君想う
休息は嵐と共に十一話目となります。
今回はトラブル解決回となります。
では本編へGO!
ジャックは大太刀を抜き出してそのまま男の方へと歩きながら近づいていくが、男はジャックがただならぬ気配を纏わせていると気が付くと女性を盾にして脅しつけてきた。
ありきたりなセリフを前にジャックは目元すら全く動かすことなく距離を詰めるだけ、同時に距離を詰めれば詰めるほど男は女と共に後ろに下がって行く。
ついには行き場が無いほどに追い詰められてから男は退路を完全に失ってしまうわけだが、それでも男は諦めようとはしなかった。
「そうだ! これは僕への試練なんだ! 彼女と幸せになれと!!」
「どこまでもおめでたい頭の持ち主だな。この期に及んで未だに自分には問題はないと思っているのか?」
「そうだ! 彼女が僕を殺し! 僕は彼女に殺された! それ以上の結果があるのか?」
「お前が彼女の気を引こうとワザとこけたという可能性を排除している時点でめでたいな」
「…な!? そ、そんなわけないだろう!!」
「どうした? 焦っているようにも見えるぞ?」
煽るジャックに対し男は焦りを滲ませるが、そんな意外なセリフを前に女性は驚きと共に男の顔を見た。
「無論打ち所が悪かったのは本当の意味での運が悪かっただけだが、それでもこけたのはワザとだろ? そもそもそこの女性は其処まで体格がいいわけじゃないし、お前の方が経験的にも強そうだ。魔力の絶対値は恐らく彼女の方が上だがな」
「う、五月蠅い!」
「その狼狽え方…魔力の絶対値が高い女性を狙っていると見た。恐らく小作りに意味があるんだな。ナーガの子孫は親の魔力の絶対値が関係する。お前の魔力の絶対値は同世代の男性ナーガに比べると若干低い」
「ぼ、僕が劣っているみたいなことを言うな!!」
「劣っているだろう? 魔力の才能でも、女を扱う才能でも、人間性でも劣っているよ。その上顔面がナーガの男性らしく隠れて居るんだから救いようがない…フン」
「鼻で笑ったな!? この僕を!! 銀行の取締役の一人息子の僕を!?」
「元銀行の取締役の一人息子の違いじゃ無いのか? 貴様は死んでいるんだからな。最もその言い方を見る限りだと親の魔力を受け継いでいてその絶対値か…金持ちとなると親同士の魔力もそこそこ高そうだ。そのうえで…成程。くだらんな」
「ど、どういう意味だ!」
「訓練を続けずに堕落して生きてきたな。金に物を言わせて。その上親から見捨てられて…」
「ち、違う! お父様が僕を見捨てるわけが」
「アホか? 貴様は。先ほどそこの女性が言っていただろう? 彼女は不問にされたんだぞ? お前が金持ちの子供で親から溺愛されていたのなら彼女が許されることは無い。その時点でお前は親から縁切りされているという事だろ? そんなことが分からないくらいに馬鹿という事か?」
「あ、ああ…ああああ!!!」
その瞬間男は女性から完全に手を離し一瞬の最中隙間が生まれ、その一瞬の隙を一切見逃さなかったジャックはあっという間に距離を詰め、男のナイフを左手でしっかりと握りしめて男の鳩尾に大太刀を突き刺した。
突き刺した大太刀だが、残念なことに幽霊という事もありダメージにはならなかったが、それはジャックも推測済み。
「ぼ、僕を殺すことは出来ないぞ」
「はぁ? お前を殺す? 死んでいるからダメージが無いんだろ? それにお前を消す手段ならあるさ。だからこその大太刀なんだ」
ジャックはブラックホールの術式を大太刀に吸収させてそのまま倍返しの要領で刃先に纏わせて男の体を消滅させてしまう。
その間女性をしっかりと抱きしめて離さないジャック、気が付けば周りの空間が崩れていくのがはっきりと分かった。
「放すなよ? このまま離脱する」
「で、ですが…手の血?」
「おいおい。ナーガだぞ? 傷ぐらいすぐ治る」
「そ、それは…一般的なナーガはそんなに瞬間的には…」
「俺は十将軍だ。これくらい傷にも入らん」
共に空間から脱出したジャックと女性、アンヌは問題の絵画を聖術でしっかりと封印し特殊な素材で包装してから片付けてしまった。
そのまま姿を現すとアンヌは「もう大丈夫でしょ?」と安堵の息を洩らす彼女に近づいていく。
「それにしても…あのまま彼女事やる気なんじゃないかって心配したじゃない」
「そんな事するか。あの男の性格や彼女の会話を考えてあの男の凡その結果が見えたからそれを離して混乱した隙にやると決めただけだ」
「あの…この度は本当にありがとうございました!!」
「良いさ。そもそもこの場に来て違和感に気が付かなかったら助けようとも思わなかった。それよりここの館長さんに話をしてきた方が良い」
「それなら私がしたわよ。話を聞いていたから内容は理解できたし、館長さんがこの近くに人を近づけないようにって人払いの結界を張ってくれたし」
「そうですか…この御恩を何かでお返しできればと」
「要らないさ。恩を売りたくて助けたわけじゃない。俺が助けたいと思ったから助けたんだ。君が彼に同情したように、俺は君に同情しただけさ。君だって男の話を完全に信用していたわけじゃないんだろう?」
彼女は黙りこくり項垂れた状態でコクリと頷いた。
「言っておくけど、それを私は美徳だとは思わないわ。人が人を愛するという事は尊いとは思うけど、それが人を殺すまで行くことを私は認めない。それは美徳じゃ無くて呪いよ」
「はい…でも、本当にありがとうございました」
そのまま三人で館長さんに話をしに行き、彼女を一旦病院で診てもらう事にしたジャックとアンヌは一緒に病院まで雨の中付いていくことにした。
そんな中、彼女は自らの名を『フェン』という名であることを教えてくれた。
些細な会話を続けながらふとフェンは気になる事を聞いてきた。
「お二人はお付き合いをしているんですか?」
その瞬間ジャックはどう答えたら良いのか口を閉ざしてしまったが、その瞬間にフェンは何か聞いてはいけないことを聞いたと失言に気が付いて「すみません」と素早く誤った。
そんな言葉を遮るようにアンヌがあっさりと喋る。
「兄妹よ。どっちが兄でどっちが姉が知らないけど。血の繋がった兄妹。種族は違うんだけど、複雑な事情でね。この男は元勇者なのよ」
「あ、そうなんですか? でも、ナーガの勇者はナーガから選ばれるんですよね? でしたらアンヌ様は?」
「それがね? 私達のお母さんがナーガの血を引く人間で、お父さんが純粋なヒューマン族だったらしく、父親が私とこの男で何か狙っていたらしいの。私達はその理由を知りたくて旅をしているのよ」
「まあ、そういうわけだ。俺は幼い頃から自分が純粋なナーガだとは知らなかった。今から思えば純粋なナーガである最もらしい理由はあったがな。自分をヒューマン族だと信じていた」
「そうだったんですね? 私…知らなかったとは言え申し訳ありません。そういう事って教えたくありませんよね?」
「そうかしら? まあ、私はまだ信じているわけじゃないけどね」
「蒸し返すなよ。その話題。そう喋った以上は認めろよ。面倒だろ?」
二人の言い争いを見ながらクスクスと笑うフェンにジャックも同じように笑ってしまう。
病院に到着してから直ぐに体を見てもらったが特に問題は起きていなかった。
彼女は改めて二人に感謝しつつ病院前でお別れをすることにしたが、アンヌが珍しく「連絡先を交換しましょ?」と持ち掛けて三人で連絡先を交換した。
最後に分かれる際アンヌは「頑張ってね」とフェンに耳打ちした。
「あれは手ごわいわよ。基本中々惚れない男だもん。頑張ってね?」
そんなことを言いながら去って行くが、ジャックは最後の言葉だけは一切聞こえなかったので、アンヌに「何を言った?」と尋ねた。
しかし、アンヌは小悪魔のような顔を見せながら「自分で考えれば?」としか答えなかった。
どうでしたか?
今回登場したキャラクターである女性は本編にはそこまで関わってきませんが、ジャックにとっては重要なキャラクターです。
では次は間幕休息は嵐と共に十二話目でお会いしましょう!




