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ビブラート・フラッシュ

作者: じゅラン椿

 『やさしさって、結局"逃げ"だよね』その言葉だけが今も耳に残っている。


別れ話の終盤、彼女は泣きもせず、ただ、そう言った。その時、橙は何も言い返さなかった、違う、言えなかった・・・。


 間島 橙(まじま ともる)今はカウンセラー見習いとして、相談者の話を聞く立場である。

けれど、時々"あの声"が違う口から洩れることがある・・・


 「なんか・・・自分ばっかり我慢している気がして仕方がなくて・・・」

来院した相談者の少女が呟いた。


彼女の声と重なった、話すリズム、声の高さ、語尾の震え、記憶の奥底に沈めたはずのあの一言がフラッシュのように、脳裏を照らした。

彼女に、似ていた、それだけで、心が揺れてしまう自分に、少し苛立ちを感じた。


 「我慢している、って、どんな時に感じるの?」

そう問い返す自分の声も、わずかに震えていた。心の奥に眠る"ビブラート"が、共鳴したのだろうか?


 少女は、ゆっくり応えた。

 「やさしくても、伝わらないとき、怒りたくても沈黙しちゃうとき、黙って苦笑いしちゃうとき・・・」


 橙は呼吸を整え、

 「やさしさって、逃げじゃないから、それがちゃんと伝わるまで、相手に届くには、時間が必要な時もあるよ」


少女はしばらく沈黙の空気にそまり、その後、頷いた。

少女の頷きに、橙の中の何かが、複雑に絡んだ紐が、ほどけていくのを感じた。


 あの日返せなかった言葉、その"余韻"に引きずっていたけど、自分の声でやっと自分に返せた気がした。


 長く揺れていた"ビブラート"が終わり、ビブラートが成長したように思えた。


 


 響いた言葉は、時には刃になり、また時には光、エネルギーにもなる可能性がある。

忘れられない言葉があるなら、それはきっと「大切な自分」から何かを伝えようとしている証。


『ビブラート・フラッシュ』は、心の奥で響き続ける源。

一歩を踏み出す物語。誰かの心の一歩になれば、うれしい。


                             じゅラン 椿

    


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