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魔王少女はそうとは知らずに騎士になる  作者: ユタニ
第一章

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54.アレクセイのお願い


所変わって、ハナノ達三人が出て行ったセシルの部屋にて。 

「さてアレクセイ、あれは何だ?」

笑顔で三人を見送ったセシルがアレクセイに聞いてきた。

 

「あ、気付いた?」

アレクセイはセシルの水色の瞳をいたずらっぽく覗き込む。


「気付くさ。私が魔法だけで団長になったようなものなのは君も知ってるだろう? ハナノの全身の結界はなんだ? かなり粗は見られたがそれでも結界だ。特に右手のは凄いな。あれはまるで呪詛のようだった」

「僕は怨念って呼んでる」

「何にしろそっち系だな……あれはもしかして兄のフジノがやっているのか?」

「鋭いね。そうだと思うよ」


「なんとなく同じ魔力なのは分かるからな。しかし、妹を守るにしては偏執的な結界の数だが」

「僕はあれはハナノの何かを封じているんだと考えてる。因みにハナノ本人は結界の事は知らない」

「封じる?ふむ、確かに守るというよりはそっちか。君のお願いとはハナノを見て欲しいだったのかな? あれを解きたいのか?なかなか難しそうだが……」

セシルはアレクセイに質問しながらも一人で納得して何やら考え込みだした。

今見たハナノの全身の結界、特に右手の結界について、解く方法を思案しているようだ。

難しそうだと言いながらその顔は生き生きとしている。少し嬉しそうですらある。


(変わらないなあ、難解な魔法は大好きだもんな)

アレクセイは魔法学校時代からの大切な友人で、かけがえのない人でもあるセシルをしみじみと眺めた。

ハナノの右手の結界は雑な魔法が滅茶苦茶に重ねがけされていて、それを解くなんて想像しただけでげんなりしてしまう代物なのにセシルは真剣だ。

魔法学校の時から課題が難しければ難しいほど楽しそうだった友人を思い出す。その課題だって学生に出される課題では退屈だからと、セシルだけ校長に特別にもらっていた課題だった。


「なんだ? 解きたいのではないのか?」

セシルがアレクセイの視線に気付く。


「今は解くつもりはないんだ。まずは結界が張ってある理由を知りたいと思っている所。ところでセシルはハナノの特異な能力については知ってる?」

「古代語のことか?」

「あー、それも今日加わったね。まだあるんだよ」

そこからアレクセイはハナノが魔獣を手懐ける事と剣の魔法の補強が出来る事をセシルに説明した。

 

「ふむ、興味深いな。だがその程度であの結界はよく分からないな」

「そうなんだよね」

「本人は良い子そうじゃないか、素直でのんびりしてる。ラッシュも気に入ってるようだった」

「うん。第二団にも馴染んでる」

アレクセイはソファに深く座り込んで、隣に図書室から持ち出した本を置いた。


「君はハナノの混血を疑っているのか?」

セシルは本を見ながら聞いた。アレクセイの置いた本には“魔獣との混血児について”とある。


「混血なら何かのきっかけで魔獣の姿になる可能性はあるし、右手もひょっとしたら異形なのかなあ、って。それなら全身の結界と右手の怨念もきれいに説明できる。田舎では混血への差別は根強いからね」


「混血だとして、フジノはともかくハナノは隠し事ができる様子はなかったが」

「フジノならハナノに気付かれないようにいろいろ小細工できたと思うんだ。四才から一通りの魔法が使えたからね」

アレクセイの言葉にセシルが口笛を吹く。

「すごいな。まるで君だな、アレクセイ」

「ねー。でも、出生証明も何の問題もなかったし、ご両親も秘密を抱えている様子はない。デイバン男爵家の血筋も辿れる限りは異種との配合はなさそうなんだ」


セシルは間をおいて、少し言いにくそうに言った。

「サーシャには聞いてみたのか、ハナノが混血の可能性を」

「……聞いてないけど、双子の調査はサーシャがやった」

「そうか」

少し沈黙があってから、アレクセイが口を開いた。

「それでさあ。ブレア総監にいつ報告したらいいかなって悩んでるんだよ」

「なぜ?」

「報告したら、本部の案件になるよね」

「そうだな、本部で何らかの調査をする事になるだろうな」

「やっぱりそうだよね。団長が総監に報告しちゃったらそうなるよね」

「それは避けたいんだな?」

「うん、フジノには逆効果だと思う。ハナノも何も知らないなら無用に傷付くかもしれない」


「しかし総監がハナノの結界を知らないとは思えないぞ。任命式で新人全員視てるはずだ。ラッシュと違ってあの人の“偵察”は完璧だからな」

ラッシュと同じくブレアも偵察魔法の使い手だ。そしてラッシュとは違い完璧に使いこなせるレベルの才能の持ち主でもある。相手の全てを知るには目を合わせなくてはいけないが、纏う魔法なら姿を確認するだけで視れる。

フジノはハナノの結界の上から隠蔽の魔法もかけているがこちらもかなり雑なので、ブレアの偵察の前では意味を成してないだろう。実際アレクセイやセシルにも意味を成してないのだ。


アレクセイはため息を吐いた。

ブレアはハナノの異様な結界を分かっていてアレクセイに押し付けている。それはつまり、

 

「つまり、僕の所で何とかしろって事なんだろうな」

そういう事だ。

  

「そうなんだろうな。少なくとも何のための結界なのかは分かってから報告をしろって事じゃないか」

「だよねえ」

アレクセイはそう言うと、ソファから立ち上がった。


「じゃあやっぱり、この件はしばらく僕が預かる、でいいよね」

「君が負担でないならね」

「ありがとうセシル。その同意が欲しかったんだ、すっきりしたよ」

「君の役に立てたなら良かった。あまり何もしていないが」

「いや、ハナノを見てもらって話せただけでも良かったよ。あともう一つお願いがあるんだけどいい? これが本題だったんだ」

「依頼によるが、君の頼みなら全力で協力はしよう」

迷いなくセシルが言いアレクセイは微笑んだ。

 

「全力はいらないよ。譲って欲しい任務があるんだ。廃神殿の任務」

「廃神殿の? あれは任務というより当番だぞ。譲るのは構わないが」

「ありがとう。それにハナノと行ってみるつもり。あそこなら出会うとしても低級の魔物だろうから、ハナノには少し必死になってもらって反応を見ようと思ってるんだ」

「ふむ……。確かにちょうどいいかもな」

「うん。さて、そろそろ昼食にしない? 一緒に食べようよ」 

昼食の誘いにセシルが同意し、アレクセイは嬉しそうに立ち上がった。




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