巨木と自然の街ガーナンド・ロウ 5
ガーナンド・ロウ編五話目になりますね…長いなぁ~(笑)
では本編へGO!
そのまま夕方までジャックの家でゆっくりとしていたアンヌは、夕食の為にとリアンと共にホテルへと帰っていった。
ホテルに帰っていく過程ではジャックが言っていた通りホテルの中に灯にふと目を向けてみると、確かにそれは一つの木の実だった。
明るく実っている木の実が廊下を明るく照らしており、自分の部屋の明かりもジャックの家にあった灯と同じもの。
「自然のままなんだね。不思議…」
すでに夕食を食べ終えたが、川魚の煮物も野菜と肉をパンで挟んだモノも美味しかったと思い出す。
夕食を食べ終えると外はすっかり夜も深まっており、町中は明るい街灯である木の実などで照らされている。
中央大陸では百万ガルツの夜景なんて言われていたが、そんな夜景に負けない明るさがある中、アンヌはジャックの家近くにあるリアンが言っていた橋を見つけた。
川も光り輝いており不思議な気配を放っており、アンヌは流石に寝間着で動き回る勇気はないため、昼にも来ていた服の上からカーディガンを羽織ってから外へと出ていく。
エレベーターに乗ってそのまま近くの出入り口から外へと出ていき、上から見えた場所までうろ覚えの知識を頼りに進んでいった。
「たどり着いた。結構近かったな…凄い。これ川に藻? これが光っているのかな? 下からの明かりで幻想的…素敵!」
「だろ? これ冬の時期になると振ってくる雪と共に幻想的に見えてくるらしいぞ」
「!? きゃあ!? ジャック君? え? どうしてここに?」
「? 今から銭湯へ行こうかと。このあたりの家の人は皆銭湯に行くからさ。ナーガ人は温泉大好きだし。アンヌもか? てっきりノアの村での出来事でウンザリしたんだと…悪い」
ジャックは失言だと分かり一気に黙り込んだまま川を見下ろす。
明るく照らしている分だけアンヌにもジャックにもお互いの顔がよく見えるが、兜顔をしているジャックはヒューマン族時代より分かり辛く、アンヌは落ち込んでいるのがよく見える。
ノアの村で温泉に入っている時はこんなことになるとは思っていなかった。
アンヌは内心後悔している。
「こんなことになるなら…ずっとノアの村に居ればよかったね」
「その時は俺が苦しむ羽目になる。俺と他の村人だと生きている時間が違うんだ。ナーガは所詮ナーガさ。いずれは村から出ていくことにはなった。村を巻き込まなかっただけましだよ」
「下手をすれば村を巻き込んだかもしれない? そうかもしれないけど…私は嫌だよ…だって半分は私の…」
自分がジャックの足を引っ張ってしまったと後悔しているのだ。
自分が捕まりさえしなければこんなややこしいことになることは無かった。
ジャックはアンヌの目線に合わせるためにしゃがみ込んで両肩に自分の両腕をそっと載せる。
「じゃあアンヌはあそこから逃げなければ良かったと思っているのか?」
今までで一番迫力のある声と威圧感にそっと目線を逸らしてから「そうじゃないけど…」と言い訳じみた声を出す。
別にあの場所から逃げたことを後悔しているわけじゃないが、それでもそれが原因であんなことになったのではとは思ってしまう。
「お前の所為じゃない。これは俺の一族の問題なんだ。俺の親にももう子供を作らないようにって言われているんだ。教会からすればナーガ人をこれ以上生み出されると困るだろうしな。でもさ。俺がそれでもお前が苦しんでいたのならたとえ世界の全てを敵に回しても助けに行った」
「それは言い過ぎ。その時は世界を優先してほしい」
「一人の身近な命を見殺しにして周りから評価されろと? 絶対に嫌だ。俺が勇者に選ばれても絶望しなかった理由だってお前も含まれているんだ。俺の世界にはお前が居るんだ。あんな狭い村で過ごしてきた狭い世間しかなかった俺に君は現れた。俺達はお互いにお互いの世界がある。きっとお互い好きになる人がいて、お互いに家庭を持つ。種族間の問題をいくら解決してもそこだけは一線を引かないといけない」
アンヌも別段ジャックと結婚したいとは思っていないので、この言葉だけは否定しない。
所詮はその種族ごとに種族ごとの未来がある。
少しでも種族間に分かり合える余地を与えたい、その為にも今目の前にある問題に一つ一つ対処すると決めた。
ジャックは一拍おいてからはっきりと語る。
「でも。それでも俺はこれからもお前と歩いていきたいんだ。お前が俺の事で涙を流して後悔しているのなら、俺もお前がそんな姿になって後悔しているんだ。ゴメンな…助けるのが遅れて」
震えているジャックの両手にアンヌは自分の両手をそっと添えて一度目をつむってからもう一度ジャックの兜顔を見る。
今なら分かると。
「今泣いてるでしょ? 兜顔で分かり辛いけど…今なら分かるよ。赤い瞳がよく見えるね」
「今言う事か? 赤い瞳はナーガの証拠。兜はナーガの男性の顔だ。涙も分かり辛い。でも…俺は嫌いじゃないんだ」
「私はヒューマンが嫌いになりそう。嫌なの…寂しくて卑しい。でもね。ジャック君が…ううん。ジャックが言う通りヒューマンの中にもノアの人達みたいに優しい人だっている。それも真実。でもね。今まで勇者に助けてもらっておいて、役目が終わって真実が分かったとたん掌を返す…大っ嫌い!」
「フフ。漸く昔のアンヌに戻ったな」
「あんたが悪いのよ? でもね。あんたが好きでいてほしいって思うのなら…努力はするわ」
ジャック自身別にアンヌの気持ちを理解できないわけじゃないが、それでもアンヌには自分とは違ってヒューマン族の問題に立ち向かうことが出来るはずだと考えていた。
ヒューマン族の問題そのものはヒューマン族にしか解決できない。
他種族には手出しするような話ではないが、だからこそジャックはアンヌの味方でいる努力をすると決めている。
「さて…俺はこのまま銭湯に行くが?」
「私はもうシャワーを浴びたから帰るわ。じゃあ明日」
ジャックも「明日」と手を振ってから銭湯へと向かって歩き出していった。
そういえばアンヌはどうしてあんな場所に居たのだろうか?
夕食を軽めに終わらせるために俺は家から歩いて十分の所にある外食店で適当なディナーを過ごし、そこからそのまま銭湯へと向かおうと思って橋へと差し掛かった所で川を見下ろしているアンヌを発見したのだ。
川が放っている光のお陰でアンヌとハッキリと理解できたのは良いが、今からすればなんでホテルを抜け出してここに居たのかは不思議だったりする。
シャワーも浴びて夕食も食べたのなら出かける理由は無いだろうし。
まさか光る川が珍しいなんて理由じゃないだろうし…謎だ。
「まあ明日聞けばいいか…明後日には大会か。別に興味があるわけじゃないんだよな」
正直に言えば将軍とか軍とかはあまり興味が無いが、しかし今まで戦いの中で戦ってきた自分が生きやすい場所は結局でここだと思えたのだ。
まあ、戦い自体嫌いじゃないし。
最も戦闘狂じゃないのでその辺を求められても困るが、それでもその辺で研究とか農場とか畑作業とかを求められても…困る。
死ぬほど興味ないし。
今住んでいる家も気に入っているし、町の人達の雰囲気も好きだ。
「やっぱり勇者なんだよな。誰かを守っている間が一番好きだ。俺は誰かの評価の為に守っているわけじゃない。俺は守っていたいから戦うんだ。強くなりたい…強くなり続けたい」
強くなる理由が明確である俺にとって鍛えることや強くなっていくことにまるで迷いが無い。
向上心とでも言うのだろうか?
でも、同時に分かってしまう事は俺は人より努力の数で言えば少ない方だ。
一が分かれば十まで理解し、十まで理解すれば百まで出来て、百まで出来れば限界を超えて突き進む。
人に出来ない事でも俺には出来てしまうことがおかしいことだと分かってもしまう。
教官から『魔術は詠唱破棄が出来たのなら印で行う他のテクニックも使えるはず』と言われ本をサラッと眺めて一回使ってみるだけで俺には使いこなすことは可能だった。
上位属性も理解できてしまったし、術式融合の種類も増やし続けている。
多分だが、俺には敵の術式や技すら利用できると思う。
やったこと無いからはっきりとは言えないが。
「試してみたいんだよなぁ」
そんなことを呟きながら俺は銭湯へと辿り着いた。
どうでしたか?
夜で川に流れている藻が明るく光っている光景は普通に幻想的だなって書きながら思いましたね…見てみたい気がするな。
では次は二十一話でお会いしましょう!




