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魔王少女はそうとは知らずに騎士になる  作者: ユタニ
第一章

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56/112

56.竜馬との触れ合い


ハナノがフジノとローラの三人で勇者の広場を訪れた翌日のお昼休み。ハナノはフジノと共に獣舎を訪れていた。

本日はいよいよ竜馬の獣舎に入れてもらう日なのだ。

もちろんフジノも一緒に。

 

ウルフザン討伐の留守番以降、非番の日に獣舎を訪れるようになったハナノ。それを聞いたフジノが「何勝手に一人で行動してるんだよ」と付いて来るようになったのはすぐだった。


ハナノはもうすぐ十六才で成人も迎えるのだから、一人で行動するのも当然だと思うのだが、フジノからすると許せないらしい。

ハナノは「うへえ」と悲鳴をあげつつもフジノと一緒に獣舎に行き、管理人のルクルードを紹介してあげた。


「フジノ・デイバンです。ハナの兄です」

通常運転でむすっと挨拶をするフジノだったが、ルクルードは特に気にしなかった。フジノにもハナノと同じようにエントヒヒに“待て”が出来るかを試し、フジノが難なく成功すると「ふん」と言って認めてくれた。

そして無愛想同士で居心地がよかったのか、フジノとルクルードの二人は意外にも波長が合い、フジノも非番の日に一人だけで獣舎を訪れるようになった。


そして本日、順調にルクルードの信用を得た二人はついに竜馬の獣舎に入れてもらえる事になったのだ。せっかくなので最初は二人一緒がいいし非番の日を合わせるのは難しいので、昼休憩を利用して訪れている。


「いいか、怯えるな。奢るな。真っすぐに奴らの目を見ろ。竜馬は六匹いて一番奥がここのボスだ。まずそいつに挨拶しろよ。わしがいるから攻撃はしないはずだが噛まれそうになったら睨め。背中は絶対に見せるなよ」

ルクルードが手短に指示を与えて、万が一噛まれても傷が浅いようにと堅い革の手袋を「はめろ」と渡してくれる。

ハナノは手袋をはめて、不安と期待で硬くなりながらルクルードの後に続いた。

ずっと対面してみたかった竜馬だが、ハナノをお世話係として認めてくれるだろうか。ルクルードが言うにはエントヒヒの世話をしているハナノの気配を竜馬は察していたはずで、存在には慣れているから大丈夫らしいが、それでも緊張はする。


ぎぎいっと扉が開けられた。


「行け。後ろに付いててやる」

ルクルードに言われてハナノは先頭でそろりと竜馬の獣舎に入った。


こちらの獣舎の造りもエントヒヒと一緒だ。大きな倉庫のような建物で屋根の下にぐるりと窓があり結構明るい。空気はエントヒヒの建物よりはひんやりしているように感じる。


ハナノはこちらを興味深そうに見る竜馬達の視線を感じながら奥へ向かった。


一番奥で干し草の上でくつろいでいた一匹が顔をあげて立ち上がる。

見た目は馬と同じくらいの大きさのトカゲだ。体は黒い鱗に覆われているが、その鱗は角度や光の当たり方によって緑や灰色に輝く。背中には体の半分ほどの大きさの翼。竜馬はこの翼で羽ばたいて飛ぶ事は出来ないが、助走を付けて滑空する事が出来る。


(きれい……)

ハナノは色を変える鱗に見惚れながらその竜馬に近づいた。

竜馬が顔を近付けてくる。ハナノの心臓がドキドキと音を立てた。

(怯えない、奢らない、真っすぐ目を見る)

ルクルードのアドバイスを思い出して竜馬の顔を見つめる。

深い藍色の瞳と目が合った。この竜馬の瞳は黒にとても近い藍色だ。


(うわあ、吸い込まれそう)

ドキドキしていると。竜馬がハナノの手袋越しの右手に頬を擦りつけてくる。


(わっ、可愛い)

ハナノが思わず撫でてやると嬉しそうだ。すりすりと何度も頬をこすりつけてきた。


「お前を認めるらしいぞ」

ルクルードが静かに言ってハナノに笑顔がこぼれる。

「よかったあ、嬉しいです」

「ふん。フジノも挨拶しておけ」

「はい」

ハナノと入れ替わりでフジノも竜馬の前に立つ。

じっと見つめ合った後でフジノは突然、竜馬に甘く囁いた。


『お前の鱗はとても素敵だね。オニキスのように艷やかだ』

口調が甘い。しかも古代語だ。


ハナノがびっくりしていると、竜馬が目を細めて喜んでいる。ルクルードは古代語は分からないので怪訝な顔だ。


『顔立ちも美しい。うっとりするような美人さんだね』

「フ、フジノ?」

『お前の神秘的な青い瞳に見つめられると、どうにかなりそうだよ』

ハナノは唖然として兄を見た。

古代語とはいえ、フジノが歯が浮くようなセリフを竜馬に対してしゃべっている。

こんなフジノを見るのは初めてだ。だが甘い言葉とは裏腹に目は死んでいる気もする。


「えっ、ねえ、どうしたの?」

驚くハナノの前で竜馬はフジノの手にも頬を寄せた。

「あっ、懐いてる」

すりすりと頬を寄せる竜馬をフジノも撫でる。

一通り撫でてから竜馬から身を離し、フジノは言った。

「竜馬ってナルシストなんだよ。褒めれば喜ぶ」

「ナルシスト……」

そう言えば、フジノの言葉に目を細めて喜んでいた。

 

「鱗と瞳を褒めるのは基本だね。後は尻尾や翼の形なんかを褒める」

「そういうのは教えておいてよー」

「ハナはそんな事しなくても気に入られるから必要ないよ。唯一無二だからね。気に入られただろ?」

「そうだけど、緊張したよ。それに唯一無二ってなに?」

「ハナは僕の唯一だよ」

「うへえ」

ハナノは顔をしかめる。


「僕も合格みたいです。ルクルードさん」

顔をしかめるハナノを無視してフジノはルクルードを振り返った。


「ふん、いいだろう。さっきの意味不明の言葉は魔法か?」

「魔法ではないです。異国の言葉みたいなものです」

「魔法でないならいい。今日はこれで終わりだ。今度から竜馬の世話も教えてやる」

ルクルードはそう言うと「さあ、昼休みだろ。とっとと飯を食ってこい」とハナノ達を獣舎から追い出した。

でもハナノとフジノの去り際には「早めにまた来い!」と言ってくれたのでどうやら喜んでくれているようだ。

「また来ますー」

ハナノはぶんぶんと手を振って獣舎を後にした。


 

「ハナ、竜馬に古代語は通じているはずだから、触れ合う時は出来るだけ褒めて仲良くなっておいて。仲良くなればその内に背中に乗せてくれるよ」

騎士団本部へと帰りながらフジノが教えてくれる。


「乗れるの!?」

ハナノのテンションが一気に上がる。あんな美しい生き物に乗れるなんて嬉しいしかない。

「仲良くなれば」

「うわあ! 頑張る。頑張って褒めるよ」

「うん。竜馬の雌雄は気にせずに褒めるといいよ。性別はあんまり気にしないみたいだから」

「分かった。さっきはフジノがいきなり変な事を言い出してびっくりしたよ。褒めるのが前に言ってた乗るためのコツなんだね」

「うん。あれ、昔から苦手なんだよ」

「そう言えば、目が死んでたね」

「こっちの表情はあんまり分からないみたいだから、顔は作らなくていい。目だけ反らさないでね」

「がんばるー」

ハナノは次の獣舎に行ける日までにたくさんの褒め言葉を考えておこうと決意する。

ローラの貸してくれている恋愛小説を読んで、トルド辺りに褒め言葉を聞いてみよう。

カノンに聞くのもありな気はするけれど、あのキラキラに甘い言葉を言われれば鼻血が出る危険がある。


(カノンさんは止めとこう。トルドさんにだけ聞こう)

ハナノはそう決めた。


  

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