巨木と自然の街ガーナンド・ロウ 3
ガーナンド・ロウ三話となります。
この先ガーナンド・ロウのお話は続いていくつもりですが、世界観を何となく理解してもらいたいと思っています。
では本編へGO!
ジャックがこの一週間で更に習得したテクニック『魔術ストック』から始まる様々な魔術、元よりナーガなのでその辺り才能があるのだが、それ以上に本人の才能を目覚めさせたきっかけは彼が勇者だったからだろう。
聖術を使いこなしていた時の影響で彼は魔術を使いこなすことが出来た。
「魔術ストックって魔術をストックしておける奴? 私達聖術使いが術式をストックして使うみたいなやつ?」
「そうそう。最大で二十四時間で五つまでストックして使うことが出来るんだ。それ以外にも二つ以上の術式を融合したり作った術式をそのまま複製したりできる」
「本当に化け物ね。ナーガでもそこまで出来る人そうはいないでしょ? ましてや二十代が」
「だからさ…聖術を同じレベルで扱える人に『化け物』って言われたくないんだよね。『自己加速術式』と『他者減速術式』を同時に使って一瞬でことを終わらせる『閃光』に言われたくないんだ」
「何がおかしいの? 自分を加速させて、相手の思考などの認識速度を減速させれば反撃されずに撃破出来るでしょ?」
「使い方がエゲツナイって話よ」
ちなみに周囲にいた人達は二人の化け物話に付いていけなくなったのか自然解散していった。
「組み合わせに文句を言われたくない。どうせ、貴方もエゲツナイ術式を幾つか作ったんでしょ?」
「………まさか。一回でも言ったかな?」
「顔に書いてあるわ。エゲツナイ術式を作ってしまいましたってね」
「書いてあるわけないだろう? 適当を言うなって」
ジャックは作っていた。
エゲツナイレベルの術式を幾つか、アンヌはお見通しで「なに作ったのよ」と聞いてくる。
なぜ言わないといけないのかとジャックは思うが、一度聴いたら絶対にひかないアンヌ。
「無制限圧縮吸収魔術なら作ったかな…『ブラックホール』って名前なんだけど。特許を申請したら間違いなく禁術していされるレベル」
「ほら…作った。他にもいろいろ作ったんでしょうけど聞かないで上げるわ。話題変換。他のナーガとは上手くやってるの? 近所さんとか」
「まあな。そういえば今の家庭にリリンの実がなってるんだ。近くにもリリンの実の木が無数に自生しているんだよ」
リリンの実は手のひらサイズの楕円型の木の実で甘酸っぱく触感はサクサクとしているのだが、中央大陸では自生していないので高価な食べ物な上乾燥して売っているから生で食べた人はあまりいない。
ナーガ大陸にしか自生していない珍しい木の実なのだが、ナーガに住んでいる人には珍しさは全くない。
何せ家に生えている人もいるぐらい身近な木の実で、最初は赤く実が熟していくと青く変色するのが特徴、赤い時期は甘酸っぱさは全くなく酸味が強すぎる。
「リリンの実は潰してジャムにしてもいいし、そのまま食べても美味しいの。でも私も生は食べたこと無いな…美味しい?」
「多分乾燥した奴より倍は美味しい。俺もこっちに来て初めて食べたけど凄い甘い。自生しているエリアを見てみたら視界的にも美しんだよな。リリンの実は春から夏にかけて熟れていくんだよ。こっちは南半球だからちょうど今頃の時期に熟れてくる。俺の家のリリンの実は半分ほど熟れてるよ。ジャムにして保管してある」
「いいな…リリンのジャムなんて売ってないもんね。中央大陸じゃ高価な品だし。私も自分で時折作っているぐらいだし」
「仕方ないさ。外からの輸入品なんて珍しいからな。外と交流を持っている国は数えるほどしかない」
アンヌはリリンの実を生で見たことが無いのでどんなふうに自生しているのか、それをしっかりとこの目で見てみたくなった。
ジャックは「じゃあ帰りに少し見てみるか? 何だったら食べてもいいけど」と聞いてみる。
「いいの? 遠慮しないけど。じゃあ食べてみようかな。自生しているって所有地だよね?」
「まあな。このガーナンド・ロウでは広範囲でリリンの実の自己栽培をしている人は多いよ。収穫後ナーガ大陸内ならそのまま発送して、国外なら乾燥させてから発送するんだ」
「でも、乾燥させるってそのまま外で天日干しにするの?」
「そうだよ。だから雨の日が続けば乾燥させられないから出荷できないんだよ。だからリリンの実は国外では高級品なんだ。生は大陸に来ないと食べられない。感想には結構時間が掛かるから天気との勝負だよな…聞いた話じゃ少しでも雨が降りそうなら止めるそうだから」
「うわぁ…それは高級品になるわけだね」
アンヌも乾燥した品を市場などで見かけた時にしか買わないが、実際に見たことなんで数えるほどしかない。
それだけリリンの実自体高級品だし、その実を知っているだけで食ったことがあるかと言われたら中央大陸ではほとんど無い。
実際ジャックも幼い頃から存在は知っていたが、売っていたものを見たのは学校に通うために寮生活をするようになってから。
大きな街の市場でしか売らないから出かけないと絶対に見つからない。
「楽しみだな~」
本当に楽しそうな表情を浮かべるアンヌは口元に手を添えてにっこりと微笑む。
「でもやっぱりナーガ大陸って自然が多いよね。中央大陸だって負けてない気持ちだったけど、それでもナーガには負けるよね。飛空艇でこっちに向かっている時も見たけど。大陸の殆どが森と川なんだもん。でも山は少ないイメージかな?」
「そうだな。大陸全体があまり凹凸が少ないイメージかな。その分ひたすら自然が多いけどね。俺は嫌いじゃないし。アンヌは?」
「私も嫌いじゃないかな。都会的な場所よりこういう場所が好き。でも、観光で来たら結構ヒューマンの観光客は多そうだよね。ちゃんと落ち着いたらご両親や村の人達を案内してあげたら?」
「良いな。その時はアンヌも一緒に見て回ろうか。今はまだゆっくりできないしさ。さて…」
ジャックはゆっくりと立ち上がり腰を伸ばしながらアンヌの方へと手を伸ばす。
差し出された右手にそっと触れると昔とは違う大きくゴッツイ手に包まれる。
「あの頃はジャックが一番小さかったのにね? 今は逆転されちゃった…あの頃が一番かわいかったな」
「アンヌは今が一番可愛いよな?」
アンヌはとっさに顔を赤らめるのだが、ジャックとしては皮肉を言ったつもりだったのだが、何故顔を赤らめるのかまるで理解できないでいた。
アンヌはとぼけた顔をするジャックに三度ため息で返してからベンチから飛び降りる。
「帰りにリリンの実を食べるなら早めに出よう」
「良いの? 今日は練習しなくても」
「ああ。教官からも実力だけなら十分だし。魔術の最終チェックが今日の役割で、明日は試合前にしっかり休むようにって言われているしな」
「大会はどこで? 首都?」
「首都のメルザレム地区にある闘技場だな。ナーガ庁のあるメントル地区から電車で一本で行ける場所。大体十分ほど。古い町並みが続く場所で闘技場を中心に作られているだってさ。旧名称が旧市街地。昔はあそこにナーガ庁があったそうだよ。百年前に首都の再開発があって、今の場所に移転したって聞いた」
「旧市街地ってどんな感じなの?」
「俺も行ったことがないから何となくだけど、黄色いレンガとツタが特徴的なんだけど、結構古いからあちらこちらでひび割れているんだ。安い家賃の家ばかりらしいけど。石造りだと古くなると結構困るよな」
「そうかな? まあ長く住むとボロボロになるけど、石とかレンガで作るとその辺怪しいよね。まあ木も古くなったりすると危ないからね」
アンヌはジャックの前を歩いていくのだが、ジャックはそんなアンヌに「俺の家分かるわけ?」と聞くと歩いていた足を止めてから不貞腐れるように両頬を膨らませてジャックの後ろに回る。
校門をくぐって出ていきアンヌは来た森を通り抜けて再び露店が立ち並ぶ大きな道前まで戻ってくる。
そこからジャックは右の方へと曲がって迷いなく突き進むと、アンヌの視線の先に小高い丘が見えた。
丘には木々がはっきりと見えてくる。
「あの丘に俺の家がある。丘の上は大き目の広場になっているんだ。出店が多いけどね。お店もあの周りにあるから下まで降りずにあの広場に行けば揃う」
「そうなんだ…あっ!」
「え? 何? どうした?」
「リアンさんを置いてきた。大丈夫かな?」
「? 俺達の後ろからナーガの女性にナンパしているドラゴン族の女がそうじゃないのか?」
ジャックが指さす方向に顔事視線を向けると、赤い着物を身に纏いはっきりと見える角の生えた大きな胸の女性が、ナーガの女性に対してナンパをしている光景だった。
ちゃんと後ろから付いてきていたようだが、やっていることが事なので無視することにした。
歩いて三十分で丘への道前までたどり着き、丘までの坂をどんどん上っていくと下の方からリアンの「待ってくれぇ」という情けない悲鳴が聞こえてきた。
「運動能力無いな~もう少し頑張れよ。そこまで急な坂道じゃないぞ?」
「そうですよ。普通じゃ無いですか」
「年寄りは労わるものだと思うが?」
「年寄り? ドラゴン族の七十歳は若造だろ? ナーガと同じ寿命なんだからさ俺と一緒。若造。若造」
「ただの運動不足です。そんな肌が潤っている年寄りがいてたまりますか」
「全く…本当に少し前までは年寄りで済んでおったのにの…悲しい」
「ナンパしまくっているセクハラ女が何を言うかね。外見は若い女性で中身はエロ爺が」
ジャックはまるで気にする素振りを見せないまま黙って歩いていくこと五分、丘の上に比較的近い場所にそれはある。
庭から外に向かって大きく突き出たリリンの実をぶら下げた木、家の周りを自然に出来た植物による柵が出来ており、玄関前には植物のアーチがあった。
アーチを潜って石畳を踏んでいき歩いて玄関前までたどり着く。
木で出来たドアに金属のドアノブ、ドアノブの上にある鍵穴に一本のカギを差し込んで捻ると『ガチャン』という音がなりジャックは家のドアを開けた。
「結構風情がある家じゃな。じゃが…見た感じ最近改築したか?」
「この辺の家は最近全部改築したんだってさ。それもちょうど去年ぐらいの話らしい。で、たまたま改築したこの家に誰も居なかったから俺が今住んでいるってわけ」
「なるほどの…良い家じゃないか」
どうでしたか?
この序章はジャックの戦闘シーンはあるつもりですが、まだまだヒロインやリアンの戦闘シーンは無いつもりです。
第一章からはそういうシーンも増えていきますし、パーティーも増えますのでどうかお楽しみに!
では次は十九話でお会いしましょう!




