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魔王少女はそうとは知らずに騎士になる  作者: ユタニ
第一章

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51.非番の一日 〜セシル団長〜


「ねえローラ、第三団長ってどんな方? 怖くない?」

楽しそうなフジノとアレクセイの後を歩きながらハナノはローラに聞いた。

ハナノとしては、今向かっているセシル団長が優しいのかどうかが気になっている。とにかく怖い人は苦手なのだ。


「第三団のセシル団長はちょっと変わった方だけど、いい人よ」

「そっかあ、良かった」

ハナノはほっと胸をなでおろす。

「因みに女性よ」 

「女の人なの? 女騎士団長かあ!カッコいいね!」

がぜんテンションが上がるハナノ。ハナノの中で麗しくも凛々しい女騎士像が作られる。ちゃんと色気もあっていい匂いもするような女騎士団長だ。


「あれ? でも任命式の時にそんな人いたかな?」

任命式の時に前方には団長達が並んでいたはずだが、それっぽい人はいなかったように思う。


「セシル団長は見た目は性別不詳よ。エルフの血が八分の一入っているの。そのせいか中性的で年齢も見た目よりは年嵩らしいわ。ご本人曰く1.5倍ほど長生きするんですって」

「エルフの血かあ!」

ハナノの中でのセシルのイメージ像の凛々しさが加速した。お色気系ではなく気高い系なんだな、と修正も加えておく。

ひょっとするとラグノアと親しかったりするだろうか。八分の一がどれくらいの絆になるのかはピンと来ないが。

(えーと、つまりひいひいお婆さんかお祖父さんがエルフか……うーん)

まあまあ遠い。でもラグノアはアレクセイの事は知っていたしセシルとも顔見知り程度ではあるだろう。

今度会えたら知っているか聞いてみよう。


とりあえず気高い系の女騎士団長を想像してニマニマしているとローラが遠慮がちにハナノに言ってきた。

「ハナ。多分だけどセシル団長は思ってるのと少し違うわよ」

「少し違う?」

「説明するより会うのが一番だと思うわ」

ローラは曖昧な笑みを浮かべた。


四人は程なく、第三団長セシルの部屋に着く。


「「……」」

たどり着いた部屋の前でハナノは絶句した。


(何この扉)

ハナノはまじまじとセシルの部屋の扉を見る。

セシルの部屋の扉は古く傷んでいるといっても過言ではないオーク材でできていた。そこには子鬼と蔦の絡み合う様子がぐるりと彫られていてかなり不気味だ。そんな不気味な扉の真ん中に鎮座するドアノブは見たことのない気味の悪い動物の頭部を模している。


(……思ってたのと少し違う)

扉とドアノブを見てハナノの中の麗しくも凛々しい女団長のイメージが早くも崩れる。彫られた模様は禍々しく、ドアノブの頭部は掴むのにかなりの勇気がいる程に精巧で気持ち悪い。

ドン引きのハナノを他所にアレクセイは慣れた様子で不気味な扉をノックした。

 

「セシル、アレクセイだよ。お客さんも連れてきたよ」

部屋の中から小さく返事があり、アレクセイは躊躇なく気味の悪いドアノブを掴んで扉を開けた。


扉の向こうの部屋には、かなり混沌とした世界が広がっていた。

そこは広い部屋で大きな窓が二つあり、ドアノブから想像していたよりもずっと明るくて落ち着く部屋ではあったが如何せん物が多い。

床には沢山の本や箱が積み上げられ、正体不明の液体が入った大きな瓶や何に使うのか分からない道具が置いてある。

棚にはやはり大量の本に加えて、魔物の頭骨らしき物も並べられていた。魔物の頭骨の横には錆びた鍵がぎゅうぎゅうに詰められた瓶。

収集癖があるのか、鍵以外にも同じ物が押し込められた瓶は多い。液体に浸けられた目玉なんかもある。

部屋の中には一応歩けるスペースは確保されていて、左手奥の応接セットと作業台の上だけは使えるようになっていた。執務室として最低限の機能は果たしているのだろう。


正面奥の執務机と思われる場所にも色んな物がうず高く積まれていて全貌は見えない。その物の中心にくすんだ茶髪が覗いていた。


「アレクセイ、遅かったな。私に頼みたい事があるとか」

くすんだ茶髪がもそもそと動く。椅子を引く音がして第三団長セシルが顔を出した。長い茶髪を後ろでゆったりと1つに結わえていて、薄い水色の細い目をしている。背丈はアレクセイと同じくらいか少し高い。見た目の年齢は二十代後半で、麗しい女騎士団長というよりは線の細い文学青年といった感じだ。


(思ってたのと違うけど、扉とドアノブから想像したよりは普通かも)

ハナノはしげしげと文学青年風の女騎士団長を眺めた。


「あ、それは後で話す。それよりも」

アレクセイはセシルに話しながら後ろのハナノとフジノとローラを振り返った。


「おや、ローラも一緒なんだね。何か迷惑をかけたかい?」

「かかってないよ。むしろうちの新人がローラに迷惑をかけたかな。ローラを誘って図書室で禁書を読んでたんだ。君が会いたがってたし丁度いいから引っ張って来た」

アレクセイの紹介にセシルの顔つきが変わる。


「! ハナノとフジノか!?」

目を見開いたセシルは大股でハナノの前まで来ると、ハナノの手をぎゅっと握ってきた。

「女の子の方がハナノだと聞いている。君がハナノだね? 第三団長のセシルだ。セシルと呼びなさい」

「は、はい、セシル団長。私の事はハナノとお呼びください」

セシルの圧にたじろぐハナノ。セシルはハナノの事を前もって知ってもいたようで驚く。


「私の事をどなたかから聞いていたんですか?」

「ラッシュから聞いている。君だろう? 古代語で精霊と話をしたお嬢さんは」

セシルの言葉にアレクセイの眉がぴくりと動いた。


「ぜひ君からもラッシュと行った帝都の精霊の森での話を聞きたいと思っていたんだよ!」

セシルが嬉しそうにそう続け、フジノもぴくりと眉を動かす。

ハナノはそんな二人には気づかずに朗らかに応じた。


「もちろんお話はできますよ。でもラッシュ団長以上のお話はできないかと」

「構わないよ。何と言っても精霊と直に話したのは君――」

「ストップ! ちょっと待ってセシル!」

そこでアレクセイがセシルを遮るとハナノに聞いてきた。

「ハナノ、ラッシュと精霊の森に行ったっていうのはなに?」

アレクセイに聞かれて初めて、ハナノは内緒にしていた帝都の精霊の森行きがバレたと悟った。


「ああっ、しまった!」

ハナノの体が固まって変な汗がどっと出てくる。


「えーと、あの、その件ですがラッシュ団長から口止めされててですね……」

ハナノが目を泳がせながらもごもご言うと、アレクセイがきっと睨んでくる。

「ハナノ。君は第二騎士団の所属で、僕、上司ね」

「はい」

「じゃあ正直に答えて。帝都の精霊の森に行ったの? ラッシュと?」


「……はい。すみませんでした。先月の第二団の皆さんが魔物討伐で留守にしてる時にラッシュ団長と仲良くなりまして、森に連れて行ってくれたんです。勝手にごめんなさい」

ハナノが申し訳なさそうに謝ると、アレクセイはため息をついた。


「ラッシュなら大抵のことは何とかするだろうけど危ないよ。無事だったようだしそれはよかったけど、でも僕に無断ではやめて欲しい。何かあっても庇えない」

「……はい」

「精霊と言葉を交わしたっていうのは?」

「その時に何故か精霊と会ったんです。かなり高位の精霊のようでした。その精霊が古代語で話してきたので古代語で返して少しやり取りしました」

「やり取りって……通じたの?」

アレクセイが目をまん丸にする。

「はい」

「でも、古代語は音としては失われている。発音なんてどうやって……」

「何となく」

「何となく?」

戸惑うアレクセイにセシルが詰め寄った。

 

「アレクセイ! ラッシュもハナノと精霊が会話してるのを聞いてる。しゃべれるのは間違いない。しかもだよ、ラッシュによるとこちらのフジノも古代語をしゃべれると聞いてるんだ! あ、挨拶が遅れてすまないね、第三団長のセシルだ」

セシルはそこでフジノに向き直り、フジノの手もぎゅっと握った。

「こ、こちらこそ自己紹介が遅れました。フジノです」

フジノが突然手を握られたことに動揺しながら答える。


「えー、フジノも古代語を話せるの? 何それ、どうなってるの? デイバン男爵の領地には古代語が残ってるの?」

アレクセイが混乱気味に聞く。


「残ってないですよ。独学です」

フジノは言い切った。


「は? 独学? 無理じゃない?」

「無理じゃなかったんでしょうね。独学です」

「ええー」

「ハナノが精霊とやり取りできたって事は合ってたみたいですしね」

「いや、でもさ」

「独学ですね」

結局フジノはアレクセイに何を聞かれようが、独学の一点張りで押し通した。

 

「アレクセイ、この際過程はどうでもいいじゃないか。話せるという事が素晴らしい」

ハナノとフジノがなぜ古代語が話せるのかという点よりも、現在話せる人材が居るという事が重要なセシルがアレクセイを宥める。


「セシル、君のそういう所は良くないと思う」

「そんな事いわずに、ほら機嫌を直して一緒にハナノの話を聞こう」

セシルはハナノから精霊の森での件を聞いた後は、しきりに今度古代語を教えて欲しいとお願いしてきた。

アレクセイがそれについては一度きちんと考えると約束をした所で、ハナノはセシルから解放されてソファを借りて悪魔の召喚についての本を読む。


ハナノとフジノとローラはそのまま午前中をセシルの部屋で過ごし、お昼過ぎにお暇をした。





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