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白と黒の輪舞 3

円環のドラゴン編第三十一話となります。

戦いの前哨譚の前半となっております。

では本編へGO!

 そのまま帰ってきたディラブ達、話し合った結果アンヌとリアンが一つの提案を出したのだった。

 それは「アンヌが戦いを見守り、他のメンバーでやることをやり切る」という事である。

 いくら悪魔が相手であろうと、ジャックが本気を出せば一対一で勝てないわけが無い。

 一体複数なら負けたかもしれないが、どうやら悪魔は一対一での戦いに拘っているようだと二人は判断を下した。

 もし、ジャックの戦いに彼の部下が手を出すのならアンヌが手を出すと決めその場に残ることを言い出した。

 そのまま車は出入口で放置し、二人の決闘は双子山の真下で行われることになり、アンヌと部下の二人は箱を挟んで壁際へと正反対の位置で待機することとなった。

 気絶してしまった国家元首を担いで奥へと向かっていく中、しばらくしてリアンは「お前達は騙されたんじゃ」と語りだした。


「どういう意味だ?」

「アルクの箱とは今から五百年前に開発された箱。中に閉じ込めた生物を箱と同化させ、同時に外からの攻撃を完全に遮断する機能を持つが、同化させられる期間が最大で三日までと短く、一回同化が解けると二時間ほどある程度の自由が得られる。その間なら中から解析して解除出来るしの。まあ、放置しておいても一年が稼働限界のはずじゃが」

「だったら。あのままジャックの兄ちゃんを救出していれば大丈夫だったって事?」

「そういう事じゃな。ジャックなら三日と言わず一日で開放で来たじゃろう。その上多分じゃが一回で解除できると思うぞ」

「そもそも勇者の刻印は封印は効かないんじゃ?」

「いいや。あれは封印ではなく同化じゃ。肉体と箱と同化し、思考を強制的に停止させる。じゃから抵抗は強いじゃろうが、完全に拒絶することは無いはずじゃ。じゃが、その箱の同化は外からのあらゆる干渉を防ぐ。逆に言えば箱と同化させて不自由を与える代わりに外からでは何も出来ない。ジャックの様に戦闘能力が高い人間だとダンジョンの奥地へと放置しても無傷で返ってくるじゃろうな」

「はい。そして、それは中央大陸でのみ知られている技術。恐らく、私達が他の種族であると分かりこの策を使った。ですがジャック様はどうして引っ掛かってしまったんでしょうか?」

「知らんわけではあるまい。儂もじゃしアンヌもじゃが実際にアルクの箱を見た者はおらん。教会の禁止指定されている道具の中にも入っておらんしな」

「え? 何故だ? 勇者ですら防げない道具ならむしろ…」

「いいえ。勝手に解除され、技術や能力が無くても最終的には自動的に解除される仕組みなんて、脅威とは思えません」

「ファリーダの言う通りじゃ。その上、箱に入っている間は解除状態でも肉体の時が進むことは無い。腹も減らんしな」

「それなら緊急性の低い道具ですね。ジャックお兄ちゃんみたいに戦闘能力がある人間は解除後も戦場からの脱出も容易ですし。強いて言うなら思考が強制的に止められるという事と箱に閉じ込められている間はその場からの離脱が出来ない事ですか?」

「ああ。アルクの箱を一体どうやって二つも用意したのかは謎じゃが、何せ儂ですら一回も拝んだことが無い品じゃ。多分じゃが、偉い長く話すので違和感を感じ取り、箱をジッと観察して漸く気が付いたのじゃろう。最も、その段階で半分ほどは諦めていたはずじゃが」

「私達が誘拐することも分かり、利用しようと考え付いた。悪魔は契約は契約。契約があるうちは自由には動けない。ジャック様と一対一を本当に望むのなら別の機会を作るしかありませんが、ジャック様や私達の状況を間接的に知った彼がそれが出来るか分からない状況は快く無かったでしょうね」

「そこで、俺やファリーダが他種族であることを知り、同時にジャックに箱を見せて反応が薄かったことを確かめて本格的に実行に移した。だが、ジャックが直ぐに気が付いたらどうするつもりだったんだ?」


 ディラブの疑問に答えたのはメイビットだった。


「恐らくですが、例の部下さんを無理矢理動かして複数で確保したんでしょうね。流石に三人がかりなら拘束出来るでしょう。最もその場合は私達への取引は無く。そのまま持ち出すつもりだった」

「うむ。厄介じゃよな。ジャックの姿を目撃された時点でもうすでに計画は始まっておったんじゃろうな。それこそ、最悪は街の人達全員を巻き込むような脅しでもつければジャックは仕方なさそうに同化を受け入れたはずじゃ」

「滑稽でどこまで己の悪意に正直に行動したってわけ? マジでヤバいじゃん」

「悪魔の中でも相当レアな存在でしょうね。聞いたことが無いですし」


 リアンは黙って頷き奥へと進んでいく足を一旦止めて振り返る。

 今頃はアンヌが見守っているはずだと真っ暗闇を見つめる。


「ジャックが負けるとは微塵も思って居らん。じゃが、ジャックでも苦戦することは必至じゃろうな」



 アンヌは壁に背を預けてジッと部屋のど真ん中に置かれている二つの箱の内ジャックの箱を見つめる。

 箱の状態で大人しくしている彼、アンヌの位置では箱の背中の部分しか見れないが、隙間なくまるでコミカルに押し込まれたようなデザインの箱。

 実際押し込まれているのではなく、文字通り箱となっている。

 箱そのものとなっているジャック、そして箱には本来思考する機能は無い。

 完全に同化状態では抵抗できないとはアンヌも分かっている以上下手に抵抗も出来ない。

 ディラブ達がいち早くダッシュしてリアンの元まで持ってきていれば下手をすればこんな面倒な事にはならなかったが、そればかりは油断したジャックが悪いとアンヌは結論付けた。

 いくら実物を見ていなかったとはいえ、誘拐することに意識を向けすぎて敵の策を放置したのは失策だろう。


「まあ、例え気が付いたとしても街の人達全員という人質がある以上、気が付いた瞬間に決めないと終わりなのよね。そういう意味では外した時点で覚悟はしていたか…」


 先ほど見せてもらった箱、箱の上の部分はそのまま頭部と両肩が描かれていて、左右には腕と胴体の横とハッキリと分かるが、敵の方はにやりと笑っている姿が印象的だった。

 目論見通りに進んで満足なのだろうが、きっとこの時のジャックの顔は苦々しい表情だったに違いない。

 してやられた。

 そんな気持ちがあの箱からはうかがい知れる。


「なら自分のミスは自分で何とかしなさい。アンタはいつだってそうやって切り抜けてきたでしょ?」


 今は動くことも喋ることも考えることだってできやしない無力な箱でしかない、個々でのアンヌの言葉も聞いてはいても理解は絶対に出来ていない。

 アンヌが後ろにいることも、それがアンヌという人間であることも、人間とは何かすら理解できない箱。


「その通り。それはただの箱だ。ボスの箱と連動している箱。元勇者の箱が解除されれば自動で解除され。箱の機能を内側から破壊すればボスの箱も破壊されて自由になる」

「なら片方はアルクの箱でも、もう一つは違うのね」

「…ああ。…もう一つはアルクの箱をモチーフにボスが作ったものだ。…二つで一つの品として完成させたのだ。…それを自分の欲望を満たすためにもな」

「底なしの欲望を満たすために?」

「ボスは悪魔であるが故に満たされない欲望に悩まされてきた。悪魔にとっても苦しい時間なのだろう。悪魔と言えど千差万別。その中でもボスは変わり者だな。からこそ悪意を周囲に撒き散らしてなお満たされない欲望。その欲望を満たすたった一つの方法。それが悪意を受け止められるほどの強い人間。ボスはそう考えた」

「…己の悪意を受け止めて、そのうえで壊れない人間をな…」

「まさしくジャックは相応しい相手だったわけだ…本当に昔っから厄介な人間に好まれるわね」


 ジャックの箱を見つめながらふと思う。


(悪意を受け止めなさい。策に引っ掛かった人間としてそれぐらいは当たり前の務めでしょう? ねえ…ジャック?)

どうでしたか?

次回はリアンサイドのお話を語りいよいよ戦いの始まりです。

では次は円環のドラゴン第三十二話でお会いしましょう。

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