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魔王少女はそうとは知らずに騎士になる  作者: ユタニ
第二章

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88.カテリーナとの文通


「うーむ」

皇太后のお茶会より数日後、ハナノは騎士団本部の談話室の一角で頭を抱えて悩んでいた。

目前の机には真っ白な便箋が数枚置いてある。


「むむむむ」

悩んでいるのは、つい昨日出来たばかりの文通相手への返事だ。


話は少し遡る。

皇太后のお茶会の翌日、ハナノに再びお茶会への招待状が届く。送り主はカテリーナ・パシバルとなっていた。

 

「カテリーナ・パシバル?」

何だか聞いた事があるような気もするし、全然知らない気もする。貴族年鑑で確かめてみるとパシバル家は伯爵家でカテリーナは一人娘のようだった。


招待状には丁寧な手紙も添えられていた。そこにはお茶会でのハナノの親切に感激して、どうしてもお近づきになりたいので是非来てほしい、というような旨が書かれていたのだが、心当たりはない。


困ってローラに相談すると「パシバル伯爵令嬢なら確かにお茶会に居たわよ。レモンイエローのドレスをお召しだったと思うのだけどハナとはテーブルも違ったはずよ」と教えてくれた。


ハナノはお茶会の出席者のドレスや座っていた位置までちゃんと覚えているローラの記憶力に感心して尊敬すると共に、カテリーナに該当する令嬢に思い当たる。


おそらく温室からの帰りにぶつかった令嬢だろう。

彼女のドレスはレモンイエローだったはずだ。

「あの時の子かあ」

お茶会にまで誘ってくれるなんて、嬉しい。

嬉しいけど困った。ドレスは皇太后のお茶会で着た一着しかないのだし、そもそもお茶会は苦手である。


「ローラ、お断りするのは失礼かな? カテリーナ嬢は傷つくかな?」

「別にいいんじゃない? 知らない方なんでしょう? 面識もないのに誘ってくるなんてあちらも失礼だもの。それにパシバル家は貴族派の中心よ。皇室直属の第二団所属のハナをお茶会に誘うなんて、何か意図があるかもしれないわ。貴族派はもちろん皇弟妃の座も狙っているし、妃候補のハナは嫌がらせされるかも」

ローラは胡散臭そうカテリーナの署名をなぞる。


「ローラ、妃候補じゃないから」

「そう感じる人達もいるってことよ」

「むう……でもパシバル嬢と面識はあるの」

「えっ、そうなの?」

「うん、出会った状況からしてこの招待は嫌がらせじゃないと思うなあ。あの時の私は自分で言うのもなんだけど、ばっちり決まってたから」

「決まってた? 何が?」

「凛々しい騎士が」

「は?」

ローラが訳が分からないという顔になり、ハナノはカテリーナ相手にばっちり凛々しい騎士を決めた様子をローラに教えてあげた。


「こう、甘いマスク作ってね『お怪我はありませんか? 美しいレディ』みたいな」

ローラ相手に再現もしてみせるハナノ。


「あら、意外にさまになるわね」

「意外は失礼じゃない?」

「なるほどねえ……状況を聞くにパシバル嬢はわざとハナノにぶつかったんだと思うけど」

「ローラ、そういう決めつけはよくないよ。手紙も丁寧だしきっといい子だから」

ハナノはそこで手紙の文面をローラに見せた。

 

「ふーん、確かにかなり気持ちが入ってるし、本当にハナと仲良くなりたいのかしら」

ローラはカテリーナからの手紙をしげしげと眺める。


「でもお茶会は断りたいのね?」

「う……だってドレスはあの一着だけだし、一対一のお茶会なんてマナーの無さがバレるよ」

「じゃあ、それを正直にお伝えしてみたら? ハナの場合、お誘いを断っても家同士の関係が悪くなる訳でもないし、騎士団での立場が悪くなる訳でもないんだから」

「パシバル嬢に悪くない?」

「代わりにお手紙からの交流を提案したら? そうね、断る理由に騎士としての任務や鍛練を優先したいっていうのも書いておけば凛々しい騎士のイメージも守れるんじゃないかしら」

ローラの言葉にハナノは、はたと膝を打つ。

「さすがローラ! そうしてみる!」


というわけで、ハナノはカテリーナにお茶会の誘いを断る代わりに文通を提案し、昨日、カテリーナより早速第一便が届いたのだった。

便箋五枚でびっしりと。


「…………」

どうやらハナノの凛々しい騎士は本当にばっちり決まっていたらしい。

便箋に埋められた文字を読みながらハナノは頭を抱える。

この熱量に応える超大作を書かなければならないのだが、何を書いたらいいのか全く分からない。


「困ったな」

「お、ハナノー、居た居た」

ハナノが悩んでいると、談話室にサーバルが顔を出した。


「サーバルさん、どうしました?」

「探してたんだよ。何してんだ? 手紙?」

今日も短い赤い髪の毛をつんつんさせたサーバルは広げられた便箋を見た。


「ちょっと、ご令嬢と文通する事になりまして、何を書けばいいのかと悩んでました」

「令嬢と?」

「はい。皇太后のお茶会に招待されちゃった時に出会った方なんです」

「ちょっと前のあれか。フジノが一日不機嫌だった時のだな。何かあったのか?」

「いえ、楽しかったですよ。ちょっと浮いてたような気はしますが」

「気を遣うよなあ。場違い感が半端ないもんな」

サーバルが懐かしそうに言うので、ハナノは驚いて聞いた。


「もしかしてサーバルさんも、皇太后のお茶会に参加したことあるんですか?」

「ああ、指名されて行ったんだ。三年前だったかな?」

「…………サーバルさんも花嫁候補だったんだ」

「花嫁? あー、ラッシュ団長のやつな。困るよなあ、あれ。うちの母親が皇太后と仲良くてさ、それで二人で盛り上がっちゃったみたいなんだよ。こっちはいい迷惑だったよ」

「ドレスなんて着慣れないですもんね」

「ん? 私はドレスは着てないぞ」

「えっ、じゃあ何を着て行ったんですか? …………燕尾服とか?」

サーバルが燕尾服を着ると、少年が頑張って正装している感じになりそうである。


「いやいや、そんなの着ないよ。騎士服で行った。これだって騎士の正装だろ?」

「!」

サーバルの返答に目から鱗の落ちるハナノ。


「そんで行ってすぐ皇太后に『自分にとってラッシュ団長は尊敬する騎士です。こういう場に呼びつけられるのは困ります。母と盛り上がってセッティングするなら手合わせをセッティングして下さい』って言って帰ってきた」

「!!」


「その後ラッシュ団長が迷惑かけたな、って本当に手合わせもしてくれた。他団の団長と手合わせなんて中々出来ないからなあ、ラッキーだったよ。こてんぱんに負けたがいい経験だった」

サーバルが、からからと笑う。


「…………カッコいいぃ」

ハナノはまじまじとサーバルを見つめた後にぽつりと言った。


「うん?」

がしっとサーバルの両手を掴む。


「サーバルさん! 流石です! 超絶カッコいい! それが正解ですよ! 凛々しい騎士です!」

「えっ、そうか?」

「そうですよ! はあー、私もそう言うべきでした。“セッティングするなら手合わせをセッティングして下さい”それを言うべきでした。ああ、私まだ“待ってろ”も言えてないのに」

「待ってろ?」

「いつか言いたいんです。カッコよく」

「待ってろ、はいつでも言えるだろ」

「カッコよく言いたいんですー。はあ、私はほんとまだまだですね……ドレス着てのこのこ参加してしまった。不甲斐ないです」


「んー、でもそのおかげで今回の文通相手と会えたんだろ? 良かったじゃないか。貴族相手の捜査とかならそういう人脈もいるぞ。私は社交界は全く縁がないままだから凄いなって思う。ハナノがドレス着て頑張ったおかげだよ」

「……サーバルさん、ほんとカッコいい」

もはや感動しながら、ハナノはサーバルを見た。


「ふふん、まあな。で? 手紙に何を書くのか悩んでるのか?」

得意げになったサーバルが再び便箋を見る。


「はい。困ってます。美しい文章とか書けないんですよね」

「騎士団のことを書いたらいいんじゃないか? 令嬢なら知らないことも多いだろう。任務の内容はマズいけど、ほら、エントヒヒのこととか書けばいいんじゃん? よく分からないが女の子ってもふもふが好きなんだろ?」

「そうなんですか? もふもふ? 獣ですか?」

「うん、たぶん。妹が言ってた」

「なるほど、では今回はエントヒヒについて書いてみます。ありがとうございます、サーバルさん。助かりました」

「良かったな。あ、それでだな、アレクセイ団長が休憩時間が終わったら執務室に来いって」

「分かりました!」

それからハナノは猛然とエントヒヒの詳細について便箋に書き、アレクセイの執務室へと向かった。




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サーバルさん、カッコいい!
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