君想う 2
休息は嵐と共に十二話目となります。
今回はファンという女性とのお話です。
では本編へGO!
ジャックは結局そのまま何故か上機嫌だったアンヌと共に歩いてホテルに帰ってくると、ディラブが異様なほど不機嫌な態度で待ち構えていたのを遠目に見た瞬間に面倒事だなと直感した。
そして、その面倒事と言うのが自分達が昼過ぎに起きた例の事件であることは決して違わないだろう。
そう思いどう言い訳をしたらいいのかを二人で考えながら歩き、到着すると同時にとりあえずもっともらしい言い訳をしてから三人でホテルに帰ると、大きくテンションの落ち込んでいたリアンとファリーダが出迎えてくれた。
心底興味が無い感じでアンヌはファリーダに「何が在ったの?」と聞いたのだが、ファリーダは全く心当たりが無かったらしく「さあ?」と答えるだけったが、肝心のテンションが落ち込んでいるリアンが全く答えず大きく深いため息を吐き出しているだけなので誰一人聞かないことにした。
ファリーダ曰く映画を見たりと普通だったらしく、昼を超えたあたりまではまだテンションは高かったらしいのだが、その後もフラフラしているだけで特に代わり映えのしない時間だったらしく、ファリーダは見慣れないナーガの街という事もありテンションは若干高めだったのだが、反比例するようにリアンのテンションは低く落ち込んでいった。
「まあ、美女が二人。しかも、一人は女の人を見てテンションが高く気持ち悪い息遣いをしていたら女性は近づかないわよね」
「見込みが甘い。そもそも女性が女性にナンパするわけが無いし、そんな態度で近づいていけば警備員などがすっ飛んでくるぞ」
「聞いてくれ! ファリーダ! この二人はトラブルに首を突っ込んでおったのだぞ!? なら俺を誘えと言う話だ!」
「そもそも今日一日何処に居たんですか? ディラブさん。私一度連絡を取ろうと電話をした際繋がりませんでしたけど?」
「? そういえば鳴っていたような…先頭に夢中で気が付かなかった」
「だったら俺達がどんなに連絡を入れても出ないよな? 電話に。だったら不満を抱くなよ。そもそもそこまでのダンジョンじゃ無かったし、お前の苦手なタイプの敵だと思うぞ」
単純に力技で解決できるのならディラブは得意分野なのだが、あの敵は下手に力づくでの解決を選ぶと女性と無理心中しかねないのだ。
そういう意味ではジャックは敵から女性を引きはがす際に会話で上手い事引き離した。
「ディラブが居たら絶対に足手纏い。そういう意味でジャックが一緒で良かったわ。他にも面白いこともあったし?」
全く身に覚えのないジャックは首を傾げるが、ファリーダとディラブとリアンは興味があったのでアンヌに「何があった?」と聞きに行く。
ジャックには聞こえないようにヒソヒソ話で先ほど起きたことを話すとジャックの方を見てニヤニヤしたり、かと思えば深刻そうな顔をしたりとジャックにはイマイチピンとこない状況だった。
その後ネリビットとメイビットが合流してそのまま夕食を頂くことになったが、夕食は外で食べないかと言うネリビットとメイビットの提案でそのまま一緒に外に出て食事を取ることになった。
この前とは違う場所、雨がまだ降っているのでなるべく近場にしようという話になり、歩いて五分の場所にある小綺麗なレストランで夕食を取ることになる。
「明日は普通に海に入れるのよね?」
「なんでそんなに泳ぎたいんだ? 泳ぎたいならプールでも良いだろうに」
「分かってないわね。海だから良いんじゃない」
アンヌは切ったフランスパンにチーズを塗ってその上に生ハムを乗せたものを口口頬張ってから「やれやれ」とジェスチャーをする。
ディラブが「ダンジョンで鍛える」と言い出したのを全員でため息を吐き出しながら見守る。
この場合誰も止めない。
止めても意味が無いと分かっているからだ。
ディラブが「行く」と言った以上行くことは彼の中では絶対。
「じゃあ、明日も各々動くという事で良いでしょうか? 別に団体行動する理由も無いでしょうし」
「だよね? 俺と姉ちゃんもちょっとやりたいことがあるしな」
「うん。実は作った物を売れそうなフリーマーケットを見つけたの。明日もあそこで幾つか売ってみるつもり。実は昔作って放置していた品が幾つかあってね」
「なら、私が手伝いに行きましょうか?」
「ほんと? ファリーダお姉ちゃんが一緒なら助かるよ」
リアンが遠い目をしながら「儂はどうするかなぁ」と暇そうにしていたが、ここでジャックは別段一緒に行動しようとは思わなかった。
レストランからの帰り道それぞれ分かれてホテルに帰ることになり、その頃には漸く雨も上がりジャックも少し遠くにある大通りの方へと歩いていく。
ガス灯をイメージした灯と各店などの建物からあふれ出る明かりが夜の街でも多少は明るく照らしていた。
別段買いたい物があるわけではなかったが、適当な店に入っては品物を見て回り、気になるものがあれば買うぐらいの気持ちで見て回っていると、今日知り合ったフェンと出会う。
簡単な買い物袋を提げている姿を見たジャック。
「今から夕飯か?」
「いいえ。それは簡単に済ませたのですが、明日の朝ご飯とお昼ご飯でも買ってこようかと思い。ジャック様は何故?」
「夕食も終わって適当にぶらついているだけだ。散歩は嫌いじゃないしな。こういう知らない街は散歩すると結構楽しかったりする」
「私も嫌いじゃ無いです。でも…怖いです」
今日昨日では仕方が無いとジャックは思った。
こうして人間の悪意と言うべき一面に触れて、好意すらもその人を殺す貶める原動力になるのだと知って、それでも知らない街を歩くのは怖いだろう。
そう思っていたが、彼女が怯えているのは違う理由だった。
「こうして一人で歩いていると、孤独を感じて怖いんです。でも、皆で歩いているとどうしても他人の事ばかり考えて…そう思うと私はきっと一人になりたくないし、かといって多くの人と一緒に歩いていくのも嫌なんです。そんな我儘な私が嫌いです。そして…怖いです」
「それは慣れの問題とかじゃ無いな。君が孤独を感じて怖いと感じ、我儘な自分が怖いと思うのは君が大切なたった一人を探しているからじゃないのか?」
「かもしれません。でも、私は今まで好きになった人は二人いましたが、一人は私と無理心中をしようと試みて、もう一人は私を置いて死にました。私は孤独も怖いし、我儘な自分も怖いです。でも…」
「親しい誰かを失ったり裏切られたりするのも怖い?」
「…はい。多分私は怖がりなんです。人と繋がることを求める癖に多くの人と繋がることは嫌がって、そのくせ大切な人を見つけても失う事を想うと一歩踏み出すのが怖い」
ジャックには別段理解できない感情ではない。
こうしてナーガで生きていけば嫌でもいずれ知る事、ヒューマン族とは寿命の差をはっきりと感じる。
そうすれば両親はあっという間に死ぬし、中央大陸で出会った親しい人達も失っていく。
では、結局でどうすればいいのか、それは分かれの分だけ出会うしかない。
「誰かと出会うのが怖いならその恐怖を克服するしか無いな。それ以外で明確な方法なんて存在しない。この世界には願えば叶えてくれる万能器なんて存在しないのだから。結局で…」
そこまで喋った所でジャックは一旦会話を止め改めて話し出す。
「なら、明日一日俺と付き合ってくれないか? 君が知りたい」
「え? わ、私で良ければ…」
どうでしたか?
次回もそのまま翌日へと話は続きます。
では次は間幕休息は嵐と共に十三話目でお会いしましょう!




