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魔王少女はそうとは知らずに騎士になる  作者: ユタニ
第一章

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58/112

58.見習い期間の終了(2)


「ハナ、もしかしてお酒飲んだ?」

やっとファシオから解放されて戻ってきたフジノは、とろんとしたハナノの様子を見て聞いた。


「えー?のんでないよぅ」

ハナノはうふうふと笑いながらそう言う。その顔はほんのり赤い。


(絶対、飲んでる)

フジノはそう確信しながらハナノの前にあるグラスを匂いをかいで1つ1つ確認した。

「あ、ちょっとハナ、これお酒だよ。飲んだ?」

明らかに酒精の匂いがする一つを見つけて、きっとこれを飲んだんだろうなあ、と思いながらフジノが聞くとハナノにぎゅうと抱き締められた。


「ええっ!ちょっとっ、ハナ!」

フジノはみるみる顔を赤くした。双子とはいえ、こんなあからさまな接触は小さい頃以来だ。

 

「フジー、だいすき」

ぎゅっと、苦しくはない程度に力が込められる。おまけにハナノは肩口に顔をすりすりしてくる。

 

「へっ? ハナ?」

「なにどうしたの?」

フジノの慌てる声に、隣のローラがトルドとの会話を中断して振り向きハナノに抱き締められているフジノに目を丸くした。

「なにこれ、ハナは酔ってるの?」


「フジー、だいすきい」

ハナノは幸せそうにフジノに抱きついたままだ。口調は舌足らずで少し甘い。頬は上気していて、目は潤んでいる。

どこからどう見ても、酔っぱらいだ。

「そうみたいだ。初めて見たけど」

「酔うとキス魔ならぬ、抱きつき魔になるのかしら? それにしてもフジノは顔が真っ赤よ」

「ハナが悪いよ。これは恥ずかしい」


小さい頃は一緒に寝ていたし、手を繋いでいたし、ハグもしていたけれど、せいぜい7才くらいまででそれ以降はハナノとこんな風に密着したことはない。

もちろん女性として意識する訳ではないが、気恥ずかしいし慣れない。


「ハナぁ、離れてよ」

「やだあ」

フジノが無理に引き剥がそうとすると、ハナノはいやいやするように首を振り、フジノを抱き締める腕に力を入れた。


「ハナあ」

「ハナ、離れてあげなさいよ。困ってるわよ」

「あっ、ろーらだ」

ハナノはローラの呼びかけにフジノの肩に押し付けていた顔をあげると嬉しそうに笑う。

それからさっとローラの左手を取り、その手の甲にキスをした。


「ええっ!」

今度はローラが狼狽える番だった。

「ろーらだあ。ろーらもすきぃ」

ちゅっちゅっと子供がするようなキスが続き、ハナノはローラの手に頬を寄せる。


「ちょっと、ハナ、やめなさい」

ローラが真っ赤になって手を引こうとするが、ハナノは離さないしキスを続ける。どうやらキス魔にもなるようだ。

「やだあ」

「ハナ、とりあえず僕から離れて」

「やあだあ」


「うわ、三人で何やってんだ?」

ここでテーブルにやって来たサーバルが三人の様子に驚きの声をあげた。


「あっ、サーバルさん。ハナノが酔っ払ってるみたいっすよ」

トルドが説明してサーバルはしげしげとハナノを見る。

「酔っぱらい? 酒を飲んだのか?」

サーバルの様子は普通で今日のサーバルは酔っぱらうほど飲んでいないようだ。


「そのグラスが酒で、どうやら少し飲んだみたいなんです。我が家は全員酒に弱いのでハナノも弱かったんだと思います」

サーバルがまともなのにほっとしながらフジノは酒の入っていたグラスを指さして説明した。こういう時はまともな大人が必要だ。


「あっ、それさっき私が置いた酒だ。つまみを取りに行って他で喋っちゃってたんだよ。えー、すまんな。大丈夫か?」

サーバルはハナノの様子を見に側までやって来た。

「ハナノ、ハーナーノ」

サーバルがフジノにしがみついているハナノの肩をこづく。


「さーはるさん」

ハナノはサーバルを認めると、舌足らずにその名を呼んで立ち上がり、フジノから離れた。


「あっ、離れた」

フジノはほっとする。ローラも手が解放されて安堵しているようだ。


「よかった。ありがとうございます、サーバルさん」

しかしフジノがお礼を言う側でハナノは今度はサーバルに抱きついた。


「さーはるさんも、すきい」

ぎゅううっっ

「うわっ、おい」

「すきぃ」

ハナノはフジノにしたように顔もすりすりする。

サーバルとハナノの身長はあまり変わらないので、サーバルの頬と首すじにハナノの息がかかって、髪の毛がさらさらと肌を撫でた。

「うわあっ、ちょっと、フジノっ、なにこれ」

途端に顔を赤くするサーバル。 


「……どうやら好きな人に反応するみたいですね」

ハナノの様子にフジノはそう納得する。

「すきぃ」

「えええっ」

「トルドさんには反応してないから、ハナノの中で一定以上好きだと抱きつくのかな」

「あっ、ほんとね。確かにトルドさんの事は無視ね」

ローラも納得する。

「じわっと傷つくなあ。おーいハナノ、トルドさんだぞー、いつもお世話になってるだろ? ジェラートも買ってやってるだろう?」

トルドは恨めしそうだが、ハナノにはその声すら届かないようで「さーはるさあん、すきい」と無視している。


「おいフジノ、冷静な分析はいいから早くハナノをはがしてくれ」

もはや羽交い締めみたいにきつく抱き締められたサーバルが言う。サーバルが本気になれば抜け出せるのだろうが、酔っ払ったハナノに無理強いは出来ないみたいだ。


「ハナ、離れてあげて」

「いや!」

宥めるように言ってみたが即拒否されてしまった。

 

「ハナが好きそうな人呼んだらいいんじゃないかしら? 好きな人を見つけては抱きついてる感じよね」

「ローラ。それだとサーバルさんからは離れるけど他の人の迷惑だよ」

ローラの提案にフジノはそう返したのだけれど、サーバルはぽむと手を打った。


「じゃあとりあえずファシオかアレクセイ団長あたり呼べばいいな!」

(は? ファシオさん?)

サーバルの言葉に愕然とするフジノ。

 

サーバルはさっそく少し離れたテーブルに座るファシオを見つけて声を張り上げようとする。

「いた! ファ、」

「ダメです」

フジノはサーバルの口を慌てて押さえた。

「むごむご」

「ファシオさんにハナが抱きついたらどうするんですか? やめてください、サーバルさん」

自分は兄だからセーフだが、妹が異性に抱きつくなんてフジノは絶対に嫌だった。

まして、ファシオなんて考えるだけで無理だ。

無理無理無理無理無理。


「むごご」

「やめてくださいよ」

「むご」

サーバルが頷いたので、フジノは手を離した。


「フジノ、なら早く引き取れよ。ハナノ、ちょっと顔だけでも離してくれ」

サーバルがハナノの顔をぐいぐい押し返すがハナノはいやいやと顔を振るだけだ。

「ひどいさーはるさん、やめてえ」

「やめてほしいのはこっちだ。髪があたってくすぐったいし恥ずかしいんだよ」

「なんでえ、すきなのにい」

「好きなら離れろー」

「やだあ」

ハナノが離れる素振りはない。

もうこのまま部屋に送って寝かせた方がいいんじゃないかとフジノは思う。


「サーバルさん。そのまま歩けますか? 寮までハナを連れて行ってそこで無理矢理はがしてみましょう」

「あー、寝かしつけるのか? まあ布団かけたら寝るかもなあ。動けるかな」

サーバルがもぞもぞと足を動かした時だった。ハナノが何かに反応してサーバルの肩口から顔を上げる。

  

「あっ、このにおいー、かのんしゃんだ」

ハナノは嬉しそうにそう言い、するりとサーバルから離れた。

そしてそのまま通りがかったカノンに後ろから抱きつく。

「!」

フジノは自分の顔がひきつったのが分かった。


「いいにおいー、すきぃ」

ぎゅううっとハナノの腕に力が入り、カノンの背中をすんすんしだす。


「えっ?」

後ろから抱きつかれたカノンは不意打ちにびっくりしたが相手がハナノだと分かると、今までの誰よりも手慣れた様子で冷静に対応した。

 

「ハナノ、どうしたの?」

狼狽えたり、恥ずかしがることなくハナノをそっと自分の正面に誘導すると、優しく諭すようにハナノに声をかける。

「ハナノ、酔っ払ってるの?」

「やさしいー、かのんしゃん、すきぃ」

「酔ってるね」

カノンはそっとハナノの頭をぽんぽんした。

ハナノがすりすりしていた顔を上げる。


「かのんしゃん、いいにおいー」

「ありがとう」

とりあえずキラキラの笑顔が向けられてハナノは嬉しそうだ。


「カノンさん、妹から離れてください」

フジノはぎりぎりカノンを睨みながらそう言った。何なら殺気も出ているが止めようがない。


「えっ、いや、俺完全に被害者だよ、フジノ」

「ハナノって、カノンも好きなんだなあ」

「変なこと言わないでください、サーバルさん」

「ふふふ、すきぃ」

「ハナ! 離れて! 男に抱きつくのはやめなよ」

フジノはカノンからハナノを引き剥がそうとするが、ハナノはますます腕に力を込めた。

「やだあ」

「ローラ、手伝ってよ!」

「無理に離すのは逆効果なんじゃないかしら?」

ローラはカノンに抱きつくハナノをしみじみと眺めている。

 

「やっぱり団長呼んだらいいんじゃね?」

「サーバルさん、アレクセイ団長も男性です。ダメです」

「でも、カノンより女の子よりだろ?」

「それ、本人に聞かれたら怒られますよ」

「呼んだ?」

ここでひょっこりとアレクセイが顔を出した。

「うわあっ、団長っ」

サーバルがびくっとする。


「……ちょっとカノン、ハナノに何してるの?」

アレクセイは一通り見回してから怪訝な顔でカノンに聞いた。

「ええぇ……どっちかというと、俺がハナノに何かされてますよね。アレクセイ団長」

カノンは無実を証明するために両手を肩の高さまであげる。それに抱きつくハナノ。

 

(もうやだ……)

大事な妹が男に抱きついてるなんて本当に嫌だ。でも相手がファシオでないだけまだマシだ。これ以上傷が大きくならない内にハナノを寝かしつけようとフジノは思った。


「ハナ、もう部屋に戻ろう」

「うーん?…………!」

フジノの呼びかけにハナノが振り返って、アレクセイに気付く。


「あれくしぇーらんちょう!」

ハナノは今までで一番嬉しそうな顔をすると、ぱっとカノンを離した。

るんるんでアレクセイに近付くハナノ。


「えっ、なになに? ハナノは酔っぱらってるの?」

ハナノのテンションにアレクセイが少し怯えるがハナノはお構いなしだ。


「はいぃ、よってますう」

ハナノはにっこにこでアレクセイの側に来ると、すっとアレクセイの手を取って自分の手と絡めて繋いだ。


「うん?」

「んふふふふふ」

ハナノはそのままアレクセイの隣に立って幸せそうに笑う。


「え?なにこれ?」

「団長には抱きつかないんだ……」

フジノは心底ほっとした。


「抱きつくって、え、あー、そういう酒癖的な?」

「ハナノがある程度好きな人には抱きついちゃうみたいですね」

「えー、僕は好かれてないって事?」

「うーん、そんな訳なさそうですけど……」

フジノはほころびまくってるハナノの顔を見る。

 

「これはもう好き過ぎて手が出せないんじゃないかな。アレクセイ団長は不可侵な存在なんでしょうね」

「……なんかそれは重たいな」


「でも、良かったあ。アレクセイ団長、ファシオさんとかラッシュ団長にハナが会う前にこのまま部屋まで連れて行ってあげてください」

悔しいけれど、認めたくないけれど、ファシオやラッシュに会ったら、今のハナノは絶対抱きつくだろう。 

(あー、無理)

想像しただけでイライラする。特にファシオは絶対に嫌だ。


「ほらローラも行くよ。女子寮は僕達は入れないからね」

「えっ、私も行くの? 私が部屋で襲われたりしない?」

「大丈夫だよ、ハナよりローラの方が強いから」

フジノは三人をぐいぐいと食堂から押し出す。

アレクセイに先導されたハナノは素直に女子寮まで歩いてくれた。そこからはアレクセイの手をそっとローラに入れ替えてそのまま部屋へと誘導してもらった。


どっと疲れたフジノはさっさと自分の部屋へと帰って眠りについた。

 



お読みいただきありがとうございます。

私生活が立て込んでおりまして(これも究極の私生活なんですが)、二月中はゆっくり更新が続きます。すみません。


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