルトから毒見用の銀の針を取り出そうとした時、銀髪の女性は優しくそれを手で制した。


「大丈夫よ、クロディア。下がりなさい」


「しかし、セレスティア様……!」


「大丈夫だと言っているでしょう」『セレスティア』と呼ばれた女性の声が少し強くなった。そこには権威がこもっており、女性護衛は元の位置に戻ってうつむくしかなかった。「この場所からは、悪意の欠片も感じられないわ……。それどころか、今までに出会った中で最も純粋で温かいマナの粒子を感じるの」


セレスティアは僕に向き直って薄く微笑み、まるで王室の磁器でも扱うようにカフェラテのカップを大切に両手で包み込んだ。彼女は目を閉じ、焙煎されたコーヒーとムーンホーンカウのミルクの甘く豊かな香りを吸い込んだ。


「なんて柔らかい香りなの……。表面の白い葉っぱの模様も、まるで芸術品のよう。飲むのがもったいないくらいだわ」


「ミルクの泡の上に描く芸術を『ラテアート』と呼ぶんです。飲むと徐々に消えてしまいますが、熱いうちに飲むのが一番美味しいですよ」と僕は付け加えた。


セレスティアは軽く頷いた。彼女はほんのりピンク色の薄い唇をカップの縁に当て、薄茶色の液体を喉に流し込んだ。


一口飲んだだけで……彼女の華奢な体がピクリと止まった。


サファイアブルーの瞳が大きく見開かれる。雲のようにきめ細かいマイクロフォームのミルクが口の中で溶け、ムーンホーンカウのミルクの奥深い甘さとコクだけが残る。そして、エスプレッソの濃厚な苦味が後を追い、その甘さを完璧に引き立てる。味は複雑でまろやかで、砂糖の粒一つさえ必要としていない!


しかし、セレスティアを味以上に驚かせたのは、その後に起こった『結果』だった。


フワッ……。


彼女の体から、淡い青色のオーラが微かに広がった。それはガランがブラックコーヒーを飲んだ時のような爆発的な力ではなく、これまで乱高下していたマナの流れが『凪いだ』ような状態だった。セレスティアはうっとりと目を閉じ、目尻から小さな涙の粒がこぼれ落ちた。


「セレスティア様! どうされたのですか! まさか毒が……」クロディアは悲鳴を上げ、剣を半分鞘から抜き、僕の首を絞めようと飛びかかろうとした。


「やめなさい、クロディア……。私は何ともないわ」セレスティアは目を開けた。彼女の声音は変わっていた。最初のような疲れた様子はなく、驚くほど生気と明るさに満ちていた。「それどころか……生まれ変わったような気分よ」


彼女は少し震える手でカップをカウンターに置き、深い感謝の眼差しで僕を見つめた。


「マスター……。この飲み物は、癒やしの魔法ですか? いいえ……魔法以上のものだわ」セレスティアは自分の胸に手を当てた。「私は生まれつき、『マナ過多症』という病気に苦しめられてきました。体内の魔力が純粋で量も多すぎて、体が耐えきれないのです。そのせいで眠れず、激しい頭痛に悩まされ、常に疲労感を感じていました。神殿の高位神官でさえ、一時的な鎮痛ポーションをくれるだけだったのに……」


彼女は息を継ぎ、これまでで最も美しい微笑みを浮かべた。


「でも、この『カフェラテ』を一口飲んだだけで……この黒い水に含まれるある種の刺激物質が私の魔力回路を開き、ムーンホーンカウのミルクのマナ調整作用と混ざり合って……。私の中で暴走していた魔力が、今、静かに、そして規則正しく流れているわ……。十数年も私を苦しめてきた頭痛が……完全に消え去ったの……」


僕は薄く微笑みながら黙って聞いていた。


(ああ……やっぱりそうか。カフェインが血管を広げて神経を刺激し、それに魔法的効能が高いボヴァン族のミルクが合わさって、マナ過多症の特効薬になっちゃったんだな……。ファンタジー世界って、化学反応の組み合わせが本当に面白い)


それを聞いたクロディアは目を大きく見開いた。彼女は自分の主人と、半分残ったコーヒーカップを交互に見つめた。抜いた剣はすぐに鞘に収められた。彼女は慌ててカウンターの前に跪き、額が床につくほど深く僕にお辞儀をした。


「無、無礼をお許しください! まさかあなたが、この街に隠れ住む伝説の錬金術師様だったとは存じ上げませんでした! ありがとうございます……セレスティア様の御病気を治してくださって、本当にありがとうございます!」


「えっと……立ってください、クロディアさん。僕は伝説の錬金術師なんかじゃありません。ただ美味しい飲み物を淹れるのが好きな、カフェのマスターですよ」僕は、またしても押し付けられた偉大な称号を慌てて否定した。(どうしてこの世界の人たちは、僕に変な称号をつけるのが好きなんだろう)


セレスティアは残りのカフェラテを躊躇なく飲み干した。彼女は優しく唇を拭い、絹の小袋に手を入れて何かコインを取り出し、テーブルの上に置いた。


チャリン……。


それは銅貨でも銀貨でも金貨でもなかった……。奇妙な素材で作られた、虹色に輝く白いコインだった。


「これは『プラチナコイン』です。金貨100枚分の価値があります……。この奇跡の飲み物への対価であり、私の病気についての口止め料でもあります」セレスティアは真剣な声で言った。


(金貨100枚! なんてこった……。コーヒー1杯で、僕の店が3軒も買えるじゃないか!)


「これは多すぎます、お客様。このコーヒーは銀貨2枚で結構ですよ」僕は、自分が設定したスローライフの価格設定の原則に反するため、断ってお釣りを渡そうとした。


「受け取ってください、マスター」セレスティアは首を横に振った。「私にとって、痛みのない生活は、何百枚、何千枚のプラチナコインよりも価値があるのです……。そして私は『セレスティア・フォン・アルテラ』。この街を治める公爵の娘です」


彼女は正式に名乗った。


(ほらね。どうして宝くじはこういう風に当たらないんだろう……。本当に領主の娘だったよ)


「明日から、毎日午後にあなたのお店へ飲み物を飲みに伺います。私のような厄介な客を迎えることを、どうか嫌がらないでくださいね?」セレスティアは、世界中をパッと明るくするような甘い笑顔を見せた。


「『カフェ・レスト』はいつでも歓迎しますよ、セレスティア様」僕は丁寧に頭を下げた。


帰る前に、セレスティアはクロディアに命じて、『公爵家の紋章』である翼の生えた黄金のライオンの金属プレートを、僕の店のドアの内側の上部に打ち付けさせた。


「この紋章は、アルテラ家の庇護の証です。もし誰かがあなたのお店で暴れたり、騒ぎを起こしたりする度胸があるなら、その者は直ちにこの街の領主を敵に回したとみなされます……。これが、マイル様が望む『コーヒーを淹れる』静かな生活を送る助けになれば幸いです」


そう言い残し、彼女は大きなつばの帽子を被り、忠実な護衛と共に店を出て行った。黄金に輝く翼の生えたライオンの紋章を見つめながら、僕は言葉にならない感情に包まれていた。


「街の最高レベルの保護の紋章を打ち付けていくなんて……。あの商業ギルドのマルコムがたまたま通りかかってこれを見たら、ショックで気絶するだろうな」


僕は思わず声を上げて笑い、プラチナコインを慎重にポケットにしまった。


どうやら『カフェ・レスト』の『セキュリティシステム』は、僕が空間歪曲魔法を使って誰かを大海原のど真ん中に転送する手間をかけることなく、さらに一段階アップグレードされたようだ。


僕は『Close』の看板を裏返しに行った。静かな店内に、夕日が差し込んでいる。


開店2日目は国家レベルの騒動で終わったが、その結果、僕のスローライフの基盤は石の要塞よりも強固なものになった。


僕は、空間魔法のバリアで守られた自家製コーヒー農園を持っている。一生無料のムーンホーンカウのミルクのサプライヤーがいる。トップクラスの冒険者パーティーが常連客になっている。そして今……この街の領主の娘がバックについている。


「よし……明日は、セレスティア様のためにカフェラテに合うふわふわのケーキを作ってみよう。ガランたちには、イノシシ肉のローストソース添えがいいかな……」


僕はほうきを持って店を掃除しながら、一人呟いた。僕の顔には幸せな笑みが浮かんでいた。


かつての退屈でストレスだらけだったサラリーマンの生活は、今では焙煎されたコーヒー豆の香り、お客さんの笑顔、そして異世界での本当の平穏な日々に取って代わられた。たとえ指を鳴らすだけでこの世界を滅ぼせるほどの神レベルの力を持っていたとしても……信じてほしい。その力を、コーヒードリップのお湯の温度を調整したり、パンを焼く時間を早めたりすることに使うのが、一番理にかなっていて幸せなんだ!


これこそが……僕が選んだスローライフの道。そして僕は、この平和なコーヒーブレイクの時間を、最後まで守り抜くつもりだ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ