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異種族であること

今回はこの世界の種族間の価値観などに多少スポットを当てています。

多少なりに理解していただけたらと思っています。

では本編です!

 アンヌは病院の出入り口に立ちジャックの相手をしたナナ族の女性医師へと頭を下げる。

 ジャック達がやってきてから約一週間と一日が経過し、無事アンヌの体の治療が終了しており、今からアンヌはナーガ庁へと向かおうというところだった。


「一週間もお世話になりました」

「良いのよ。私としてはもっと体を調べてみたかったけど。残念。でも、戦闘はまだ駄目よ。少なくとも一週間は厳禁とします。動かせばまた生体エネルギーが漏れ出るからね」

「はい。気を付けておきますね。流石にしないと思います…」

「はぁ…どうにも疑わしいのよね。誰か監視要員でもつけてもらおうかしら? 残念なことに貴女は入院中もあちらこちらへと手伝いに移動して冷や冷やしたわ」

「うぅ…大人しく待っているって苦手なんです…」

「いっそホビットに種族転生する? 今なら細胞を用意して見せるけど?」

「冗談でもやめてください! 教会から殺されますよ! それでなくても勇者が種族詐欺をしたってヒューマン族では悪い評判で一杯だし、教会はあえて止めないし…その上私まで他の種族になればどうなるか」

「それでなくとも残念なことに貴女は最後の聖女。やったら教会と全面戦争でしょうね。ナーガVS教会」

「だから嫌なんです。でも聖女として今回のような被害を減らしたいのです。私が強くある為に、この国で今後生きていくジャック君が「もう大丈夫だって」証明するためにも」

「そう…残念。でも、貴女はそれでいいの? 知らない人と結婚している彼を見ているだけで?」

「それは聖女に選ばれた時から覚悟していたことです。私と彼は生きている世界が違う。でも、お互いを思いあえるのならきっと別の道を歩いていても幸せを共有できるって信じているんです」


 聖女として生まれた彼女にはもとより教会の為に生きて、教会の為に人生を捧げなければならない。

 でも、それでも引けない一戦が彼女自身にはある。

 自分の大切な『友人』に酷いことをすることだけは絶対に嫌だが、同時に彼が「不要な争いは嫌だ」というのなら黙っているしかない。

 ジャックがどうして『大陸追放』なんて重すぎる罰を受けることを選んだのか、それは教会との不要な争いを避けたいという願いがあるからだ。

 何時でも自分の事より他人の事を優先して動くジャック。

 アンヌは用意されているタクシーへと乗り込もうとしたその時、医師が最後の一言と告げた。


「ジャック・ロウだけど。今日は来れないそうよ」


 アンヌの中でジャックの評価が下落した瞬間である。



 不貞腐れるような面持ちでナーガ庁のエワン首相の前に座るアンヌ、彼女の隣にはリアンが若干引きながら見守っていた。

 エワンは苦笑いを浮かべながら「大丈夫ですか?」と尋ねると、アンヌは「大丈夫です」と答えるだけ。


「それで…ジャック君が此処にいない理由なのですけど」

「ああ。それで不貞腐れておるのか。勘弁してやれ。本当は来る予定じゃったんじゃよ」

「来る予定の人が私が此処にいるのに来ない理由は?」

「玄関を出た所に担当教官に見つかり強引に学校へと連れていかれたんじゃ」

「学校? ナーガは二十台を超えても学校に行くんですか?」

「いいえ。基本二十から二十九までは自由に行動する期間でして、中には大陸中を巡る者、勉強や訓練に費やすものなど様々です。ただ、とある理由でジャック・ロウは現在学校で明後日に行われる『十将軍選抜試合』の調整で」

「? それって世界最強と言われているあの十将軍ですか? ジャック君。選ばれているんです?」

「ええ。というのも、もし今事件の黒幕が中央大陸に現れた時、追放状態のジャック・ロウでは入ることが出来ません。ですが、十将軍となれば話は別です。そう説明したら渋々ながら引き受けてくれました」

「渋々なんですね…もう。ジャック君は。さっぱりしているんだから。未練とかないのかな?」

「無いようじゃよ。聞いたらはっきりと「無い」と答えたしの。流石に多少は誤魔化そうとする気持ちは有るみたいじゃな」

「そうですね。もうナーガで生きていくと決めているので、今更ヒューマンへの未練はないそうです。さて…そういう事情なので機嫌を直していただけますと」


 流石にエワン首相に頭を下げられると直さないわけにはいかないが、内心まるで納得はしていない。

 しかし、それ以上にアンヌにはジャックの件でどうしても聞きたいことがある。


「ジャック君の体の事はもう聞きました。どうしてそうなったという事ですか?」

「………アンヌさん。五百年前の水没事件はご存じですね?」

「はい。中央大陸が海神の手で水没しかけた事件ですね?」

「ええ。その時の勇者はナーガだったと言われています。そのナーガ人は行方不明になっているのです。ナーガの勇者は基本死にません。しかし、行方不明になっています。私達はこう考えました。彼は中央大陸で過ごし向こうでヒューマンの間に子を残してから自殺したと」

「自殺ですか?」

「ええ。実際のノアの村にある記録には彼は村開拓期に確かにそこにおり、子供を作った翌年に『病死』という扱いになっています。しかし、ナーガ族の男性は病気にはまずなりません。なのでこの場合は…」

「異なる種族故に人とは違い長く生きることへの苦悩故の自殺じゃろうの。しかし、結果ナーガの血が混じった人間が生まれた。皮肉にもその血を引いていたからこそ、ナーガの勇者が生まれた時に選ばれたのが…」

「ええ。ジャック・ロウでした。そして、役目を終えた時彼は勇者から魔神となった。母親から魔力を十歳まではきちんと受け取っていたようです。お母様から電話でお話を聞いたところ、十歳までは自分から離れると体調をよく崩していたそうです」


 アンヌは言われている意味が分からず首をかしげる。


「ナーガは体内の魔力をきちんと作れるようになるのは十歳から。それまでは母親が作る魔力で生きているらしいぞ。じゃから、ジャックは十歳までは母親から離れると魔力失調を起こしていたんじゃろう」

「背がなかなか伸びなかった理由もナーガ人は二十に近づくころに身長が本格的に伸びてきますから。おそらくですが。本来薄れていたはずのナーガの血が彼の代で勇者として覚醒したことをきっかけに復活したという事でしょうね」


 その話を聞いたアンヌはどうしても確かめたいことがあった。


「ドライ最高司祭はどの程度ご存じだったんでしょうか? 聞いても教えてくれなくて…エワン首相はご存じですか?」

「…詳細は省きますが。勇者がやってきたときに体を調べて知ったそうですが、役目上都合が悪いと思ったので黙っていたとのことです。生きて帰ってもしナーガになっていたら、家族の為にもナーガ大陸に送り返すつもりだったとのこと」

「……私には言わないままですか?」

「ええ。おそらくご両親やノアの村への配慮があったのでしょう。もし知ればどんな嫌がらせや悪意の手が伸びるのか分かりませんし。ドライ最高司祭なりの配慮だと思ってください」


 納得は絶対に出来ないアンヌ。


「私たちは受け入れるだけです。彼もすっかり馴染んだそうで。お友達もできたそうですよ」

「本当ですか? 良かった…」


 そこだけはどうしても心配していた事であり、ずっと気にしていた。


「ナーガでもやっていけるのなら良いんです。後は私が強さを取り戻せば彼の心残りは無くなりますし…」


 リアンはそれでもアンヌの中にある不安や不満が収まることがないのだろうことは想像できた。

 長く生きてきたからこその経験則、人の恋心はあっさりとは解決しない。

 しかし、アンヌもジャックも理解はしていること。


 ヒューマンはヒューマン、ナーガはナーガ、オークはオーク、ホビットはホビット、ドラゴンはドラゴンである。

 異種族同士は基本結婚はしてはいけないし、しても不幸になるだけ。

 実際五百年前に結婚して子を残したナーガの男性は苦しんだ末に死んでいるのだから。

どうでしたか?

五つの種族には五つの種族ごとのトラブルや問題があり、寿命問題は特に根が深い問題でもあります。

そういう意味でノアの村に住んでいたかつてのナーガは自殺という苦しい決断を選びました。

まだまだ序章の中盤ですので気長に行きましょう!

次の十六話でお会いしましょう!

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