ズレた世界 5
ズレた世界五話目となります。
いよいよ決着回ですね。
では本編へGO!
持っている邪玉でナイフの攻撃範囲を広げてあの場から動かないでも切りつけることが出来るようにしているといった感じだろうが、同時に三か所以上攻撃することが出来る。
地面を削っているところを見る限り、どうやらポイントで攻撃を仕掛けているようで、事前に決めた場所にしか攻撃できないようだ。
しかも、気配で何となくわかるので気配を感じてから避けるだけでも余裕だが、近づけば近づく程に攻撃速度が上がるといった感じか。
遠くに行けば遠くに行くほど攻撃速度が落ちていくというカラクリ、逆に言えば在る程度の遠距離攻撃なら仕留めることは簡単なようだ。
俺は右手にメビウスインパクトをコピーしたものを三つほど複製、オリジナルの術式を作る準備に入る。
ヴェルズリは向かってくる攻撃を解体しているようで、この状況でも出来るのが恐ろしい。
事実上の三体一の状況でも敵はまるで動揺しているような素振りを見せないわけだが、実際追い詰められていることは事実だ。
ジュアリーは持ち出した銃で攻撃を繰り返しているが、やはり近づいた攻撃は無条件で反撃しているようだが、この状況なら俺の魔術が致命傷になるだろう。
右手で作り出したメビウスインパクトをまずはそのまま射出しつつ敵の出方を見ると、今度はそのメビウスインパクトをヴェルズリが解除する。
「ふざけるな! 協力するつもりが無いのか!?」
「無いな。俺には俺の計画がある。お前に口出しさせるようなレベルの話じゃない! 黙って後ろに下がっていることだ」
「仲間割れかな?」
「仲間じゃない! こんな奴」
「同じ意見だ。敵だよ。俺達は。ただ…俺もこいつ等もその邪玉が邪魔なんだよな…それをこっちに寄越して死ねよ」
「それは出来ないな。私の願いを叶えるためにも…」
「下らない理由だな。お前も肉親や愛する人の為に罪を犯すとかいう考えか? 肉親だろうが愛する者だろうが他人だろう? そんなことの為に罪を背負う事の意味が理解できん。罪を背負うのなら自分の為であるべきだ。そうだろう?」
「なら。これは私の願いだ!」
「それを下らないと説いたのだ。実に下らない。どうせ生きる限り命は必ず死ぬ。それは絶対だ。抗う事に意味は無い」
ヴェルズリの興味が次第に失われているのか、次第に見ている瞳に力が入っていないようで、ハイライトが消えているようにも見える。
同時に殺意を十分に滲み出させたところで、男の後ろからドドナが現れたのだ。
ドドナは男の体に何かを装着してから一気に距離を取ると、男はその装置を破壊しようとナイフによる攻撃で切りつけるが、それが最後のトリガーになったのだろう。
俺とジュアリーが止めようとしたときには一手遅く男の体が粉々吹き飛んでしまう。
「僕をまるで手下みたいに扱うってどういう神経しているわけ? この前でへばっていた癖にさ」
「お前さんなら必ず男の意識の裏をかくことが出来ると思っただけだ」
粉後にな吹き飛んだ男の体、同時にその遺体が在ったはずの場所をジッと見ているジュアリーだが、同時に全員の意識が邪玉へと向く。
明らかに邪悪さが漏れ出ており、それをドドナが拾おうとした瞬間にはジュアリーが動いて大剣を地面に突き刺してドドナへと攻撃を仕掛ける。
ドドナは後ろに大きく跳躍して距離を取るわけだが、その後素早くヴェルズリが襲い掛かっていきジュアリーを引かせた。
そのまま拾おうとする瞬間俺が魔術で引き寄せて受け止めるが、それをヴェルズリが斧を振り回して俺の右腕を切り落とした。
同時に素早く修復されていくので特に困ったことにはならないが、これで再び邪玉を落としてしまった。
「どうにも駄目だな。仲良く邪玉を譲るという事は出来ないのかな? ジャック・ロウ」
「ならお前達が譲ればいいんじゃないか? それともやはりその邪玉を利用しようとしているのか?」
「ハハハ。挑発かな? ナーガで無ければ今頃腕なしだぞ」
「ナーガだから大丈夫だと判断しただけだ。それも分からないのか?」
俺とヴェルズリの間で転がっている邪玉に粘着物が付着しそれを引っ張って回収しようとするネリビット、しかし、空中でドドナが切り落とす。
「僕の目を盗んで持ち出せると思わない方が良いよ。動きだけは認めるけどさ」
「ちぇ! 今なら回収できるって呼んだのにな」
「ジャック!」
「こいつらに回収させたくない!」
しかし、迂闊に動くことが出来ない状況故に誰もが動きを止めていると、メロンが現場に現れてゴブリンを使って回収しようとするが、それをアンヌがレイピアの一撃で粉々にして吹っ飛ばすが、同時に邪玉が空を舞う。
それを手に入れようとネリビットとドドナが同時に動いた。
持っているバズーカ砲と銃から出てきた粘着物はほぼ同時に付着するのだが、それをディラブとヴェルズリが上手く排除する。
が、ここでメイビットが邪玉を静かに回収した。
銃をまず地面に打ち込み、見えない様に感じさせない様に、バレない様にと邪玉を回収する為に自分の方へと引っ張ったのだ。
「やはりやるねぇ…お嬢さん。この状況で抜け抜けと…」
「ふうん…」
「どうするわけ? ヴェルズリ」
ヴェルズリが攻撃態勢を作るが、俺達がメイビットを守るように盾になるとお互いに緊張状態が続く。
問題はこの邪玉をどうやって排除するかであるが、それを悩んでいると俺とアンヌとリアンとディラブははっきりと感じ取った。
あの邪悪な気配を…ノルヴァスがすぐそこに来ているとはっきりわかり、俺はメイビットに「手放せ!」と指示を出し、アンヌが先に邪玉を放り投げてメイビットを掴む。
そんな二人を抱えて後ろに跳躍して距離を取ると、その場にノルヴァスが邪玉を勇者の剣で破壊した。
「何時までかかっているんだ? ボスがお怒りだぞ」
「仕方ないだろう? 思い通りになるとは思わない事だと言ったぜ。それに結果的には成功だろう?」
「失敗だ。邪玉の中にある回収するべき『禍根の遺伝子』はこの少女の手によって無力化されている。これでは意味は無い」
「禍根の遺伝子ね…それが欲しかったんだ。かつて厄災のホビットが作ったあらゆる『願い』を兼ねえてくれる遺伝子」
「はぁ…呆れた。うちのボスはそんなものを欲しがっていたのね」
「欲しかったわけじゃない。どんな代物か一回見ておきたかっただけだそうだ。だが、これでは意味は無い。ジャック・ロウ。いい加減君との因縁を感じるよ」
「俺は感じてほしくないけどな。そんな気色の悪い物をさ」
「………何を隠しているのか知らないが、ここは見逃そう。俺達も忙しい。ヴェルズリ。撤退するぞ。ドドナとメロンも同じだ。ホビット政府がもうじき介入する。そうなれば此処にいる理由は無くなる」
ヴェルズリは俺の方を見てニヤリを笑いながらも撤退していく。
街に静けさが残ったが、祭りの後に残る静かさではない…事件の後の静けさ。
ズレた世界が元に戻っていき、亜人が世界から消えていく。
「俺達も行くぞ。オリハルコンがバレた以上は此処に長居する理由は無い。ジュアリーはどうする?」
「? 事情聴取を受けないといけないし。私は残るに決まっているでしょう。私達が手を組んだのは此処までよ」
「だったな。この男…」
「社長。事務所のね。死んだ弟を取り戻したいと言っていた。私も同じ意見よ。取り戻しても仕方のないことばかりよ。それをウダウダと」
「君が言っちゃいけない事だろう」
「私だから言いたいことなのよ。早くいきなさいよ。私は何も見ていないから…貴女も私を見ていない。それでいいはずよ。ズレた世界の結末ぐらいブラさないとね」
そんなことを言いながら彼女は下の階へと消えて行った。
次からはいよいよ鍛冶の里のお話へと移り変わっていきます。
勇者の剣製造へと向かって邪断の元勇者一行と、ノルヴァス一行が衝突することになります。
では次は双厄のホビット第二十二話でお会いしましょう!




