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魔王少女はそうとは知らずに騎士になる  作者: ユタニ
第一章

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49/112

49.非番の一日 〜図書室(2)〜


「あ、ごめん。ぼーっとしてた」

 ローラに呼ばれたフジノは気を取り直す。


(とりあえず今は召喚術だ。悪魔の召喚でも何か分かるかもしれない)

「前の時点って何なの?」

「ああいや、前に調べたときもなかったな、って思い出したんだ。もう悪魔の召喚でいいから調べよう」

「だから禁書だってば。大体何で召喚術が調べたいのよ」

「異界から何かを喚び出す召喚術はすごい量の魔力を使うんだろ? だから気になってるんだ」

「すごい量がいるから生け贄とかの話になるのよ? だから禁書なの。通常の魔法使いではまず無理よ」

「生け贄が要るほどかあ。いいねそれ。どれくらいの魔力がいるんだろう?」

「分かんないけど、1000とかじゃない? もっとかしら? そんな魔力があるのはアレクセイ団長しかいないわよ」

「僕、それくらいあるよ」

「は?」

ローラの目が点になった。

 

「あるんだよ。これで召喚術について調べる理由ができたね」

フジノはそう言うと、目が点のローラを置いてすたすたと立て札の先へと進む。

「え? ちょっと待ちなさいよ。1000って本気で言ってるの?」

「嘘ついてどうするんだよ」

「だってあなた、最近付き合ってあげてる魔法の特訓では小さい炎何回が出して力尽きてるじゃない」


ウルフザン討伐から帰ってからのフジノはアレクセイのアドバイス通りローラに魔法を出来るだけ小さく使う練習に付き合ってもらっている。最近やっと両手で包めるくらいまで炎を小さく出来るようになってきたのだ。


「あれはすごい集中するから疲れるんだよ。魔力切れで力尽きてるんじゃない。頭痛くなっちゃうんだ。慣れたら平気になるよ」

大きな魔力を小出しにするのは背中に圧力をかけられながら針に糸を通すような作業で、連続して行うと疲れるのだ。

だが、慣れれば難なく行えるようになるはずだ。ならないと困る。


「でも、え? 1000よ」

釈然としないローラは今度はハナノに聞き出した。

 

「ねえ、ハナ、本当に?本当にあいつ魔力1000とかあるの?」

「うーん、神殿の記録は200だったけど……。騎士になって魔法の授業後受けて、何か違うなって思うよ。普通の魔法使いは魔力が200~700とかで、500越えてくるとすごいのよね。それで、通常は竜巻みたいな大技は2~3回が限度なんでしょう? それならフジの魔力が200な訳ないよ。竜巻3個なんて余裕だもの」

「ええぇ……」

ローラは力なく驚いた。


「ねえ、じゃあウルフザン討伐ですごい規模の炎の魔法を使ったのって、本当にフジノが一人でやったの?」

「そうだと思うよ。第二団の皆もそう言ってるし」

「いや、そうは言ってもきっとアレクセイ団長も何かしたんだろ、って第三団では言ってたのよ」

「ローラ。フジノは天才なんだよ。一人で出来ます」

胸を張って宣言するハナノ。


「嘘ぉ。だってアレクセイ団長って百年に一人の逸材とか言われてるのよ?」

「おおー、さすがアレクセイ団長。でもローラ、フジノも百年に一人です」

再び、堂々とフジノを誇るハナノ。迷いはない。本当に可愛い妹だ。


「ええぇ、何か盲目的で怖いわ」

「ローラ、フジノは天才だよ?」

「ハナ、何でもそれで片付けちゃダメよ」

「ローラもフジノを信じて」

「もはや宗教っぽいわよ。大丈夫?」

ごそごそ言いながらも付いてくる二人を感じながらフジノは進んだ。


「1000よ? 本当に?」

ローラはまだぶつぶつ言っている。

「本当だってば」

フジノは振り返ってそう答えながら目的の書棚を目指した。“召喚術”と書かれた棚は図書室の奥に位置していた。


「あった。はい、ハナ」

目当ての棚を見つけたフジノは早速適当に一冊取ってハナノに渡す。

「はーい」

慣れた手つきでハナノはにそれを受け取った。

“悪魔に捧げる生贄の量について”とその背表紙には書いてある。暗い装丁のその本のページをハナノはパラパラと躊躇なく繰り出した。


「本当に読むの?」

ハナノの持つ本のタイトルと醸し出す暗い雰囲気に引きぎみのローラにもフジノは催促した。

「せっかく居るんだからローラも調べて。僕が知りたいのは召喚の仕方だからね。召喚のための魔方陣の詳細な図が特に欲しいんだ。生け贄についてはすっ飛ばして」


「いや、でも……」

「もー、じゃあこれね“悪魔とは”これざっと読んで良さそうなとこあったら教えて」

フジノはそう言ってローラにハナノの持つ本ほど不気味ではない入門書のような本を差し出す。


受け取ったローラは渋々本を開いた。そして幼い頃から貴族の令嬢として教育をしっかり受けてきたローラは条件反射的に活字を目で追いだす。

それを見てフジノは満足そうに頷いて自身も“悪魔の召喚術の全て”を手に取った。

結局、三人は騎士団図書室の禁書エリアの廊下に座り込んで悪魔の召喚術について調べだした。




廊下に座り込んで半時ほど経っただろうか。

「ねえ、何してるの?」

聞き覚えのある声が上から降ってきた。

三人が見上げると、そこに第二団長アレクセイがいた。


「「アレクセイ団長」」

フジノとハナノの声が揃う。アレクセイは三人の持つ本をしげしげと見た。

「悪魔の召喚術だね、物騒だなあ」

「悪魔は召喚しませんよ。純粋に召喚術が知りたいんです」

「でも、召喚って対象は悪魔だけだよね」

「知りたいのは幻獣の召喚です」

「幻獣?神話の?」

アレクセイがローラと同じリアクションをする。


「ああ、神話らしいですね。その幻獣です」

「あー、なるほど、神話ではないんじゃ的な?」

「そうです」

そもそも神話じゃないんだけどな、とフジノは思う。幻獣も幻獣使いも確かに存在していたものだ。


「興味の方向がすごいなあ。フジノ、君たぶんセシルと気が合うよ」

「セシル? 誰です? それ」

 聞いた事のない名前だ。

「第三団の団長だよ」

「へえー、その人召喚術に詳しいですか?」

「どうだろう、詳しくても不思議じゃいけどね」

「ふーん。ところでアレクセイ団長は何か調べ物ですか?」

フジノが聞くとアレクセイは持っていた本をさっと隠した。

 

「内緒。……さて、そして僕も同じ事を聞かないとね。しかもここは禁書エリアだよ、何をしているのかな?」

アレクセイの声が少し硬くなる。アレクセイからはあまり聞かない声色だ。


「フジノとハナノ。そして君は第三団のローラだね」

硬い声のままアレクセイが三人を見回しハナノとローラがしゅんと下を向いた。


「二人は僕の調べ物に付き合ってくれただけです」

フジノが庇うとアレクセイはフジノに目線を合わせる。


「立て札があったよね? 読んだ?」

「はい」

「こんな所に居たらいろいろ勘ぐられるよ。新人三人が任務な訳ないしね」

「はい」

「見習い期間は騎士の身分の剥奪も簡単なんだ。軽率な行動は控えなさい」

「はい」

「すごく目立ってたしね。気をつけるべきだと思う」

「はい」

アレクセイの硬い様子にフジノはまずかったなあと思う。前世の感覚で軽く調べていたのだけれど、アレクセイの態度からするとマズい事だったようだ。 せめて一人でやれば良かった。ハナノとローラを巻き込んでしまった。


「ハナノとローラも、頼まれたからといって簡単に禁書を読んではいけないよ」

「「はい」」

 ハナノとローラが小さく答える。


「「「……」」」

しーん、と気まずい沈黙の時間が流れる。



「……ところで、禁書って団長は借りられるんだけど知ってた?」

沈黙を破ってそう言ったアレクセイの口調は元に戻っていた。


「は、」

返事をしかけて、おや?とフジノは思う。

(借りる?)

アレクセイを見上げると目が合って、ウインクされた。ハナノとローラも顔を上げて、アレクセイを見ている。


「一人一冊ずつ僕が借りてあげるよ。今からセシルの部屋に行くところだったから、一緒にそれを持って行ってセシルの部屋で読みなさい。こういうのって隠されると余計に興味が湧くよね。上司監督の元なら読んでもいいよ。次からは僕に相談してね」

アレクセイが優しく言う。


フジノは自分の胸にはじんわりと小さな感動が広がるのが分かったが恥ずかしかったのでむすっとしておいた。

 

「何ですか、そのかっこいいやつ」

「うわー、可愛くない。ほらハナノを見て、こういうのだよ僕が欲しいリアクションは」

フジノがアレクセイに言われてハナノを見ると、妹は目をキラキラさせて頬を赤く染め感激しながらアレクセイを見ている。


「妹を落とさないでください」

「ふふふ、セシルはなぜか君達に会いたがってたからちょうど良かったよ」

アレクセイはにっこりした。

  

 

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