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巨木と自然の街ガーナンド・ロウ 7

戦いの前の小休止回となりますが、まあリアンはいつも通りで安定しますね(笑)

 成人の儀…ナーガの男女は三十歳になると大陸中を巡って五つの種族都市を巡り成人したと証明するそうで、俺も三十になればやることになる。

 それを苦と思っているわけじゃないが、正直に言えば面倒だなとは少し思うのは俺がヒューマン族に育てられたからなのかと思っていたのだが、どうやら俺と同じ年の皆は同じ気持ちらしいことが分かって安心できた。

 大きな河に右手をそっと突っ込むアンヌはその温度に少し驚いて引っ込めてはまた突っ込んで温度を確かめる。

 河がする温度ではないので初めて触れる人は必ず驚くのだが、流石のアンヌでも興味津々らしく何度も温度を確かめていた。


「本当に温泉みたいな温度なんだね…丁度良い感じかな?」

「だろ? 水着を着ればこの辺でも入れるぞ?」

「着ないし入らないから。この国道を歩いていけば別の種族都市へと辿り着くわけだね? じゃあ首都にも?」

「辿り着く。間違いなくな。迷子にならない限りは。まあ道案内がある中でどうやって迷子になるのかって話だけど」


 俺もアンヌも方向感覚は良い方なので迷子になったことは今のところ一回もないのだが、またして自分達の平衡感覚が優れているのかどうかなのかはイマイチ良くは分からない。

 まあ悪くは無いだろう事だけは安易に想像できるので良しとしよう。

 するとアンヌは川沿いに都市の外へと向かっていった先にある出店みたいな小さいお店を発見した。


「あれ何?」

「温泉卵だよ。食べる? 塩味がしてうまいぞ」

「いや。良いや。私別に卵は好きでもないし。私が好きなのは」

「甘い食べものだろう? 甘党だし。ならこの近くにハチミツで美味しいお店があるんだけど行ってみるか?」

「訓練とかあ良いの? まあジャックが本気を出したら負けないとは思うけどね。武器の使用は有り? 無し?」

「無し。ナーガは基本武器はあまり使わない。というか。本来は後方支援職だしな」


 俺はアンヌを連れて大きな橋を渡って向こう岸へと渡りながら目的地のお店へと足を踏み込もうとしたとき、後ろからエロ爺の声がはっきりと聞こえてきた。

 アンヌが露骨に嫌そうな顔をしている感じ、どうやら俺が居ない所でも似たようなことをしているのだろう。


「おや? 甘いお店かい? 儂が好きな苦い食べものはあるかの?」

「まあ…あるけどさ。その両頬の紅葉は無視してもいいのか? それとも触れたほうが良いのか?」

「まあ警察に捕まるかとは思ったが。触れないでくれると助かるの」

「捕まってしまえばいいのに…」


 すっかり元通りに戻りつつあるアンヌの精神状態だが、そんなアンヌと共に歩いて店の中へと入っていき二階のテラス席へと向かう。

 ここのお店のテラス席は巨木や大きな河までがはっきりと見えるので悪くない景色なのだ。

 俺はアンヌにハチミツのパンケーキを、リアンは苦茶葉を使ったパウンドケーキを、俺自身は三種のアイスクリームを注文した。

 アンヌの目の前には三段に重なっている大きなパンケーキが隠れるのではと思われるほどの量のハチミツが掛かっている。


「苦茶のパウンドケーキなんて食べられたものじゃないと思うけどな」

「なんでじゃ? 苦いパウンドケーキはお好きじゃないと? じゃがお前さんの家には苦茶葉が置いてあったじゃろう?」

「あれは貰い物だ。好き好んで苦い食べものや飲み物を取るわけないだろう?」


 見た目は普通のパウンドケーキなのだが、あれにはふんだんに苦茶葉が使われている。

 俺はリリン味と苺味と桃味のアイスクリームがお皿にクラッカーと共に乗っていた。

 俺の右隣でアンヌは幸せそうな顔をしながらパンケーキを口へと運んでいく。


「でじゃ。先ほどのアンヌのセリフではないが大丈夫なのか? まあ、お前さんなら大丈夫なんじゃろうな」

「大丈夫だろ。まあ落ちても別の方法を思いつくだけだし。政府から推薦されただけで俺個人これからナーガとしてやりたいことがあるわけじゃないしな」

「若者がそんな様子でどうするんじゃ? 今時のナーガの若者はそんな感じで消極的なのか?」

「今やドラゴン族の若者だって自覚無いな? どうだろうな。まだナーガの生活に完全に馴染んでいるわけじゃないしな。でも、最終的にナーガに身をうずめる覚悟はあるから仕事は見つけたいとは思っているよ。そういう意味でナーガ将軍職は確かに魅力的だし」

「アンヌも何か言ってやったらどうじゃ? この戦いしか目に移っておらん奴を」

「美味しい…うまい…幸せ」

「無理だぜ。アンヌは甘い食べものを食べている間は周りが何を言っても聞かないからさ。ほら見ろ…幸せそうな顔を」


 自分の体が縮んでいる事も、これからの事も全て忘れてこの甘いパンケーキをこれでもかと堪能している。

 口の端っこにハチミツが付いているが、アンヌはその付いているハチミツを舌でなめとるのだが、また子供っぽいなと思うだけ。

 背が縮んでということは無いのだ。

 これは元からの性格だし、だが昔はこんなにオープンに食べようとはしなかっただろう。

 背が高いうえに基本周囲から『屈強』とみられるアンヌ、実際速い強いという二つの強さを持って彼女は学校では敵なしでもあった。

 だから周りからは「甘いものに興味がなさそう」と観られがち、食堂で甘い食べものを食べているところを見たことは一回もない。

 かくいう俺も教会本部のある島で偶然居合わせた時にアンヌが食べているのを見ただけなのだ。

 それも俺の目の前で幸せそうに食べる彼女は俺が居るという事に食べ終わるまで気が付かなかった。


「そんなことがの…しかし、幸せそうに食べるの。今まで起きた不幸をこの一食で吹っ飛ばしているようじゃな」

「実際吹っ飛ばしているんだと思うが? どのみち一週間は派手な運動は禁止なんだから落ち着いていて欲しいね」

「ナーガ十将軍か…逸話は幾つか聞くが、一人で軍勢を吹っ飛ばしたとか、ヒューマン族の軍勢を軽くつぶしたとか、噂で良いのなら幾らでも聞く。最強の呼び名を持っておるが」

「う~ん。最強とは少し違うが。過去に将軍クラスが敗れたことはある。それも住人まとめて」

「ほほう。興味深い」

「興味を持つなよ。でも、正直考えられない方法じゃない。大体の奴は弱点になるしさ。封印に耐性があるのは勇者だけだから。正確には勇者になったことのある人間だけだ」


 勇者の刻印はつけているだけで封印に対する絶対の耐性を持つことになるのだ。

 俺に封印は効かない。


「なるほど。じゃが、十将軍をまとめて封印できる封印式などあるのか?」

「専用があるらしい。まあ政府の上層部が許可を出さないと使えないレベルのヤバい術らしいけど。一回だけ悪用されて騙し討ちである場所に呼び出されて封印されたらしいよ。しかも、封印されている最中は十将軍の引継ぎが出来ないからさ」

「厄介じゃのう…じゃが。だがからこそのお前を推薦したわけじゃな。最悪の状況化で封印できない奴を入れておきたい」


 そういう意味で政府の考えが読めてしまう。

 まあ、嫌じゃないから別にいいんだけどさ。


「だからかな。政府がこの大会を名目にしている気がするんだよな…俺を無理矢理でも入れようとしている」

「じゃろうな。出来レースじゃよな。じゃがお前さんは断らないんじゃな?」

「ナーガで過ごしたことのない俺にとってナーガ生きていく道なんて限られているとは思うし。戦うこと自体は嫌いじゃないからさ。誰かを救うことが誰よりも好きなだけだし。俺は趣味で人を救うだけだよ」

「なら…もしお前さんに救われたことを不満に思う人間が居ても…お前さんは救うのか?」

「救うね。俺が俺である為に救うんだから。嫌なら俺の知らない所で死ねばいい。それに…死ぬなんて楽な道を選ぶぐらいなら生きるべきだって思うしな。生きられる間は生きている事だけを考えればいいんだ」


 リアンは「核心じゃな」と言いながらパウンドケーキを口に運ぶのだが、リアンが何処まで本気で喋っているのか理解が出来ない。

 するとリアンの大きな胸元にパウンドケーキの欠片が落ちていき、リアンはそんな欠片をジッと見つめていると鼻血を流し始める。

 驚きと共に引く俺。


「え? なんで鼻血? 意味が分からない」

「いや…自分の胸なのにエロいのっと思ってさ…」

「この…エロ爺。もう自分の裸を鏡越しに見るだけで鼻血で死ぬんじゃないのか?」

「確かにの。この二週間何度風呂場で死にかけたか」


 そのまま沈んでしまえばいいのにな…自分の体を見て鼻血で死ぬとか笑い話だろ。

 まあやりかねないとは思うけどな。

 その後は特に記すことが無いぐらいくだらないことばかりをしていた気がする。

 アンヌにガーナンド・ロウを案内して翌朝、あの戦いへと身を投じることになるとは分かっていなかった。

 言えば…この時点でナーガ十将軍が追っている指名手配中の脱獄犯と俺は大会中に戦うことになる。

どうでしたか?

次回からはいよいよ戦いが始まりますが、今回はその前の小休止回であり、まあリアンのいつも通りの会話となりましたね。

リアンが居るだけで会話が面白くなるから楽で良いです(笑)

次は二十三話となります。

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