白と黒の輪舞 5
円環のドラゴン編第三十三話となります。
いよいよ悪魔との本格的なバトルになります。
では本編へGO!
アルクの箱によって強制同化状態では思考することが出来ないので、同化が一時解除している状態で解析をしつつ解除するしかない。
しかし、その解除されている状態が維持されるのはせいぜい一時間程度しかないため一回での解除は出来ないが、ジャックの恐ろしい点では同化が解除された瞬間で中から自発的に一瞬で破壊したことである。
勝手に破壊したのではなく自分の意思で破壊したことが異常なのであり、そんなことはアルクの箱が作られて以来初の事であった。
同時に連動させていた箱も解除されるので結果ジャックは悪魔の男と対峙することになる。
アンヌは心の中でふと思った。
(多分これ…同化も中途半端な形で掛かっていたわね。流石は勇者の刻印。それすらも耐性を与えるんだ。それなら多分だけど放置していても勝手に解除されたわね)
それは恐らく当たっており、ジャックが何かをしなくても勝手に解除はされたであろうが、それ以上にジャックは自分自身にも相手にも腹が立って仕方がない状態であった。
興奮状態であり、怒りが彼の行動に迅速さを与えている。
再出現してから無言のまま五秒間が経過し、悪魔の男もニヤニヤと笑うだけで何か手を出すわけじゃないが、先に動いたのはジャックの方である。
両手で魔力を練るとそれを丸い球体の形に整え直し、作り出した魔力の玉を力一杯地面に叩きつけた。
悪魔の男はその段階で自分の足元に魔力を広げ、足元からやってくる無数の聖属性の槍攻撃を全て不正で見せたが、ジャックの攻撃は此処から始まる。
槍の先端がパチパチと真っ白な火花を散らしたかと思えばあっという間に熱量を持ち始めた。
悪魔の男は「ほう」と笑いながら感心したような表情を浮かべていると、その表情事真っ白な爆発の中へと消えて行く。
「ジャック。油断は…」
「しない。ダメージすら入っていないのは分かっている。普通の悪魔ならこの攻撃で排除できる自信があるが、それが全く通用しない所を見ると、聖属性に対して有効的な手段を編み出したな」
ジャックの推測は当たっており、アルクの箱の同化状態に対する状況は共有されており、それ故に悪魔の男は悪魔の男でしっかりと対策を練っていた。
悪魔故に聖属性は致命傷であるが、逆に言えば聖属性さえ封じていれば手段を一つ封じる事には繋がる。
彼は自らの背中から作り出した真っ黒な悪魔の羽で身を守っていた。
聖属性を中和できる専用の魔力で作り出した魔力の羽なのであろうが、片翼でも十分に盾としての機能は持っており、実際あれだけの爆発を一発で無傷で防いでいるのだ。
「聖属性を中和できる魔力。それは聖属性の逆である闇属性。その闇属性の内容を一部変更し聖属性からの攻撃の中和のみにステータスを全振りする。攻撃は出来ないが防ぐだけなら十分さ」
ニヤリと笑いながら右側に生えている羽を動かして見せるが、その瞬間左側に似たような羽が生えてくる。
この状態で盾を増やすとは思えなかったジャック、警戒心を高めつつあやした左側の羽に注目する。
ぱっと見は同じ羽に見えたが、よく見ると右側の羽とは違い羽が若干手の形に似せてあるような気がしたジャック。
その手の形をした羽が闇属性の魔力を練り始める。
「右側は盾。左側は剣だ。さあ…ここからは私の攻撃だ。君の盾を見せてくれ」
練った魔力の属性は闇属性、地面を力一杯叩きつけると同時に迸る闇属性の刃は四方八方へと散っていく。
闇属性の刃は合計で五つがバラけて動き回り、ジャックはこれを全て避けるのは無理だとはっきりと判断、小太刀を呼び出して攻撃を敵目掛けて反射して見せた。
帰ってくる闇属性の攻撃を左側の羽で相殺してしまう。
連続で攻撃を反射してはそれを悪魔の男は相殺するいう作業を五回ほど繰り返してから一旦お互いにストップ。
「剣術も一流なのかい? 少々チートが過ぎないかな?」
「それを攻撃手段のバリエーションでついていく貴様の方がチートなんじゃないのか? これだから上位の存在は…」
「そういえば精霊と戦ったことがあるという話だったか? 精霊の方がまだ話が通じるだろうに?」
「まさか…あれもあれで話は通じなかったよ。むしろ会話が出来る分だけ悪魔の方がましに見える」
「…? ああ。言葉が分からないという話か。そういえば精霊は人種とコミュニケーションを取らないから言葉が通じないとは天使から聞いたことがあるな」
「よくも貴方は他人事みたいに。貴方と同じ上位存在でしょうに」
アンヌが呆れたような声を出しているが、その声に対して悪魔の男は肩をすくめながら答える。
「そうは言われてもな。精霊は精霊で悪魔や天使とは違うからね。君達が一般的に思い描く精霊も多くは人の形を取らないだろう? 精霊とは君達が思い描くであろう現象に姿を与えたものだ。だが、君達は悪魔や天使にはそういう姿を思い描かないだろう? それは君達が悪魔や天使に『救い』を求めるからだ」
ジャックとアンヌは言わんとしていることが分かってしまうだけに渋い顔をする。
「ただそのスタンスが違うだけ。天使への救いは『無条件の救い』だ。救われることに代償を求めていない必死さからくる。それに対して悪魔への救いは『条件付きの救い』だから。救われるという行為に『後ろめたさ』を感じている。救われるのなら自分はその代償を受けるべきだという公平さが悪魔を生み出すのさ。天使は都合のいい救いや死などに救いを求める際にその姿を見る」
「言いたいことは分かるさ。だが、精霊は違う」
「その通り。精霊はその環境によって様々な役割がある。例えば火山に生きる精霊には力強さが、水に生きる精霊には癒しを求めるだろう。精霊にはそもそも人らしさを求めていないのだ。そこにいてくれればいい。だから会話が成り立たない。君たちは自然と会話すると言われたら想像しにくいだろう?」
「出来ると言える人間とはあまりお友達になりたいとは思えないわね」
「酷いことを言う。悪魔と友達になりたいという人間よりマシじゃないか?」
「どっちもどっちよ…上位の存在と友達になりたいって言う時点で現実逃避をしているだけだもの。私は嫌」
「だから君が精霊と戦った際に会話が成り立たなかったのは会話が出来なかったからではないだろう? 恐らく価値観の根本的な差故に話が合わない。嚙み合わない。どんな会話をしても命という考え方が根本から違う。己だけの世界だけで生きてきた者達にとっては何処まで行っても自分だけだ。だから話が成り立たない。会話をしたことが無い存在とは会話が出来ないからね。だから私は知りたい。君達人間とはなんだ? 何故君たちは争う? 何故君たちは生きる? 何故君達は願う? 何故君達は…救いを求める? 教えてくれ…この悪魔王に」
悪魔王と言う言葉に背筋が凍り付く思いを描いたジャックとアンヌ、聖典にみ描かれる悪魔たちの中でも上位の存在、彼らを束ねて支配する存在。
「道理で手数が多いと感じていたら…悪魔王とか…」
「ジャック?」
「分かっているさ。手加減をしようとか考えていたわけじゃないが、出来る相手じゃないらしい」
「それは君も同じだろう? もう少しお互い準備運動を始めようじゃないか。その小太刀だけで一体何回の攻撃を捌き切れる?」
左側の翼を何度も何度もまるで羽ばたくように振り始めると、無数の斬撃がジャック目掛けて飛んでくる。
後ろに一旦バックしながら斬撃の位置を調整、小太刀で一つ一つ丁寧に反射していくが、悪魔王の方はまるで気にすることなく攻撃を繰り返す。
ジャックはふと思い描いた。
(この攻撃方法。大太刀の吸収と倍返しを警戒している? この攻撃方法だとし難いからな)
攻略方法を考え付こうと必死だった。
どうでしたか?
次回も本格的なバトルとなっており、自分でも力を込めて書いている部分ですのでお楽しみに。
では次は円環のドラゴン第三十四話でお会いしましょう!




