終わった厄災の先へ
残り二話です。
では本編へGO!!
結局で厄災のホビットが何を願い何を想い何を感じて生を全うしたのかは誰にも理解されることは無いし、彼の苦労が歴史に名を刻むことも待たないのだとジャックは良く分かっている。
しかし、それでも誰かが思い出して生きていけばそれだけできっと多少なりは救われるのではないかとふと感じていた。
そんなジャック達が厄災のホビットと戦って二日が経過した。
あれから呪いに襲われてしまった人たちのアフターケアーを含めて色々動き回っていたらそれぐらい経っていたジャックだったが、ナーガ政府とオーガ政府が直接現地入りする事態にまで発展したのだ。
ジャックもナーガ政府とオーガ政府がやってくると現地での説明なり、救助活動の陣頭指揮なりで忙しくなる。
政府首相は「旅を続けても良い」と言われていたが、ジャックとしては今回の被害を無視して旅を続けることは出来ない。
何より人を救う事を優先して行動しているアンヌの行動を無視することはジャックにはできなかった。
この二日でジュアリーからのアドバイスを受けたネリビットとメイビットは自らの家の中からその日誌を見つけることに成功。
中を見た結果初代双星のホビットは厄災のホビットとなってしまった兄を憐れみ、同時に救いたいとも考えていた。
しかし、一度呪いに手を出した者を救う方法は『死』以外にはありえない。
それだけはどうしても彼等にもできなかったそうだ。
どんだけ恨まれても、憎まれようと、怒りを一心に背負おうとそれだけは選ぶことが出来なかった。
だから、本当の歴史を後の世に残そうと日誌に残していたそうだ。
優れた才覚を持ちながら誰も信用しなかった兄である厄災のホビット。
二人で最高の才能を発揮した双子の双星のホビット。
優れた肉体とセンスを持ち合わせた妹。
その三人の行く道は完全に違えることになってしまったそうだ。
ジャックは一人大統領官邸へと足を踏み込んでいた。
中へと案内されてまた同じ部屋へと向かうと大統領から一礼されてから対面へと座る。
「先ほど呪いに掛けられている全ての患者を病院へと入院させたと報告が入りました。この度は助けていただきありがとうございます」
「いえ…本当に解決できたのはあの二人のお陰ですから」
「双星のホビット…厄災のホビットがまさか元をただせば同じ兄妹だったとは…」
「この件は極秘にお願いします。俺もナーガ政府には言わないつもりです。きっと厄災のホビットもそれを望んでいるでしょう。今からそこを暴露されたいとは思っていないでしょうから」
「歴史は歪むもの…正しい歴史を正しく継承することは叶わないと言われてきましたが…ここで口をつむげば永遠に真実は閉ざされたままでしょう」
「それでも…知る事だけが必ずしも救われることではないと思いますよ。この場合黙っている事、封じていることもまた救いでしょうし。それに…どんな同情する理由が在ってもやったことを許して良い理由にはならない」
「そうですね…その通りです。さて…ここまでお世話になって何もしないというのもおかしな話です」
「気にしないでください。知りたいことは既に知れた。心の準備までは出来ていませんが…」
「彼女には真実を…?」
「いいえ。いずれはと思っていますが、それは今では無いでしょう」
「ちなみに教会側の情報がディフェンダーからやってきました。どうやら教会は今の所クーデターなどの動きすらないようです。中央大陸は一部の国王が元勇者であるジャック様の待遇を含めて説明を求めている状況です」
(教会はあれから説明をしなかった…いや、ドライ最高司祭は敢えて無視しているのか…)
「ディフェンダー側も特に変わった動きを今の所見せるつもりはないそうです」
「そうですか。ドラゴン族の首都に対しては?」
「やはり政府とのつながり故に話せないそうですが、ジャック様の推測である内地と言う点はあっているそうです。それで…私達でドライ最高司祭が当時降りた港を調べました。そういう意味では皆さんの次の目的地は間違ってはいません」
「やはりあの町から…?」
「ええ。それでもどうやって行くのかは分かりませんでしたが、ジャック様は全ての大陸を巡り終えた後どうするつもりですか?」
「彼らの仲間に教会へのクーデターを目論んでいる者達が居るのは事実です。それに、それぞれの種族が手を取り合おうとしている最中ヒューマン族だけがそれに応じないというのは流石に無理でしょう」
「では…?」
「はい。中央大陸へと戻るつもりです。最も追放された自分が戻れば最低限の拘束が待っているでしょうが、それでもナーガの十将軍を無理矢理拘束すればどうなるか分かっているはずですから」
「立場を利用すると?」
ジャックは良い笑顔を向けながらはっきりと告げた。
「その為の立場ですから。それに中央大陸でのやり方も心得ているつもりです。だてに勇者として中央大陸で活動していませんよ」
「では。私達もジャック様たちの活動に対して全面的に支援いたします。次に港までは私達が費用を全面的に負担いたします。本来であれば飛空艇が良いのですが、何せ次の目的地には発着場が無いのです。船で移動するのが一番簡単かと」
「リゾート地でしたか?」
「ええ。今では様々な種族が集まっており、中でも五つ星ホテルが並ぶリゾート区画は夜も眠らないと言われているほどです」
「財政は…ホビットが?」
「富豪が何人かいらっしゃるとは聞いたことがありますが、ホビットと決まっているわけではありません。中には変わり者のドラゴン族が居るとは聞いています。この方を探した方が良いかもしれませんね。ドライ最高司祭はあの町に行くと必ずそのドラゴン族に会いに行くそうです」
「場所までは?」
「すみません。リゾート区画に居るという話で、富豪なので何かしらの拠点が、しかもそれと分かる場所だとは思うのですが…あの辺りだとホテルの最上階などもあり得ますし…」
ジャックは困った顔をしながら腕を組む。
これから向かう場所はリゾート地としては世界最高峰の一角を握り、拠点にしている富豪の数も多い。
しかし、それは別荘区画や住宅区画なら分かるのだが、リゾート区画に住まいを置いているという事は予想以上に選択肢を広げている。
「現地のディフェンダーに聞いてみたほうが良いかもしれませんね。今ここで聞いてもらうより現地に言ってから聞いたほうが良いかもしれません」
「そうですね…ナーガ政府はしばらく滞在して経過を観察すると言っていました。オーガ政府も同じようです…何せ恐ろしいレベルの呪いが散布しましたし…」
「旧市街地を中心に被害が拡大していて、中には瀕死の重傷の患者も沢山いらっしゃります」
「それでもこの程度で済んで良かったです。最悪は…」
国が滅んでいてもおかしくなかったとジャックはそう呟いた。
ジャックは立ち上がり頭を深々と下げてから部屋を出る。
案内をしてくれたスーツ姿のホビットの男にもう一度礼をしてからその場から立ち去ろうとすると、仲間たちが待ち構えていた。
「あ。出てきた! 遅いよ! ジャック兄ちゃん」
「皆用事が終わって先ほど集まったんです。ジャックお兄ちゃんが此処にいるって聞いて」
「待っておったんじゃよ」
「用事とやらは終わったのか?」
「早く行きましょう? ジャック」
ジャックは歩き出す…仲間たちの方へと向かって。
どうでしたか?
次で旅立ちですね。
いよいよホビット大陸も終わりです!
では次は双厄のホビット第五十話でお会いしましょう!




