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魔王少女はそうとは知らずに騎士になる  作者: ユタニ
第二章

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93.第一団長(5)


ハナノがフジノの前世を知ってから一週間と少し経った。

双子の兄がなんと昔は勇者だったのだが、今のところ特に大きな変化はない。

聞かされた時は驚きはしたけれど、それは最初だけで、むしろだからフジノは天才だったのだと納得するに至っている。


ハナノにとってフジノが生まれる前からの付き合いであることに変わりはない。

だから本日もいつもと変わりなく、ハナノはフジノと食堂にてお昼を食べていた。


「ここ、よいかな?」

そんな二人に落ち着いた声がかかる。


ハナノが見上げると、臙脂色の制服を着た騎士が微笑んでいた。美しいプラチナブロンドからは特徴的な尖った耳がのぞいている。


前言撤回。

フジノが勇者だったことで変化はあった。

第一団長が昼食時にフジノを訪ねて来るようになったのだ。

 

数日おきに、騎士団の食堂へ顔を出しているラグノア。

近衛騎士の臙脂色の服は、騎士団のグレーの服の中ではかなり異質だ。ラグノアはその気高い美貌と雰囲気もあって遠目でもすぐに誰かが分かる。エルフの尖った耳も隠そうとはしていない。

そしてこれまでは滅多に騎士団には顔を出していなかった第一団長である。

なのでとにかく目立つ。


「第一団長だ……」「本当に来た」「実在してたんだ」「俺、初めて見た」

ラグノアが来た途端にざわざわする食堂。ハナノたちの座る机を騎士たちが遠巻きに注目している。


(やっと、皆も慣れてきたかなあ)

ハナノは周囲の様子にそう思いながらラグノアに席を勧めた。

こんな様子だが、これでもマシになった方なのである。初めてラグノアが食堂に現れた時は皆驚きのあまり固まってしまい、食堂は小一時間ほど静寂に包まれたのだ。本日でラグノアの登場は三回目なので喋る余裕も出てきている。

 

このラグノアの訪問のせいでフジノは第二団の先輩達から「まさかお前、第一団長を口説いたのか!?」「口説いたならどうやったんだ!」と聞かれまくった。そして最終的には「はっ、ていうか口説かれてんのか!?」「マジか! どうするんだ!?」「振るのはムリじゃないか!?」ということになっている。


フジノは古い知り合いなのだと説明しているが、納得はしてもらっていない。16才で古い知り合いというのは明らかに嘘っぽいとハナノも思う。

でも前世が勇者だったことは絶対に言いたくないようで、頑なにそれについては黙っている。ハナノも何度も喋るなと念押しをされた。


(ラッシュ団長にいじられて嫌そうだったもんな)

フジノの前世のことを知ったラッシュはフジノを見つけると「よ、勇者」と声をかけては嫌がるフジノをおちょくっている。

皆にバラすとここにファシオやトルドも加わるだろうし、サーシャもさらりといじってくると思う。サーバルには手合わせを熱望されそうだ。


また、第三団長のセシルにはなぜかフジノの前世が知られていて、フジノはセシルからは200年前の魔法について質問攻めにあっていた。

セシルによるとラグノアに聞くと「人の歴史への過度な干渉になる」と教えてくれなかったらしい。それがフジノに聞けるとなってセシルは今とても嬉しそうだ。


というわけで、勇者だったなんてバレたくないフジノは第一団長に口説かれている、というポジションを不承不承受け入れている。


「何で、しょっちゅう来るんだよ」

隣に座ったラグノアにフジノは開口一番そう言った。

 

「友人に会いにくるのは当然だろう?」

不機嫌そうなフジノをものともせずにラグノアがにっこりする。


「僕を口説いてるって噂になってるんだよ。知ってるのか?」

「ははは、知っている」

「笑ってる場合じゃないだろ、恥ずかしくないのかよ」

「いいじゃないか言わせておけば。なあハナノ」

ここでハナノにはウインクが飛んできた。

 

「ひゃあっ、まあ噂なんてそのうち消えますしね」

「そうだよ。フジノ、ハナノの方がずっと大人だな」

「煩いなあ。こっちに来なくても近衛は城で食べられるんだし、わざわざ来んなよ」

「寂しいことを言うね。昔の君にはそれなりの包容力があったのに、今の君は変に大人びた子供だな。アレクセイが手を焼く理由が分かるよ」

やれやれと肩をすくめるラグノア。それでも表情は楽しそうだ。


「16才に包容力を求めんなよ」

「それもそうだな、幼い子よ」

「大人ぶるんじゃねーよ」

「君の扱いは難しいな」

言い合う二人は生き生きしている。

仲良しだな、とハナノは思う。


何度か食堂で三人で過ごしたハナノは、フジノの不機嫌が続くのは短い間だけだと知っている。

何だかんだですぐにラグノアと魔法や魔物や薬草について熱心に話し出すのだ。ハナノも時々加わってはラグノアに「賢い子だね」と褒められたりする。


そして、ラグノアへのフジノの態度はあまりにも打ち解けていると思うし、フジノはフジノで他には滅多にみせない遠慮のなさがある。


(これは、やっぱり、あれでは?)

二人を観察しつつ、もぐもぐしながらハナノは考える。


(ほら、付き合いが長過ぎて友達になっちゃってるけど、実は愛しあっているというあれでは?)

空白の200年があるとはいえ、ルドルフ時代はかなりの時間を一緒に過ごしたはずだ。


(きっかけさえあれば、くっつくのでは……そうなると、ラグノアがお義姉様……)

なんてドキドキしていると食堂の入り口からきりっとした声が響いた。


「居たー! 団長!」

黒髪をお団子にした眼鏡の小柄な女性が、ハナノ達のテーブルへと小走りでやって来る。


「やあ、ミドリ」

「「ミドリさん、こんにちは」」

黒髪眼鏡女子にそろって挨拶をする三人。


ハナノと変わらない背丈のこの眼鏡女子は女子寮のマスコット的存在の“ミドリさん”である。

ただ、可愛いのは外見だけでサーバルが心酔するくらいに強い。そして第一団の副団長だ。


ハナノはミドリの戦う姿を見たことはないが、無条件でミドリを尊敬している。


ミドリの得物はトンファーというL字型の二本のこん棒でとても珍しく、騎士団でそれを使うのはミドリだけだ。また体術も主な武器としている。

本気の時は眼鏡を外して周囲の気配全てに攻撃するという怖いモードになるため、混戦の際は単独行動を取るらしい。

そんな恐ろしい戦い方をするミドリ。

ぱっと見は可憐な20代にしか見えないが、これでも34才、何と二児の母だ。

 

子育てはミドリの夫が長期の休暇を取って、ミドリの実家で行っている。

因みに夫も騎士。

「俺よりミドリの方が断トツで強いし、騎士団の為になるから」と自ら進んで育児休暇を取ったというのは有名な話だ。


ハナノはその立場を受け入れたミドリの夫はきっと素敵な人なのだろうと想像している。

何よりこんなに可憐で強くもあるミドリを射止めた人なのだ。素敵に決まっている。


「見つけましたよ団長。食べ終わったら一緒に執務室へ行きましょう。書類が溜まっています」

ミドリはハナノ達の側まで来ると、ラグノアを睨んだ。

小さくて可愛いので睨まれても怖くはない。


「ミドリ、いつも言っているが、君が私の判子を押してくれたらいいんだよ」

「ダメです。判子は本人が押してください。そして少しは目を通してください」

「君は融通が利かない子だね」

「普通です!」

「分かったよ。食べ終わったら君と行こう。さあミドリも食べなさい。君はすぐに昼を抜くからね」

「誰を探し回って昼を抜いてると思ってるんですか?」

ミドリは額に青筋が浮かべながらもラグノアの向かいの席、ハナノの隣に座った。誰かが気を利かせて定食のトレーを回してくれる。ミドリは「ありがとうございます」と礼を言って食事に手を付けだした。

 

「私の事は探さなくていいと言っているよ」

「探して連れて行かないと書類に判子すら押さないでしょうが!」

「前任者は勝手に押していたんだがね」

「十年も前の話しないでください!」

ラグノアに怒りながらもてきぱきとご飯を口へと運ぶミドリ。

ハナノは十年も前から第一団の副団長なんだなあ、と感心した。


「ミドリ、あんまり怒ってばかりだと老けるぞ」

「はあ? エルフだからって言っていいことと悪いことがありますよ!」

「確かに私はほとんど老けないがね」

「団長、おちょくらないで下さい……はあ、フジノさんは大丈夫ですか? 困ってませんか? うちの団長がすみません」

ミドリは怒り顔から一転して、不安げにフジノに目を移した。


「困ってはいませんよ」

「本当に? エルフだからって気後れしたらダメですよ。こっちの常識は通じませんからね。意見と気持ちははっきり伝えてくださいね」

「いろいろ通じないことは知ってます」

フジノが柔らかく笑う。

その笑顔は過去のラグノアとのことを思い出しているからだとハナノは思う。やっぱりここには愛とか恋とかがあるんじゃないだろうか。


「ハナノさんもです。団長の見た目は神々しいですけど、気にせずに文句言っていいんですからね」

ミドリはハナノのことも心配してくれた。


「文句があればちゃんと言います」

「ミドリ、文句がある前提はひどくないか?」

「お二人には感謝しているんです。団長を探して回る手間が省けますからね。最近はお昼に食堂付近を張っていればいいだけなので助かっています。フジノさん、ハナノさん、どうもありがとうございます」

ラグノアの苦言は無視してミドリはハナノとフジノにぺこりと頭を下げた。


「いえいえ、何もしてませんよ。頭なんか下げないでください。あ、サーバルさんがミドリさんと手合わせしたいって言ってましたよ」

ハナノは慌ててミドリに顔を上げてもらい、話を反らした。


「サーバルさんですか……あの人との手合わせ、マジで本気でくるから困るんですよね。私は武器の都合上どうしても接近戦になるので、本気で来られると怪我の恐れもあるんですよ」

「サーバルさんは最初からマジですもんね。私なんかは瞬殺です。もう少し打ち合ってくれてもいいのになと思います」

瞬殺されるから、サーバルとの打ち合いはハナノにとっての鍛練にはならない。


「いっそ瞬殺してもらった方が気は楽ですね。そうしようかな……でも絶対手を抜いたって怒るだろうしなあ」

ミドリはそんな事を言いながらハナノ達と一緒に昼食を取ると、ラグノアを執務室へと引っ張って行った。




「ハナは今日は国立治療院へ行くんだっけ?」

ラグノアとミドリが去って、フジノが聞いてくる。


「うん。その前に手紙の返事を書いちゃわないと」

「ああ、文通の。カテリーナ嬢だったっけ、頻度が多いよね」

「これでも少し落ち着いてきたんだよ。今日は剣の手入れについて書いてみるの」

「大変だね」

「けっこう楽しいよ」

カテリーナの書いてくる流行りのドレスやお菓子の話をハナノも楽しく読んでいるので、こういう交流もいいなと思っている。


ハナノはフジノに別れを告げると、食堂から談話室に移動して、剣の手入れについて細かく書きだした。

これを書いたら午後からはカノンと合流して国立治療院へ行く予定だ。魔物に噛み砕かれて膝が曲がってしまっている騎士の治癒に挑戦してみる事になっているのだ。


相手の騎士には治るかは分からない、と伝えてあるけれど、もし自分に膝の変形を治す力があるなら是非治してあげたいと思う。


(上手くいけばいいな。兆しだけでもいいから成果があるといいなあ)

そんな風に考えながらハナノはペンを走らせた。



 

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