災いを求める者 3
災いを求める者三話目となります。
今回はノルヴァスサイドのお話となります。
では本編へGO!
ノルヴァスは誰にも聞こえないような小さい声で「下らない」と一瞥しつつ細い目でその先にいる双子のホビットの姉メイビットを見つけてしまったわけだが、同時にその後ろをコソコソつけて回っている薄汚れているホームレスも発見する。
気が付いていないのかとふと気にしてみるが、よくよく考えると気にしていても仕方がない話であると自らの心に深くため息でも吐き出して無視するが、ホームレスが狙っているのはメイビットが持ち歩いていた小さい鞄であった。
それをあっという間にかすめ取っていき、走り去って行く老人を唖然とした様子で見ていたメイビットは驚いた表情で急いで追いかける。
内心「何をしているんだが。あの小娘は」と呆れた声を漏らしそうになるが、そんな姿を後ろから見ていたヴェルズリは馬鹿笑いをしながら「あほだな!」と言う。
ノルヴァスは「お前にだけは言われたくないだろう」と愚痴として漏らすと、ヴェルズリは「あれよりマシだろう?」と返してきた。
どの辺がましなのかノルヴァスはまるで理解できなかったが、馬鹿と会話をしていると自分も馬鹿に見えてくると止めた。
「今お前。馬鹿と会話をしていると自分まで馬鹿になりそうだと思ったろ?」
「お前に人の心を読むというデリケートかつ繊細な能力があるとは思わなかったな。たまには学習することで覚えたか?」
「可愛げが無い奴だな…メロンを見習って感情的になったらどうだ?」
「感情的になればお前は黙ってくれるのか?」
「俺が? なんで? しっかし…つまらん。ディラブとかいう奴に喧嘩吹っ掛けてきても良いか?」
「駄目だ。したら先に貴様を殺す」
「出来るのか? お前に?」
二人の間にある火花は此処に人が居れば確実に誰もが見ていただろうし、誰もがはっきりと感じ取ることが出来ただろう。
下手をすれば下にいた人間であれば感じ取ることが出来たかもしれないが、幸いにも誰も気が付くことは無かった。
そうこうしているとそのホームレスを捕まえた男、ジャックが奪われたメイビットのカバンをもって彼女に近づいていく。
「お前はそんなくだらない人助けをして何を得る? お前が人助けをすれば誰もが救われるわけじゃない…」
「お前は人助けに意味を見出すか? それこそ下らないだろうに…」
「人を助ける気の無い人間が人助けを語るか?」
「語るつもりは無いさ。興味も無ければしたいとも思わない。人は生きる限りは一人さ。所詮自分以外は他人。自分の生きる理由は自分で探すものだからな」
「なんだ? 自分語りか? 元勇者となるとそれぐらいするのか?」
「……元勇者か? 一体歴代の勇者の中でどれだけの人間が元勇者として名前を刻むことが出来るのかな? 私を含めて本当の意味で勇者と言えるのはあのジャックという元勇者だけさ」
「? どういう意味だ?」
「ボスは知っていた事らしいが、元より勇者システムとはあのジャックという勇者の為にあるシステムだ。他の勇者は全てその為のモデル…いやモルモットだろう」
「ラットか? それとも…」
「……勇者というシステムのモルモット。ラットだな」
「どういう意味だって聞いても教えてくれるのか?」
「…いずれ知るさ。この世界が存続するという意義の為の犠牲者。馬鹿らしい話だ。そんなことの為にあるなら滅ぼしても良いだろうに」
「…まあな。俺もそう思うけどな。はは…!馬鹿らしい話だな」
「俺達の目的を達成するためには厄災のホビットがどうしても邪魔だ。どんな手段を繰り出しても殺す」
「だな。メロン達が探してくれると良いんだけどな」
俺は取り返した荷物をメイビットに返してからそっと微笑み返すと、メイビットは「ありがとう」と優しく微笑む。
「ジャックお兄ちゃんはこの後どうするんですか?」
「どうしようか…報告はしたからな。政府に顔を出すつもりは無いし…」
「そうなんですか?」
「ああ。そっちはもうすでに終わっている話だからさ。厄災のホビット対策をしておきたいというのが本心だ。適当な場所で聞き込みをしようと思っているよ」
「だったらこの先にある露店が広がる旧市街地で一番大きな商店街のような広場があるらしいんですけど。行きません?」
「良いよ」
俺達は歩いて三十分程、旧市街地の丁度真ん中にあるその場所へと辿り着いたわけだが、そこはベル広場と呼ばれ毎日二十を超える露店が日替わりで色々と出ているらしい。
流石は物作りと商人のホビットであり、その名に違わない賑やかな通りになっている。
中にはナーガ人やオーガ人なども混じっているのが遠目にでも確認でき、俺達は二人で中へと足を踏み出していく。
露店で売られている商品も様々で、金属系から食べ物系まで並んでおり、売っている人達も豪華な服装な人から一発当てようとやってきたような簡単な衣装まで様々である。
「活気があるというか…売ろうという気持ちが凄いですね。やっぱり多くの人は此処で名を残して金持ちを目指している人なんでしょうか?」
「そういう人も居れば自分の商品を売り込もうと必死な人も居るんだろうな」
「あの人なんでそんな感じですね。売られていませんけど…」
苦笑いを浮かべるメイビットに対し俺は指先へと向けられている人を見た時俺は筋がゾッとしてしまった。
嫌な汗が流れ始めたわけだが、その正体は見ればわかった。
身に纏っているオーラとでも言うべき『何か』がどす黒く濁り切っていたからだ。
呪いであることは間違いが無いが、纏っている雰囲気が普通ではなく今までで最悪と称するべきレベルだったからだ。
「メイビット…あれが厄災のホビットだ。見れば分かる」
ノルヴァスの携帯が鳴り響き鬱陶しそうな顔をしながら耳に当てると「分かった」と声を漏らして呟いた。
「見つけたそうだぞ。厄災のホビット」
「ほほう。何処だ?」
「厄介な場所に居ると。そして…ジャック・ロウという元勇者も発見したそうだぞ。同じ場所でターゲットを見ていたのを確認している。間違いが無い」
「ハハハ! つくづく縁があるなぁ!? 暴れるか?」
「聞いていないのか? 厄介な場所に居ると言っただろうに…周囲に人が沢山居る」
「気にする必要あるか?」
「この後の作戦もある。今下手に目立てばこの先の作戦に支障が出る。確実に作戦を遂行しなければいけないんだ」
「はいはい。俺にはコソコソするの好きじゃないんだがなぁ」
「だろうな。準備が整うまで大人しくしているんだ。俺は俺でやるべきことがある。ジャック・ロウにバレた以上は最低限の協定が必要だ」
ノルヴァスはビルから落ちていく。
どうでしたか?
次回はいよいよ再びノルヴァスとジャック達との再会が描かれます。
では次は双厄のホビット第三十四話でお会いしましょう!




