世界の半分ではなくて
「僕達、姉弟はトラックにはねられ異世界に転生した」
「私達、姉弟はトラックにはねられ異世界に転生しました」
「僕達を異世界に転生させた女神は、姉に聖母の力を、僕に勇者の力を。そして、僕達にこう言った。魔王を倒すのです」
「私達を異世界に転生させた女神は、私に聖母の力を、弟に勇者の力を。そして、私達にこう言いました。魔王を倒すのです」
「道中さまざまなモンスターが襲ってきたが、僕の勇者の力は強力で、全て退けた」
「道中さまざまなモンスターが襲ってきましたが、弟の勇者の力は強力で、全て退けました」
「そして、いろいろあって魔王のところまでたどり着いた」
「そして、いろいろあって魔王のところまでたどり着きました」
「魔王を倒せるのは聖母の力のみ。姉さんの出番だ」
「・・・」
「聖母の力をみせつけられた魔王は、姉さんに誘惑の言葉を囁いた。世界の半分をやろうと。もちろん、姉さんは魔王の誘惑をきっぱりと拒絶した」
「・・・」
「姉さんは聖母の力で魔王を倒し、異世界に平和をもたらした」
「・・・」
「異世界を救った僕達は、女神様の力で事故に会う前の現代に再転生することになった」
(ここは本当に元の世界なの?)
「どうしたの?姉さん」
「いえ、ちょっと。なんだか、この世界が、私達のいた世界とちょっとだけ違うような気がして」
「そうかな?僕にはそう感じないけど。でも、女神様が再転生では世界観がずれることもあるけど問題無いって」
「女神様、そんなこと言ってた?」
「うん。言っていたよ。姉さんは聖母の力を使ったせいで、少し記憶がなくなったんだ」
(それなら説明がつく。でも、それは、私にとって都合がいい辻褄合わせじゃないのか?私には記憶がない。みんなは私が勇敢に魔王を倒したと言っていたが、本当にそうだったのか?あのときの魔王が囁いた誘惑の言葉は、本当に世界の半分をお前にやるだったのか?本当は・・・)
秘めた恋をする者は辛いな。我の命を見逃してもらえるなら、その礼にその恋を成就できる世界を作ってやろう。
(もし魔王の誘惑にのってしまったとしたら、私達の記憶は改変されて・・・私のせいで異世界の何十万人が虐殺される。私は本当に誘惑を拒絶できたのか?怖い。怖い。怖い。確かめる方法はある。聖母の力で異世界との通信が私にはできる。でも、もしも、魔王が生きていて、異世界の人間を虐殺していたら・・・怖い。確認したくない)
「姉さん。これを受けとってくれないか?」
(結婚指輪!)
「僕、姉さんを幸せにできるようにがんばるよ」
(この世界は姉弟の恋愛・結婚が許されている。私が元々いた世界もそうだった。そうだったはずだ。そのはずだ。魔王の力で記憶が上書きされているわけじゃない。ないはずだ。それなのに何故不安になる?わからない。怖い。確かめたくない。私が元々いた世界。異世界の現状。魔王の生死。私がすべきこと。わからない。ただ一つ確かなのは、私はこの幸せを失いたくない)
「これからもよろしくね。旦那様」
「異世界の仲間に、僕達の結婚報告したかったな」
「残念だけど、通信手段がないわね」
(この秘密は墓場まで)
おわり




