俺と私の始まり 6
間幕休息は嵐と共に八話目となります。
ジャックとアンヌの過去話の終わりとなります。
では本編へGO!
アンヌは選んだデニムを買い物かごに入れてから「はい?」と素朴な疑問を口にしてジャックの方へと振り返る。
「その子は同性愛者ってやつなんでしょ? そう言ったわよね?」
「言ったな? それが?」
「なのにその日の内にその女の子と付き合ったわけ? 意味不明なんだけど。そもそもその子が知った過程も気になるし」
「それがあの町少し大きな美術館があった事覚えているか? ほら五階建ての大きな真っ白な神殿風の建物の美術館」
「ああ。在ったわね。私は小さいほうの美術館の方が好きだったけどね。あそこ色々曰くが在ったって聞いたし」
「在ったというか…その曰くが同時進行で起きていたんだよ。当時俺はそれを何となくで把握はしていた」
アンヌが「はい?」と再び渋い顔をしながら振り返り「どういう意味?」と尋ねた。
「あの美術館から不思議な魔力のような力が発せられていたのは見て分かった。今思えばナーガの血がそう見せていたんだと分かったけど。当時は分からなかったんだ」
「知らなかったわけだし。それ建物から出ていたわけ?」
「いや…正確には場だな。あの場所そのものが色々問題のある場所だっただけだ。龍脈というか霊脈というかが重なっている場所で、霊的にも不安定な場所なのに、その場所に美術品を扱う建物を建てた上に、その建物が神殿風にしてしまったばかりに場が曰くを含んでしまった」
「まあ、建物や内装に霊的な力は影響を受けるしね。よく廃病院とか廃墟には幽霊が居るとは言うけど、あれは場の雰囲気に霊的な力が影響を受けたからが理由だしね。イメージって意外と大事だし」
「とはいってもあくまでも曰く。噂話が一部で現実になるというか、現実が噂話に影響を受けるというか。はっきりと言えば「この美術館ではその人の本心を知ることが出来る部屋があるらしい」と言う噂があるんだ」
「? あったかしら?」
「お前は興味が無かったから聞かなかったんだろ? 同学年同士だと結構噂の種だったぜ」
アンヌは右手の人差し指を顎先に触れながらふと考え込み、何度か深く思い出すが、アンヌは幼い頃から噂話には己の趣味趣向が傾くものしか興味がわかないのだ。
だからこそ当時学生間で流行っていた噂の大半には興味が無く仕入れていなかったが、当時から人助けを趣味と言い切るジャックはそういう噂もしっかりと仕入れていた。
入学当初よりしっかりと探りを入れていたため、それが場の影響を受けて生み出される存在しない部屋だという事は分かっていた。
「変な話ね。存在しない部屋が生み出されるというのは」
「性格じゃないな。生み出されるんじゃない。存在しない部屋なんて無いんだ。その名の通りな。存在しないものは生み出されないさ。ただ、落ちているだけだ」
「? どういう意味?」
「夢の中にな。場が強い霊力を持っており、建物が神殿風に作られている為にそんな風に見えるだけだ。ただ、現実と夢の境界をあの場所があやふやにしてしまう。存在しない部屋は正確には建物を作った際に過剰に作られた無駄な廊下だ。その先にまるで部屋があるかのように見えた者が夢の世界へと落ちていく。すると、その先に霊的な部屋が生まれるんだ」
「ねえ…それって堕ちた人間は…」
「最悪だとそのまま…死ぬ」
「成程…だからアンタはその都度助けに行ったわけね?」
「ああ。その日も夢に誰かが落ちたと知って助けに行った。でも、違ったんだ…」
「? 違った?」
「普段は落ちるんだ。でも、仕組みを理解出来れば相手を落とすことも出来る。理屈だとな…そうやってその人の本心を知ることも…殺すことも出来る。何せ夢に落ちてしまった人間は無防備だ」
簡単に殺すことが出来るとジャックは指摘した。
「その子は知ってしまったんだ。好きな男の子の本心に。自分が好きじゃ無いという真実に。俺が部屋に入った際その子はナイフでその子を殺そうとしていた。急いで止めた時その子の感情が大きなうねりとなって嵐を呼んだ」
「霊脈がその子の強い感情に影響を受けたのね。霊的な力が環境に悪影響が在るのは良くある話だし」
「ああ。同時に彼女の感情が生み出した悪魔が襲い掛かってきた。俺は当時武器までは持ち歩いていなかったからな。その気絶した男の子を起こして逃がすだけで精一杯だったが、その男の子は逃げなかったんだ。自分の本心と隠した気持ちに向き合った」
「??」
「その子は自分が同性愛者という真実に向き合っていたが、同時に彼自身は女性を好きになりたいとも思っていた。だが、一度好きになった男性が居た。それもあり、その子は女の子の好意に気付かないふりをしたんだ。最終的にはその子自身で決着をつけたわけだ。その二人は濃交際を続ける事、ただ、意見の不一致が起きた際はきちんと話し合うと決めてな」
「それで私が傘を持っていない事と、あんたが傘を持っていたことはどうつながるのかしら?」
「ああ。その際に外が嵐になっていると分かって、俺は美術館で傘を借りた。次の日に返したしな。それで急いで帰ろうと思った際、その女の子が「近くでアンヌさんを見た」と言っていてな。お前が傘を持っていないかもしれないと言っていたから途中で買って持って行ったんだよ」
「え? あれ…買ったの!?」
「ああ。当たり前だろ? わざわざ家に戻る馬鹿が何処にいるよ。適当な店で買った傘をお前に上げただけだよ」
「それで貴方私が傘を返しに行っても受け取ってくれなかったの!? それを早く言いなさいよ!!」
「なんで怒るんだ? 別にどうでも良いことだろう? それよりまだここで買い物をするのか?」
アンヌは特に悪びれないジャックに深くため息を吐き出した。
どうでしたか?
次回はちょっとしたトラブルに巻き込まれます。
では次は間幕休息は嵐と共に九話目でお会いしましょう!




