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和製英語発音

「アポ― はい、どうぞ。」

「アポ―」黒板のリンゴの絵をさしながら英語教師の北川育江が先導するとクラスの生徒が全員で大きな声を上げた。

「素晴らしいわよ。グッド。もう一度 アポ―」

「アポ―」みんな褒められて笑顔で張り切って発音している。その様子を教室の後ろで校長の杉下栄吉は微笑みながら見ている。すると今度は北川先生が個別発声を促した。

「では吉沢蓮君お願いします。」と言って吉沢君を指名した。この中学校に入学したばかりの吉沢蓮は他の小学校から来た同級生も多いので少しはにかんでいる。もぞもぞしていたが立ち上がったところに北川先生はリンゴの絵を指さして

「アポ―、どうぞ」と吉沢君の方に手のひらを向けて発声を促した。すると吉沢君は顔を赤らめながらも

「アポ―」と小学校のころの英語活動で培った発音を披露してくれた。北川先生はすばらしいと手をたたいて彼の発音を称賛しようとしたが、それよりも早く、多くの生徒たちが吉沢君の方を見てくすくすと笑い始めた。

「どうして笑うの? 良い発音だったわよ。吉沢君、もう一回ね。 アポ―」と北川先生が再度発声を促すと吉沢君は周りを見渡して深呼吸をすると

「アップル」と日本語のように発音して座り込んだ。北川先生は困った顔をして

「みんな、小学校では英語の発音をうまくできたでしょ。中学校に来ると突然、恥ずかしがって和製発音を始める子が多いの。でもそれっておかしくない?正しく発音できるようにならないとね。わかった? もう一度行くわよ。アポ―、はい」というと今度は全員で

「アポ―」とそれなりに発音した。

「出来るじゃない。一人で発音してもやれないとだめよ。」と全員に注意した。

 後ろで見ていた杉下校長は眉を曇らせてこの様子を見ていた。小学校の英語活動の授業を見に行った時の事を思い出していた。

『あの時は外国人講師と楽しそうに大声で先生と同じような発音を真似して発声していた。みんな出来るはずなんだ。中学生になった途端になんで出来ないんだ。』という思いが沸き上がってきた。

 職員室で授業を終えた北川先生のところに行って杉下校長は話しかけた。

「今日はありがとうございます。まだ1年生なのに恥ずかしがってしまうんだね。どうしたらいいんだろうね。」というと北川先生も恐縮しながら

「折角校長先生が身に来ていただいたのに、申し訳ありません。英語はコミュニケーション教科ですから恥ずかしがって表現できなかったら、どうしようもないんですけど、中学生というのは難しい時期ですね。でも中学3年生になると受験が近づいて来て、内申点も気になるから急に頑張って発生するようになります。でも2年以上恥ずかしがってやっていないから、急に出来るようになるものでもないんです。」と話してくれた。その話を聞いていた英語主任の南部先生は

「恥ずかしいって気持ちを取り除くことが上達の第一歩なんですけどね。現実はなかなか難しいです。読んだり書いたりすることはかなり難しい事も出来るようになるんですけど、話すことは壁が高いです。」と横から話に入ってきた。杉下校長は社会科が専門だったがこの手の話には興味が深く

「以前、テレビで見たんだけど、韓国や中国の英語教育はもっと生徒にシャウトさせていたんだ。声を出すことは上達に不可欠だと思う。それに韓国も中国もインドも英語は出来て当たり前。社会人になって英語を話さないと仕事にならないから、コミュニケーションの道具として学んでいるよね。でも日本では受験のための手段になっていて、話せなくても何とかなってしまうんだろうね。」と以前から思っていたことを話した。北川先生は

「そうなんですよね。結局のところ生徒は大人になっても英語を使うことはないだろうとタカをくくっているんです。」というと南部先生は

「最終的には大学入試が変わらないと生徒の意識も変わらないんでしょうね。」と話してくれた。

 杉下はぼんやりとした不安と目指すべき目標が見えてきたような感じがした。

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