高難易度ダンジョン同時攻略戦 6
円環のドラゴン編四十一話目となります。
今回はリアンサイドの決着回となっています。
では本編へGO!
リアン達はいよいよダンジョンの最奥の手前へと辿り着き、ディラブは両手で両開きのドアをそっと開き中へと入って行く。
部屋は広く細かい装飾が施された柱とステンドグラスが豪華に見せているわけだが、その一番奥に玉座のような椅子が一つとその後ろに壮麗という言葉が非常によく似合うドラゴン族の女性の絵画が置かれている。
その女性の絵画がある意味において違和感をこの部屋で雰囲気として醸し出しており、同時にあの絵画こそが今回の依頼場所であることは明らかだった。
部屋に入る前から国家元首の男は「嫌だ!」やら「行きたくない!!」など助けを乞うような言葉すら吐き出す始末。
誰一人話を聞いていないわけだが、さっさと済ませようと国家元首の男を一番奥へと連れて行こうとするが、その瞬間部屋のど真ん中に真っ黒い影のようなものが出来てしまう。
とっさに危険であると判断し全員が一旦距離を開けて事の経緯を見極めようとする。
黒い影のような存在は次第に平面から立体的な動きを見せ、そのまま人の半身のような形へと変わり果てた。
その影の人と言うべき存在はその影から己の身を抜け出そうともがいているようなそぶりを見せ、それが出来ないと思うと途端右腕を派手に振り回した。
「このダンジョンのキングか?」
「と言うよりはこの場で突然変異として現れた存在じゃないかな? ねえ? ファリーダ姉ちゃん?」
「そうですね。多分ですけど。本来のキングやクイーンを食らい現れたんだと共いますよ。本来のこのダンジョン固有のモンスターを変貌させたんじゃないでしょうか。原因がイマイチ分かりませんけど」
「多分じゃが、先ほどの光じゃと思うぞ。この国家元首の男が慌てふためているところを見るとこれは想定外のようじゃしな。にしても…このダンジョンの多さと言い、ダンジョンの変貌といい…何か変じゃのう。普通幾ら「そういう大陸」じゃと言っても限度はあるぞ」
「そうですね。リアンのお爺ちゃんの言う通りで、流石にこれは…」
「それをジャック達が対応しているんじゃないのか? なら俺達はこいつをぶっ倒して、その国家元首をあの女に差し渡すだけだ」
「ふ、ふざけるな!! 私は国家元首だぞ!」
「その国家元首の証。本当にお前は一人で手に入れたのか? 儂が聞いた話…国家元首の証は選挙で選ばれた数名がとある場所の最奥へと一人で趣き取ってくると聞いておる。お前は一人で取りに行ったのか?」
影の半身が暴れている最中リアンはどうしても気になっていることを聞いた。
ドラゴン大陸の国家元首を決めるのは国民が選んだ数名が最後にとあるダンジョンの奥地に置かれている国家元首の証を取ってくること。
しかし、リアン達はこれまでの経験からこの国家元首の男が自力で取りに行ったとは思えなかったのだ。
確かにはっきりと感じる違和感。
ディラブだけはまるで気にしていなかったようで、大斧を振り回しながら笑っていた。
「それもこの奥の女に聞けばいいさ…だから……どけよ!!」
ディラブは全身からまるでオーラの様に赤い何かを発すると思うと空間全体を変貌させて見せた。
興奮からそういうふうに呪術を操っているのかと誰もが思ったが、その空間を赤い大地と赤い空だけの変わり果てた場所。
メイビットはふと気が付いた。
「これは…武具の領域? ディラブお兄ちゃんはこの状況で覚醒させたの?」
影の半身ディラブへと右腕を振り下ろそうと持ち上げるがその瞬間に動きが止まってしまった。
そのまま大斧を右手だけで軽く振り回しそのまま適当に大斧を横に力一杯振り回す。
「己が殺すと決めた者だけを絶対の縛りを与え、その人物だけを確実に殺す。それがこの大斧の武具の領域だ」
「何でもありじゃな…誰が勝てるんじゃよ」
「一回使えば当分は使えませんから。使いどころですよ…」
ファリーダは苦笑いを浮かべるが、実際やられたら事前に知らなければ対策も出来ない初見殺しである。
しかし、これで目的の場所までの敵は居なかった。
国家元首の男を最奥へと連れて行くと絵画が眩しく光り始め一人の女性が姿を現した。
流石にこの展開は意外だったようで、誰もが目を点にしながら見守っていると女性はにっこりと笑っていた。
「ありがとうございます! やはりあの方にお願いした甲斐がありました。貴方達なら彼を連れてきてくれると信じていました。そして…お久しぶりですね。その姿とその体…やはり…」
「ぐぅ…」
「説明してくれますよね?」
「はい。まずは一つ皆さんがはっきりと感じてしまった違和感。彼はドラゴン族にしては能力が低いのではないか? 本当にドラゴン族なのかと言う問い。それは本当です。ですが強いて言うなら『元ドラゴン族』なのです」
「元? 元ヒューマン族ならわかりますけど…」
誰もがリアンの方を見てリアンはにっこりと笑いながら顎先に手を添えて考え始める。
「いや…儂と言う事例があるのならその逆があってもおかしくは無かろう。しかし、問題なのは何故そうなったのか…」
「それも簡単です。彼は国家元首の証を手に入れる際にズルをしたのです。そのずるはとてもではありませんが認められるようなものではありませんでした。そのズルを行ってしまったのは私も同じ。彼は結果国家元首には認めて貰えなかったのです。ですが、彼は受け入れなかった…だから私達は呪われた」
女性はこの場所に封じ込められ、男はドラゴン族としての膨大な能力と肉体と女性としての尊厳の全てを。
必死で紐解こうとあがき続けてきたがどうしても紐解くことは出来なかった。
「呪いを解く条件は呪いの主をこの地に連れてくることです」
「ですが…その割には特に変化がありませんね? この人…」
「それはそのはず。私も今実際ドラゴン族としての能力を失いつつあるように、失ったものは取り戻せないのです。残っているのはドラゴン族としての寿命のみ。もはや長寿なヒューマン族と言っても過言ではないでしょう。彼はそれを受け入れたくなかったのです」
「成程のう…漸く納得がいったわい」
「もはや私達はこの地で生きていくことが出来ない。なら私達はこの地を去ります。これは国家元首の証です。もう…次の国家元首は決まっているのです。これを皆さんの手から渡してあげてください」
「でも…」
「大丈夫です。あの人が此処に一人でやってきた時点で資格は十分にありますから。良いですよね? アラン?」
アラン…それが今や元国家元首の名前だった。
「………やはりあの爺か! クソ!」
「はい。おひとりで来られましたよ。なんでも近々元勇者がこの地にやってくるからと…」
「………君を巻き込んだことだけは悪かったと思っている。だが…」
「諦めきれなかったのでしょう?」
「………(コクン)」
「だからこそ私達はもうこの地を離れるべきなのです。私も貴方も永遠にドラゴン族としては生きていけない。貴方は永遠に男性として生きていくしかない。ダイエットぐらいなら付き合ってあげるわ」
「……………分かった」
大きなため息を吐き出し彼を結んでいたロープを彼女は紐解き、同時に国家元首の証をディラブに渡した。
「ドラゴン族の方に渡すと少々面倒になるかもしれませんからこれは貴方に。渡してあげてくださいね。元勇者様と同じ場所に居らっしゃると聞いています」
「お二人はこれからどうするつもりですか?」
「大丈夫です。当てが無いわけじゃありませんから。これからは二人でひっそりと生きて行こうと思います。人と共に生きるはまだなれませんが、今やただ人の身。上手く生きて行けるでしょう」
そういって先にダンジョンから下へと降りていくのをディラブ達は黙って見守り、ディラブだけが猛ダッシュでダンジョンから出ていくのだった。
どうでしたか?
次回はジャックサイドの解決回となっており、同時にこの世界の世界観の一辺に触れるお話となっております。
では次は円環のドラゴン第四十二話でお会いしましょう。




