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魔王少女はそうとは知らずに騎士になる  作者: ユタニ
第二章

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95/112

95.悪魔の襲来(1)


その計画の最終仕上げは帝国騎士団男子寮のカーテンの交換だった。

カーテン交換に至るまでは気の遠くなるような時間がかかっている。

彼らはこの計画のために魔力を貯め、生贄を用意した。そして途方もない時間をかけて、カーテンの生地に召喚の魔法陣を刺繍で縫い込んだ。

何年も何年もかけてじっくりと城に出入りする業者に人を紛れ込ませた。

下請けの下請けになり、カーテン生地の納品までこぎつける。

計画実行の時がいよいよ近付き、日程も決まった。

念には念を入れて、城の庭に月下夢草も植えたが、これは失敗だった。それらが抜かれ、業者が取り調べを受けた時はヒヤリとしたが事なきは得た。


結局、月下夢草の失敗はそんなに大きなダメージはならなかった。むしろそのお陰で城の警備に騎士が割かれることになったので、十分な効果はあったと言えるだろう。

当初、この計画の主な目的は帝国騎士団と城へ壊滅的な被害を加える、というものであったが現在は変わっていたからだ。

今回の目的は救世主の奪還である。


多大な魔力を持つ彼らの救世主がついに現れたのだ。

それさえ手に入れば後はどうとでもなる。

そして救世主は騎士団に居る。だから今回、城を攻撃するつもりはない。

召喚する悪魔は全て騎士団に向かわせる。男子寮を混乱させ、その隙に女子寮にいる救世主を奪うつもりだ。

満月の夜に、何が何でも救世主を手に入れるのだ。だから城の警備が手厚くなり、騎士団の守りが薄くなるのは好都合だった。





❋❋❋

 

「フジノ、今日は午後からカーテンの交換で部屋に作業員が入るから、貴重品は携帯して行った方がいいよ」

その日の朝、フジノはルームメイトのヨハンからそう言われた。

ヨハンは同期の新人騎士で第六団所属だ。フジノと同じ明るい茶髪に榛色の目をした大柄な青年で、魔力はほとんどないが剣の腕は中々いい。

馴れ合うつもりはなかったのだけれど、同じ部屋ともなるとぽつぽつ話すようになって、今ではそれなりに気を許している。ハナノとローラを除けば、同期では一番仲がいいと言ってもいいだろう。というか同期で唯一の同性の友人だ。


「へー、何色になるの?」

フジノは部屋の既存のカーテンを見てみた。

それはもう元の色が分からないくらい日焼けしていて、薄黄色くなっている。


「緑色だったかな? お知らせが入り口の掲示板に貼ってあったと思うよ」

「ふーん」

フジノは心底、ふーん、と思って部屋を出た。出掛けに寮入り口のカーテンの色見本を見る。淡い緑色の品の良さそうな色で、刺繍も入っているらしい。


(刺繍入りなんて豪華だな)

フジノはそう思って騎士団へと向かった。




❋❋❋


その日の午後、中庭にうず高く積まれている薄黄色い布の横をハナノはカノンと歩いていた。


「なんでしょうね、これ」

「ああ、男子寮の古いカーテンだよ。破れたり裂けたりしてるのが目立ってきたから一斉に交換するって言ってた」

「すごい量ですねえ。」

「男子寮は1000人くらい入っているからね。建物も4棟あって、部屋は520あるんだったかな」

「へー、それ全部交換かあ、大変ですね。カノンさんも寮でしたっけ?」

「うん。近くて楽だから。実家だといろいろ煩いしね。寮は基本二人部屋だけど役が付いてからは個室だし快適だよ」

「おー、さすが、副団長ですね」

 

二十代前半での副団長はけっこう早い出世である。

カノンは「俺の場合は治癒魔法が得意だったからだね」と謙遜しているけれど、すごいことだとハナノは思う。

もちろんカノン本人にも伝えたけれど「それを言ったらラッシュ団長は二十代前半で団長だし、アレクセイ団長に至っては十代だったよ」と苦笑されてしまった。

ううむ、確かにそうだけどあの二人と比べるのは間違いだと思う。あれは完全に規格外じゃないだろうか。

ハナノはきっとこの銀髪のキラキラも強いに違いないとにらんでいる。


さて、本日ハナノがカノンと連れ立って歩いているのは、これから二度目の国立治療院に向かうからだ。

前回協力してくれた騎士の、膝の疼きが軽減したのである。

その騎士ブルック・ヤードリはとても喜んでくれていて、前回は二時間だった治癒の時間を今回は三時間にする予定だ。


(三時間なんて、すごいな)

ハナノは前回の様子を思い出してそう思う。

治癒魔法は術者の魔力を使って強制的に体の治癒力を高める魔法だ。だからかけられている方にも負担がかかる。不快感があるし、痛みが伴うこともあるのだ。

変形した関節の治癒にもなると相当な負担があったようで、前回の治療時、ブルックは額に脂汗を浮かべていた。

終わった時に感想を聞くと、苦笑いしながら「膝が中からうぞうぞして、たまにごりっと痛い」と教えてくれ、次回の治療に関しては消極的だった。

その時点では効果のほどはまだ分からなかったこともあって、次回の約束は曖昧だったのだ。


でもその後、ブルック本人は効果を実感したらしい。是非二回目をお願いしたいと要請があったのである。しかも三時間。


ブルックは二時間でもぐったり疲れていたのに大丈夫だろうか。

(騎士だし体力はあるから平気なのかな? あんまり辛そうだったら途中で止めよう)


「カノンさん。もしブルックさんが無理をしているようなら止めてくださいね。私も止めますので」

「もちろん。その為に俺は付いているからね。あとハナノも無理をしてはいけないよ」

「私は大丈夫ですよ」

ハナノの方はというと、ずっと同じ姿勢なので肩や腰は凝るがそれ以外は大きな問題はない。


「今回はばっちり予習もしましたし、前回以上の成果をあげたいなと思ってます」

前回の触診や、治療院で見せてもらった怪我の記録を元に、関節の変形の様子をばっちり頭に入れてきている。だから今回はより効果的な治癒魔法をかけられるはずだ。


「頑張ってね。あとハナノ、明日の古代語のレッスンなんだけど、僕は任務で参加出来ないんだ。ごめんね」

カノンが申し訳なさそうな顔になる。明日はハナノによる三回目の古代語レッスンなのだ。

 

「分かりました。遠方の任務ですか?」

「ううん、皇居の警備。明日は満月で、ハナノが見つけてくれた月下夢草が咲くはずだった日なんだよ」

「あー、ほんとだ、そうですね」

「月下夢草のことはお手柄だったね」

「いえいえ、たまたまですよ」

「そんな事ないよ。ハナノはいつも勉強熱心だからそのお陰だよ。可愛いくて頑張り屋さんの弟子を持って俺も誇らしいよ」

「あ、ありがとうございます」

こうして褒められると嬉しいけど、恥ずかしい。顔が火照ってきてしまう。ハナノは話を元に戻した。


「明日は何か企みがあるかもしれないから、城の警備を手厚くするんですよね」 

「うん。いつもの近衛の夜勤に加えて第四団も配置につくんだ」

「という事は夜通しですね。お疲れ様です」

「まあ何もないだろうというのが大方の予想。恐らく皆でのんびりお月見だね。総監も明日は皇宮に泊まるらしいし、何か差し入れくれるんじゃないかな」

「お、それは絶対差し入れパターンですね、何でしょうね、楽しみですねえ」

ハナノは呑気にそう答えた。


この時はハナノもカノンも、明日の夜がお月見どころではなくなるなんて想像もしていなかった。

総監からの差し入れ予想をしながら国立治療院へ行き、ハナノはブルックの膝の治療に専念した。




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