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絶大な力を持っているけれど、やっぱり異世界でカフェを開いてのんびり暮らしたい。  作者: ファースト
Season1

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10/16

第9章:過ぎ行く1年と移動カフェの任務

異世界での時間は嘘のように早く過ぎ去る。あっという間に……春の風が再びアルテラの街に挨拶にやってきた。


挽きたてのコーヒーの香りが『カフェ・レスト』の店内に漂い、オーブンで焼かれているバターとキャラメルシュガーの香りと混ざり合う。お客さんたちの話し声や笑い声が、陶器のカップが軽くぶつかる音と重なり、お馴染みの幸せなメロディーを奏でていた。


「マイルお兄ちゃん! 3番テーブルにアイスアメリカーノをもう1杯と、ベーコンサンドイッチを2つ追加で!」


澄んだ男の子の声と共に、小さな体がバーカウンターの前にトコトコと走ってきた。白いシャツに茶色のエプロンという働きやすそうな格好をしたリアンだ。頭の上の三角形の耳はピンと立ち、かつてはペタンとしていたオレンジ色の尻尾は今はフワフワになって楽しそうに揺れている。この1年間の健康状態と栄養状態が極めて良好だった証拠だ。


「了解、ちょっと待っててね」僕は注文を笑顔で受け、手際よくコーヒーをドリップした。


「マイルお兄ちゃん、5番テーブルのお会計終わりました! バルゴン様が、今日のスポンジケーキもいつも通りふわふわで美味しいって言ってましたよ」


双子の妹のリナが、空のグラスを乗せたお盆を持って洗い場に戻ってきた。彼女の甘い笑顔は、店内の多くの若い男性客をうっとりさせている。このキツネの獣人の双子は、誰もが可愛がる当店の『マスコット』になった。二人は仕事を覚えるのがとても早く、その上明るくて働き者だ。おかげで、僕のスローライフは再び軌道に乗った。


そうです……。今日は、僕がこの世界にカフェをオープンして丸1年になる記念日なんです。


そしてそれは、僕自身も19歳の誕生日を迎えたということを意味しています!


この1年間で、たくさんの出来事があった。北の森の境界にあるコーヒー農園は敷地を拡大し、安全性を最大限に高めるため、僕は防衛システムをさらに一段階引き上げた。それはもう単なる幻影の迷宮ではなく、さらに高位の領域……物理法則から切り離された、僕自身が構築した『根源レベルのドメイン』を展開している(これのおかげで、外の天候に全く依存せずに作物が育つようになった)。もちろん、これは誰にも知られていない極秘事項だ。


ボヴァン族は僕との牛乳の直接取引によって大きく発展した(パシリ……いや、誠実なビジネスパートナーとなった商業ギルドのマルコムの調整のおかげだ)。セレスティア様もすっかり健康になり、毎日のように午後になると護衛のクロディアと一緒にラテアートを楽しみにやって来る。店の片隅は、今や公爵家のVIP専用席のようになっている。


「はぁ……本当に平和だなあ」 僕はグラスにアイスアメリカーノを注ぎ、リアンに渡した。


カランカラン〜


でもどうやら、僕の『平和』という言葉は、いつもドアベルの音と共にやって来るらしい。


ガラスのドアが勢いよく開かれ、見慣れた大男の戦士が飛び込んできた。普段より傷だらけのフル装備の鎧を着たガランが大股で店に入ってくる。その後ろには、異常に険しい顔をしたエリーン、シール、ルミアが続いている。さらに彼らの後ろには、ギルドの受付嬢であるリリアさんまでついてきていた。


「マイル! 大変なことになったぞ!」 ガランが店中に響く声で叫び、他のお客さんたちが一斉に振り返った。


「何があったんですか、ガランさん。またドラゴンと取っ組み合いでもしてきたような格好ですね」 僕は手を拭く布巾を取りながら尋ねた。


「ドラゴンじゃありません、マイルさん! 数千匹の『アイアンクラッド・スライム(鉄甲スライム)』の群れが暴走して、アルテラの街の西の街道を封鎖しているんです!」 リリアさんが焦った声で説明した。「そのスライムは鋼鉄のように硬い装甲を持っていて、剣は通らず、一般的な魔法もすべて反射されてしまいます。そのためギルドは、Cランク以上の全冒険者を緊急動員して、討伐キャンプを設営することになったんです!」


「なんだか大変そうですね……。でも、わざわざ僕のところへ来たってことは、まさか最前線へ行こうと誘っているわけじゃないですよね?」 僕は眉を上げた。(僕はただのカフェのマスターですよ!)


「違う! お前を戦わせようってんじゃない!」 ガランはテーブルをバンと叩いた。「問題は、ギルドの冒険者たちの方だ! アイアンクラッド・スライムと戦うために野営すると知った途端、あいつらストライキを起こしやがったんだ! 『カフェ・レストのイノシシ肉のサンドイッチとドリップコーヒーがなきゃ、鉄の装甲なんて斬れるか!』ってな!」


「そうよマイル! あんたの料理は、今やアルテラ軍の『必須バフ』になっちゃってるのよ!」 エリーンが真顔で付け加えた。「だから、アルテラ領主様が(セレスティア様の説得もあって)特別予算を承認して、冒険者たちの福利厚生として、あんたの店を最前線のキャンプに『移動カフェ』として出店するよう依頼を出したのよ!」


僕はまばたきを繰り返した。


(ちょっと待って! これって暗黙の強制じゃないか! でもまあ……ちょうど19歳の誕生日だし、たまには街の外に出てのピクニック気分で料理をするのも、気分転換になっていいかもしれない)


僕はカウンターにしがみついて、目をキラキラさせて僕を見上げているリアンとリナを見下ろした。


「リアン、リナ。街の外へピクニックに行きたい?」 僕は双子に尋ねた。


「行く! マイルお兄ちゃんがテントで料理するところ見たい!」 リアンは元気よく答えた。

「私、冒険者のお兄さんお姉さんたちにお水を配るのを手伝います!」 リナも手を高く挙げた。


「分かりました、リリアさん。その仕事、引き受けます!」 僕があっさりと承諾したので、ガランはホッとため息をついた。「食材と機材の準備に30分ほど時間をください。後でキャンプに合流します」

V

V

V

アルテラ市街西部、最前線キャンプ


臨時のキャンプは緊張感に包まれていた。何百人もの冒険者が剣を研ぎ、回復ポーションを準備している。しかし、キャンプの一角だけは……焙煎したてのコーヒーと焼けた肉の香りが漂い、戦場というよりはフードフェスティバルのような状態になっていた。


僕は魔法を使って、巨大なキャンバス地のテントと長い木製カウンターをあっという間に作り上げた(みんなには、バルゴンのおじさんが組み立て式で作ってくれたと言い訳しておいた)。リアンとリナは、長蛇の列を作って待っている冒険者たちに『高エネルギーサンドイッチセット』とアイスコーヒーを配るために忙しく走り回っている。


「うおおお! このイノシシ肉の煮込みだ! これを一口食っただけで、素手で鉄の装甲を砕けそうな気がしてきたぜ!」

「このドリップコーヒーで目がバッチリ冴えたぜ! スライムが土に潜ってきても見逃さねぇ!」


僕の料理を食べた冒険者たちからは、かすかにマナのオーラが溢れ出していた。心身ともにエネルギーに満ち溢れた彼らにとって、最前線でのアイアンクラッド・スライムの群れとの激突は、予想以上に簡単な掃討戦となった。谷中に武器と鋼鉄の装甲がぶつかり合う音が響き渡る。


僕はカフェテントの前から戦闘を眺めながら、コーヒーをすすった。


「うん……みんなよくやってるな。アウトドアのスローライフも悪くない」


ゴゴゴゴ……!!


しかし、すべてが順調に進んでいたその時、キャンプ周辺の地面が激しく揺れ始めた。後方に立っていた見張りの衛兵が悲鳴を上げた。


「大変だ!! 巨大な突然変異のアイアンクラッド・スライムだ! 前線を地中から突破して、補給テントのすぐ近くに姿を現したぞ!!」


2階建ての建物ほどもある巨大なスライムが、僕のカフェテントから20メートルも離れていない地面から勢いよく飛び出してきた! その装甲はただの鋼鉄ではなく、銀色に輝く『ミスリル鉱石』だった。魔法を撃ち込んでもすべて弾き返してしまうほどの硬さだ。やつは喉の奥で唸り声を上げ、最もいい匂いがするテントをぺちゃんこにしようと真っ直ぐに突進してきた。


「マイルお兄ちゃん! 危ない!」 リアンは慌てて妹を引っ張り、僕の後ろに隠れた。


最前線にいたガランとエリーンが息を切らして駆け戻ってくるのが見えたが、どう見ても間に合わない。


(せっかくの19歳の誕生日のピクニックなのに……僕のテントを壊すんじゃないよ)


僕はため息をつき、コーヒーカップを落ち着いてカウンターに置いた。逃げることもせず、武器を抜くこともない。ただ左手を前に出し、人差し指で軽く空気に触れただけだ。


僕は巨大な魔力を使って吹き飛ばしたわけではない。僕がルールを定めた『根源レベルの領域』にアクセスしたのだ。物質を破壊するのではなく……ほんの一瞬で、その『構造的特性を変更』しただけだ。


「ミスリル鉱石の構造を変更……ガラスと同等の脆さに」


キィン……。


グラスを指で弾いたような、澄んだ小さな音がした。かつては無敵の硬さを誇っていた銀色のミスリルの装甲が、突如としてくすみ、表面全体に無数の小さなヒビが入った。


その瞬間、ちょうど宙を舞って駆けつけたガランが、激怒とともに大剣を全力で振り下ろした。


ガシャァァァァァン!!!


大男の戦士の剣がミスリルの装甲に触れた途端……あらゆる攻撃に耐えうるはずの装甲が、まるでハンマーで叩かれた薄いガラスのように粉々に砕け散った! 装甲を失った巨大スライムの本体は、ガランの剣によって真っ二つに両断され、一瞬にして魔力の粒子となって消え去った!


「ハハハッ! 見たか! マイルの飯を食ったおかげで、俺の剣はミスリルの装甲すらも粉砕できるほど強力になったぜぇぇぇ!」 ガランは剣を天高く掲げ、誇らしげに狂ったように笑った。まさか剣が届く前に、装甲がガラスに変えられていたことなど夢にも思っていないだろう。


エリーンとシールもちょうど駆けつけてきた。彼らは地面に散らばった粉々の装甲の破片を呆然と見つめたが、僕がカウンターの奥で何事もなかったかのように微笑みながらコーヒーをすすっているのを見て、ただ首を振ってため息をついた。(たぶん、何が起きたのか薄々感づいているに違いない)。


「僕のテントを守ってくれてありがとうございます、ガランさん」 僕は純朴な笑顔でお礼を言った。「モンスターの討伐も終わったことですし、コーヒーのおかわりはいかがですか?」


ボスである巨大スライムが倒されたことで、残りのスライムの群れは統制を失い、1時間も経たないうちに冒険者たちによって完全に掃討された。討伐任務は、誰一人として重傷を負うことなく無事に完了した(おまけに全員がお腹いっぱい大満足だった)。


夕日が草原と谷をオレンジ色に染め上げていく。


僕はカフェテントの前で片付けをしていた。リアンとリナも一生懸命にテーブルを拭いてくれている。


「マイルお兄ちゃん、今日はすごく楽しかった! 冒険者のお兄さんお姉さんたち、みんなご飯が美味しいって褒めてくれたよ!」 リアンは目を細めて満面の笑みを浮かべた。

「またこんな風に外でお店を開きましょうね、マイルお兄ちゃん!」 リナも付け加えた。


「そうだね。機会があれば、また気分転換に来ようか」 僕は愛おしそうに二人の頭を撫でた。


(カモフラージュのために雇った)馬車に荷物を積み込もうとしていた時、パカラッ、パカラッという軽い馬の足音が聞こえてきた。黄金の翼を持つライオンの紋章が飾られた馬車が、テントの近くに停まった。


ドアが開き、美しいドレスを着た銀髪の女性が降りてきた。彼女は金色のリボンが結ばれた木箱を手に持ち、僕に向かって甘い微笑みを向けた。


「セレスティア様? こんな最前線までどうしたんですか。危険ですよ」 僕は驚いて尋ねた。


「あなたに会いに来たのよ、マスター」 セレスティア様は近づいてきて、その木箱を僕に差し出した。「聞いたわ。今日が『カフェ・レスト』のオープン1周年記念日だって……。そして、あなたのお誕生日でもあると……。お誕生日おめでとう、マイル。私に新しい命をくれて、本当にありがとう」


僕はその箱を受け取り、中を開けてみた。中に入っていたのは、おそらく公爵家の宮廷料理人が作ったであろう精巧な『フルーツケーキ』だった。僕がスキルを使って作るお菓子ほどの絶品ではないかもしれないが、そこには計り知れないほどの心遣いと温かさが詰まっていた。


僕は手の中のケーキを見た。そして、満面の笑みを浮かべているリアンとリナを見た。歓喜に沸く勝利の祝杯を挙げている冒険者たちを見た。僕に心からの笑顔を向けてくれるセレスティア様を見た……。


異世界でのこの1年間……。毎日あくせく働いていたしがないサラリーマンから、絶大な力を持つ19歳のカフェマスターへ。


もしかすると……僕が手に入れたこの無限の力は、この世界を破壊したり変革したりするためにあるのではないのかもしれない……。


この小さな『幸せの場所』を作り、永遠に守り抜くためにあるのだ。


「本当にありがとうございます……。僕の人生で、最高の誕生日と1周年記念日になりました」


僕は心からの満面の笑みを向けた。アルテラの美しく沈みゆく夕日の中で……。

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