災いを求める者 6
災いを求める者六話目となります。
では本編へGO!
ジャック自身アンヌとの関係を伝える術が全く無いわけではなかったが、実際今の所話すつもりは一切を掛けて無かった。
重そうな鎧のような頭部を抑えつつ大統領府を出ていき、彼の腰ほどの高さしかないメイビットは心配そうな表情を浮かべながら隣を歩き、リアンは大きな胸を両腕支えるように組み悩むようなそぶりを見せた。
実際リアンは少し先ほどの話を聞いて悩み始めており、その内容は厄災のホビットが仕掛けているタバコにある。
そのタバコをリアンはまだヒューマン族時代に聞き覚えのある内容で、それを詳細に思い出そうとしていた。
「今から五十年前の事じゃったかな? 中央大陸の中東にあるとされる小国が内乱で滅んだのじゃ。その際に反乱を起こした者達が口にしたのがタバコじゃったな」
「なんだ? 急に」
「タバコを吸った者は何かをトリガーにしたように感情の歯止めが利かなくなり、次々と高まる感情に体が逆らえなくなるそうじゃ。そうやって生まれてくる感情が向けた先は『政府への不満』だったんじゃ」
「同じことをこのホビット大陸の首都でもやろうとしていると?」
「おそらくはな…流石に同一犯では無かろう。中央大陸は基本他の種族の出入りを禁止しておるはずじゃしな」
「俺や爺さんのようなパターンが無いわけじゃないから何とも言えないけどな」
「混ぜ返すんじゃない。とにかく。動きがあるとすればタバコを使った洗脳じゃろうて。恐らく中東で起きた一見より大きく瞬発的に被害を出すつもりなのじゃろうて」
ジャックは横断歩道の前で一旦止まり、考え込むような青空を見上げる。
雲一つない青空にあるのは眩い太陽のみで、ジャックは目を細めながらゆっくりと口を開いた。
「中央大陸ではヒューマン族しかいなかったから特に考えなかったわけだけど、こうして他の種族を見ていると種族ごとに当たり前だと考えていることも違ってきて面白いとは思う」
まぎれもなく本心なのだが、同時に感じてしまう悲しさに似た何かを表現できずにいた。
幼い頃から見てきた光景に何時だって違和感を感じ、周りで話している内容にもまるで興味を抱けなかった。
この人達と違うという事を理解するたびに感じる異様な悲しさ、違う事を悲しいと感じることがおかしいと分かりながらそう感じてしまう。
「それはジャックお兄ちゃんが自分がナーガだって知らなかっただけじゃないかな?」
「それもそうなんだけどさ。でも、他の人と違うという事を悲しいを感じることを俺はどうしても違和感として捉える。人と違う事は当たり前のはずなのに」
「ナーガ人と一緒にいるお前さんは何処か楽しそうに見えたがのう。楽しくは無かったか? 楽しいと感じていたのならお前さんはきっとヒューマン族に馴染めなかっただけじゃろうに」
「そうなのかもしれないけど。だからこそ…俺にはノルヴァスの考え方がまるで理解出来ないしそれを仕方がないなんて考えられない」
ノルヴァスにはノルヴァスの考え方があり、彼には彼の生きてきた道のりがあるからこそ思うところがあるのかもしれない。
しかし、ジャックはその片鱗を知りながらも、それがどれだけ辛い事なのか知りながらも同情できない自分がどうしようもなく悲しく感じていたジャック。
「勇者としての覚悟の差じゃと思うがな。というか…歴代の勇者は基本ナーガの方が相応しいものがあるからのう…」
「らしいですね。家にある資料の中に歴代の勇者の事が描かれていますけど、ナーガ族の方がしっかりして逞しいイメージですしね。その反面ヒューマン族の勇者は過酷な運命故に色々と辛い事が多かったみたいですね」
「そうなのか…俺はそうは感じなかったけどな」
「ナーガ人は逞しく決断力があるのが特徴じゃしのう…まあ、個性はあるし。何とも言えんか」
「それでもあのノルヴァスって言う人は少し変わった考え方をしていた元勇者のようですね。でも、ああして生きているという事はお墓には誰も入っていないんですよね? 確か元勇者はジャックお兄ちゃん以外を除いて全員お墓があるはずですよね?」
「俺のお墓が存在していたら苦情をいれているぞ…あらゆる方面化に」
「厄介なクレーマーがおるもんじゃな。代々勇者の名を関することが出来た者は例外なく死後大きな墓標が建てられ、中には勇者の剣と遺体が安置されておるらしいが…いや、勇者の剣は別か?」
「別だな。あれは教会本部の地下に安置されているはずだぞ。俺は纏めて安置されているのを見たしな」
「教会本部ってデカいんですか?」
「デカいぞ。デカくて図々しいという言葉を身に纏ったような建築物だ」
困った顔をしながらふとリアンの方を見るメイビット、リアンは大きくため息を吐き出してから詳細を説明し始める。
「教会本部は小さい島全部が教会の建物で出来ておってな、島は外周から中心まで石造りの建物で覆われておるんじゃ。東西南北の一番端にそれぞれ港が作られており、中央にある教会が管理している城へと繋がる道が四つあるんじゃよ。最も真っ直ぐな道ではなく上下の激しい島じゃからな。入り組んでいるんじゃよ」
「面倒だろう? 小さい島だから道路の幅も小さく馬車が通るだけで精一杯なんだよ。住んでいる人間もめんどくさくてさ」
「めんどくさい?」
「そうなんじゃよ。教会とは中央大陸でもっとも権威を握っておるから、住んでおる人間は大体偉そうじゃしな。その立場を目指して入ってくる人間が居るぐらいじゃしな」
メイビットはイマイチ理解が出来なかったようで苦笑いを浮かべながら歩き出したジャックに付いてくる。
「何度か教会関係で行ったことあるけど、自ずと行きたいとは思わない場所だな」
「じゃのう。まあ、儂は嫌われておるから良いんじゃがな。そういえばお前さんも嫌われておる側じゃったか?」
「歴代の勇者は嫌われていると思うんだけど?」
「…でも、その現在の教会のトップは…」
ジャックの父親であることは現状間違いが無い。
「要するに今のお母さんは本当のお母さんで、お父さんだけドライ最高司祭なんですよね?」
「そういう事じゃのう。どうやらジャックの母君にナーガの血が混じっていると知って近づいてきたんじゃろうな」
「それと、両親の間に子がいない事も知っていた可能性があるな。俺だけ村に置いておいたのも勇者だとバレない様にするためか」
「フム。アンヌは別の孤児院にでも預けある程度成長したところで回収するはずが、知らないうちに同じ学校にいて一緒に回収したわけじゃな。その際に嘘をついたのはお前さん達にバレる可能性が生じたから…」
「アンヌお姉ちゃんがヒューマン族の中でも長身だったのは…?」
「ヒューマン族の中でもナーガの血が聖女の力で表面化していたからだろうな。今は縮んでしまっているけどさ」
「今のアンヌお姉ちゃんしか知らないから分からないけど。今の方が好きだな」
満面の笑みを浮かべるメイビットへ向けてジャックとリアンは「眩しい」と思えた。
「避けない事を教えるなよ。エロ爺」
「まだ何もしておらんじゃろうに…まだ…」
「これからするんだとしたらその時は即通報だからな? とりあえず明日に備えて早めに帰るか…」
ジャックはため息を吐き出しながらホテルへと戻っていった。
どうでしたか?
次回は黒幕サイドのお話となります。
では次は双厄のホビット第三十七話でお会いしましょう!




