雀蜂の巣、駆除と売却収支〇万円也
「でっけーーー!やっべえ!これ売ったらいくらんなる!?」
「下卑さん、無理っすよ!こんなん取ったら絶対外に居るスズメバチたちが復讐にきますよ!」
俺は止めた。
無駄に終わる気がしていても、一応止めた。
それが俺、下賤の役割だからだ。
「いけるって!なんかロイヤルハニー?っていうのとれるんだろ?高く売れるかな?ハニトラに使えっかな?」
「下賤な俺の知識ですみませんが、ロイヤルハニーは複数の素材を調合してできますし、そもそも材料だってスズメバチじゃなくてミツバチからしか捕れません」
「えー、でもハチノコ?とか蜂蜜はとれるんだろ?やるだけやってみようぜ!で、バレンタインにかこつけて媚薬の原料として売ろうぜ!」
これである。
行動力と知識が反比例している気がする。
でも、そんな下卑さんをほっとけないのが俺と言う男だった。
俺達の所属する外道連合の保有する、今にも崩れそうな安アパートに軒下にスズメバチの巣ができたと気付いたのはつい数時間前のこと。
俺がビビり倒している間に、任務から帰ってきた下卑さんが俺の視線の先に目を向けるやいなや、目をキラキラさせて金儲けを語りだしたというわけだ。
灰色がかった大きな紙のような巣。
直径30cmは優に超えていて、中から何十匹ものスズメバチが出入りしている。
「下卑さん……刺されたら……死ぬんすよ……?」
「……へへっ……いやいや。うまくいきゃ、売れるんじゃね?
スズメバチの巣……漢方とかで高く売れるって聞いたことあるぞ!
ゴミ袋に突っ込んで、冷凍庫にぶち込めば…いける!いけるって!スズメバチがおとなしい時間帯を狙えば…」
※絶対に真似しないでください。
下卑さんの行動にはすべてこれを冒頭につけなければいけないと思う。
危ない橋を渡りまくってなんとか生きてるのはそれが下卑さんだからだ。普通の人なら何回か死んでいる。
「下賤…俺を見捨てるのか?」
これである。俺も大概馬鹿だ。
「……しょうがないっすね…俺が断ったら一人で突っ走りそうですし…わかりました、手伝いますよ」
「おっしゃ!さすが下賤!」
全く調子のいい人だ。
決行は夜中、近所の住人が寝静まった頃。
俺達は100均で買った厚手のビニール袋と軍手、毛玉だらけの白い長袖長ズボンに目出し帽と麦わら帽子で完全防備した。
下卑さんが脚立に登り、俺が下で支える。
下卑さんのケツも腕も顔も声もガクガク震えている。
そんなに怖いならやめりゃいいのに、この人は変な所で意地を張る。
「へへっ……ハチども、行くぜ…覚悟しろよぉ…」
「気を付けてくださいね…」
下卑さんが蜂の巣にぶすっと掃除機のノズルをぶっ刺し、中から凄い勢いで蜂達を吸い上げていく。
あらかた吸い尽くしたところで、ビニール袋を広げ、巣の下からそっと被せ、閉じて、軒下から巣をもぎ取る。
残党蜂がブンブン仲間の窮地に寄って来る。
袋の外からも、中からも「ブーン! ブーン!」と怒りの羽音。
下卑さんは「ひぃっ…ひいいえええ…」と言いながら俺に巣を渡してくる。
「ふえっ!?ふえぇええええん!」
俺は泣いた。
慌てて危険物を抱えて部屋に飛び込み、冷凍庫に袋ごとぶち込む。
扉を閉めて床にへたり込むと、下卑さんが掃除機を抱えて部屋に滑り込んでくるのが見えた。
掃除機の先っちょから一瞬蜂が出てくる。
「ひっ…」
下卑さんが慌ててそこに靴下を脱いで詰めた。
心臓がばくばく言ってる。
「…下卑さん、もーほんと勘弁っすよぉ」
「でも、楽しかったよな!」
「そう言や済むと思ってるの、下卑さんの悪いクセっすよぉ」
下卑さんは悪びれず、「へへっ」と笑った。
翌朝。冷凍庫の扉を開けると、スズメバチの巣は完全に凍りつき、ハチは動かなくなっていた。
売却ルートに関しては、下卑さんが昔のツテを頼って、闇ルートの漢方医に連絡した。
「スズメバチの巣、冷凍済みで新鮮。大きさ30cm超え。どうだ?」
「へぇ……でかいな。漢方薬の原料にでも使わせてもらうか。
巣の大きさで相場は変わるけど……今回は特別に●万で買い取るよ。
掃除機ん中の死骸は…ゴミまみれのはちょっとなあ」
「やっぱダメっすか…」
「わりいな。またいい巣見つけたら連絡しろよ。でかいほど高く買うからな」
「へへっ……了解っす……」
下卑さんは本当に危なっかしい。でも、俺はそんな下卑さんのスリルに付き合わされる日々のことが、嫌いではなかった。




