蠢く者達
敵サイドのお話となります。
では本編へGO!
ヴェルズリは勢いよく用意された椅子に座り込んでから大きく息を吸い込み始めると、ヴェルズリがいる薄暗い部屋に入ってきたメロンは両耳をそっと塞ぐ。
すると外に聞こえるのではと思われるほどの大きな叫び声を発するのだが、先に部屋に居て分厚い辞書のような本を読んでいたノルヴァスは涼しそうな顔をして「荒れているね」と呟く。
メロンはノルヴァスが座っている椅子の後ろに回り込み彼の首筋に自分の右腕を回して「でしょ? 慰めてあげて」と囁くと、その後ろから少年のような声で「無理でしょ」と聞こえてきた。
メロンは鬱陶しそうな顔をしながら後ろを向きながらその名を呼ぶ。
「あら居たの? ドドナ。てっきり準備の為にって先に現地入りしているのかと思ったけど?」
「僕の準備は万端さ。後はお前達の到着とボスの指示を待つだけだ。ノルヴァス。まだかい?」
「まだボスが寝ている。起きるのはもう二日は掛かるかもしれんな。起き次第命令がある。それまでは待て」
「そうか。で? なんでヴェルズリは包帯でグルグル巻きの新たなファッションで機嫌が悪いんだい?」
「貴様にはこれがファッションに見えるのか!?」
「でもさ…オーガってバカなんでしょ?」
「殺すぞ…貧弱なホビット風情が」
メロンはそれこそ「鬱陶しい野蛮人ね」と呟きながらノルヴァスへと顔を近づけていくと、まるで愛でも囁くように声を掛ける。
「あんな野蛮人どもとは別の部屋で気持ち良いことしない? 今夜は寝かさないであげるけど?」
「今後の作戦に影響がありそうだからやめておくよ。終わった後にとっておく」
「あら。素敵な返事。期待していても良いの?」
「勿論だ。それで君の気が済むのなら勝手にすると良い。ヴェルズリもドドナもその辺にしておくことだ。ボスは無理矢理起こされるのを一番嫌がる」
「はいはい。で? 何が在ったの? 面白そうなおもちゃを見つけたって意気揚々に出かけて返り討ち?」
「その通り。油断して、赤鬼のオーガにチョッカイを掛けて、そのうえで敗北したの。笑ってあげて」
「止めろと言ったろ? ヴェルズリも興奮するな。せっかくふさがり始めている傷口が開くぞ。だが、油断は良くないな」
「言っていろ! まさか覚醒するとは思わなかったんだ!」
ノルヴァスは「それを油断と言う」と小声で指摘しつつそれでも本から視線を外さないままでいると、メロンは「その通り」と同意しながら絡むのを止めない。
ドドナは「良くやるね」と感心半分軽蔑半分の表情を浮かべてカバンの中から大量の道具を取り出した。
手入れを一つ一つし始めると、ノルヴァスやメロンに向かってドドナは尋ねる。
ホビット族特有の身長の低さや尖った耳をピコピコと揺らしながら訪ねるのだった。
「そんなに強いわけ? 元勇者一行」
「厄介なのは間違いが無いだろう。元々元勇者が強い。あれは歴代の勇者の中でも最高傑作だろうな」
「あらあら…意外と肩を持つわね。妬けるわ」
「嫉妬は私ではなく彼らに向けてくれ。君の嫉妬は身を焦がすからね」
「物理的に燃やしそうだよね…人体発火現象で村一つを滅ぼしたドラゴン大陸はいう事が違うよね」
「失敗したのよ。まさか、私以外の住民が発火して死ぬなんて思わないでしょ?」
ヴェルズリは「フン」と鼻を鳴らしながら目を瞑り休み始めると、ドドナは「ヴェルズリがあの調子じゃ作戦どうなるわけ?」と尋ねる。
「見た感じ武器もないみたいだし、役に立つわけ?」
「無理でしょ? 役に立たないわよ」
「良い。その為の私だ。保険を使わないといけない時が来た」
「ノルヴァスが出るなら良いや。ヴェルズリよりマシだし。でもさ…普通チョッカイ掛けるかな? オーガの国王一家にさ」
「それ言ってあげて。私言ったのよ? チョッカイ掛けて後々の作戦に支障が出たら意味ないって」
「言ってやるな。此処の所閉じこもって退屈していたんだろう。イライラしながらあちらこちらの物を破壊するんだ。外で鬱憤でも張らしてきたらどうだと進めたのは私達だ」
「厄災にその名を刻む『黎乃王牙』だものね」
黎乃王牙。
聖典にその名を刻む女神が挑んだとされる『厄災』と名を付けられた者達の末裔、それがヴェルズリの正体でもある。
始まりの厄災を担当していた彼は普段から怒りと憎しみを溜め込んで生活しており、それを晴らす機会を待ち構えていた。
そんな最中の出来事であったが、結局でそれも赤鬼のオーガによって阻まれた。
「宿命か…面白くも無い」
「あら? それって本気で言ってる? 誰よりも…貴方が感じているんじゃないの? あの元勇者の坊やに」
ノルヴァスは元勇者であるジャックの顔を思い出す、あの黒い西洋風の兜に見える頭部とその奥にはっきりと感じる真っ赤な瞳を。
まだ真実の全てを知っているわけでもなく、穢れていないあの元勇者を。
ノルヴァスは鼻で笑いながら微笑を浮かべる。
「勿論感じているさ。下らない嫉妬をな…宿命は感じていないよ。意外かい?」
「そうね…貴方は感じていると思っていたわ」
「僕もだね。感じていないとは意外だ。だって君は…」
「私はただのテロリストだよ。それ以上もそれ以下も無い。意外といえば…ボスが目覚めたようだ」
ノルヴァスはメロン達が入ってきた出入り口の方へと顔を向けると、二メートルは有ろうかと言うほどの大きな背丈の大男が立っていた。頭にはすっぽりとフードを被り見せないようにしていた。
ヴェルズリだけは寝ている為見ていないが、それ以外は最低限顔だけは向けている。
まずボスと呼ばれていた男が確認したこと。
「ヴェルズリはどうした?」
「厄介ごとにチョッカイを出して大怪我です。次の作戦には役に立ちそうにありませんね」
「仕方ない。私から後で説教しておこう。こうなった以上はノルヴァスにも参加してもらうぞ」
「分かっています。でも、問題が。もしかしたら最悪元勇者一行と鉢会うかもしれません。どうやら近くにまで来ているようです」
「会うのか? あの男と?」
「それは無いでしょ。会っていない僕が言うのもなんだけど、繋がり無い気がするけど? あのブラックオークション関係者との接点」
「でも。私達とは接近遭遇する可能性はあるわよ。少なくとも私とノルヴァスは会ったことがあるわけだし」
「フム。なら派手な陽動が必要と言うわけだ。嫌いな奴は居るか?」
三人はニタリと笑いながらはっきりと言う。
「「「居ませんけど?」」」
「なら決まりだ。可哀そうだが…町の連中には不幸になってもらおうか」
どうでしたか?
このお話をもって今年2023年の更新を終了とします。
また来年もよろしくお願いします。
次回は直ぐにメイランドという町のお話で、そのお話をもって赤鬼のオーガも終わりとなります。
赤鬼のオーガの終わりまで後数話です!
では次は赤鬼のオーガ第四十八話でお会いしましょう!




