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魔王少女はそうとは知らずに騎士になる  作者: ユタニ
第一章

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47.ラッシュ団長とカノン


ラッシュと帝都の精霊の森へ行って以降、ラッシュは騎士団本部でハナノに出会うとお菓子をくれるようになった。


「妹を餌付けするのは止めてください。ラッシュ団長」

 今日もハナノにマカロンなるものをくれようとしたラッシュにフジノが言う。その声は明らかに不機嫌で、マカロンなるものが入っている可愛らしい細長い箱を受け取ろうとしていたハナノは一旦止まってフジノを見た。


「お前なあ、ハナはお前のために昼食についてる自分の菓子をとってるんたぞ。可哀想だろ、その分だよ」

「じゃあ、そのお菓子は僕にください。どうせハナは半分僕にくれます」

「やだよ。お前にはやらねえ。ハナにやった分をハナがどうしようがいいがお前に直接やるのはムカつくからやだ。俺はハナにやるんだ。ほらハナ、手を出せ」


 ラッシュはそう言うと、かがんでハナノの手に薄いピンクの箱を握らせた。箱はすべすべした手触りで水色のリボンまでかかっていて明らかに高価だと判る。

 ラッシュがこうしてくれるお菓子はいつも高そうでお洒落だ。その言動や様子からだとポン菓子や豆菓子が裸で降ってきそうなのに、くれるのはドラジェやカヌレやアマンディーヌとかいう片仮名のお菓子ばかりできちんと包装されている。お菓子に疎いハナノは名前だけでは何か分からないものが多く、初めて食べるものも多い。


さすが団長だなあ、とハナノは思う。

そして受け取りながら毎回お菓子をくれなくても秘密は守るのにな、とも思う。

ハナノは背伸びをしてフジノに聞こえないようラッシュの耳元で囁いた。


「ラッシュ団長、こんな事してくれなくても秘密は守りますよ?」

囁いた途端にラッシュは顔を赤くして飛び退いた。


「うっわっ、お前、いきなり耳元で囁くな!」

「ええっ! ごめんなさい!」

「あー、もー、ハナ、この人すごく怪しいから早く離れて」

驚くハナノに心底嫌そうなフジノ。

 

「はあ? 俺は団長だぞ? 怪しくないわ!」

「団長でも怪しいものは怪しいです。僕の妹に近づかないで欲しいですね。さ、お菓子ももらったし早くどっか行ってください」

「お前なあ!」


(仲が悪いなあ……)

ハナノは二人のやり取りを見ながらため息をついた。

騎士団本部でラッシュがハナノにかまってくれるようになった当初よりフジノはラッシュを嫌っているようだった。どうやらハナノの預り知らない所で二人は顔見知りになっていたらしい。そして相性は悪い。


ハナノはラッシュと一緒に精霊の森デビューを果たした事をフジノにはこっそり話したかったが、それを話すとフジノの機嫌が悪くなりそうで話せずにいる。

 

高位の精霊に出会っただけでなく古代語で話せた事を言いたいし、ドラゴンアミーに遭遇してその時のラッシュがとても強かった事も熱く語りたい。

のだが、言ったら「あんな人と関わるな」とか言われて、ただでさえ鬱陶しい過保護が加速しそうだ。いや、絶対に加速する。

 

(なんで嫌ってるんだろう。ラッシュ団長はいい人なのになあ)


 そんな事を考えていると「これもどうぞ」と上から声がしてハナノの手にキャンディらしき包装がいくつか追加された。

 見上げると、銀髪のキラキラした騎士。


(うわあ、カノンさんだ)

あっという間に顔が赤くなるハナノ。


キラキラ騎士である第四団副団長のカノンも帝都の精霊の森以降、何かとハナノに構ってくれるようになった一人だ。自分の団の団長が他団の新人に秘密を強要していることへのフォローなのだろう。

カノンはラッシュとはまた違う距離の近さというか、女性慣れしているのか態度が甘く、ハナノはこの銀髪の騎士に近づかれるとどぎまぎしてしまう。


(この人苦手かもしれないな。いつもドキドキしちゃう。うっわっ、今日もめっちゃいい匂いする)

「ありがとうごさいます」

ハナノは俯いて小さくお礼を言った。

 

「あれ?俺、ハナノに嫌われてるかな?」

ハナノの様子に寂しそうなカノン。


「いやいやいや! 嫌ってないですよ! 大丈夫です!」

苦手かもしれないと思った手前、ハナノは申し訳なくて力いっぱい否定した。

「良かった」

カノンが極上の笑顔でにっこりする。

その笑顔にハナノは心臓がバクバクした。笑顔がこんなに破壊力あるなんておかしい。


「カノンさん、妹にそんな危険な笑顔を向けないでください」

いつの間にかラッシュとの言い合いを止めていたフジノが鋭い声で割って入ってきた。

「ああ、ごめん。あんまり可愛いから」

「妹はそういうの免疫ゼロなんです」

「そうなの?じゃあ、慣れてほしいな」

カノンはそう言うと、フジノではなくハナノに至近距離で笑顔を向けてくる。


(わあっ)

「カノンさん、鼻血が出そうです」

「大丈夫。俺は治癒魔法使えるから」

「治癒魔法……って、ああっ!」

この時ハナノの頭の中で、以前トルドとサーバルが話していた“カノン”と目の前のカノンが一致した。顔も実力も爵位もトルドより上で、治癒魔法が使えたから第四団に取られたトルドの後輩。


「トルドさんが言ってた、全然可愛くなかった後輩」

カノンを指さしてハナノは言う。

「俺のことかな?」

「たぶんそうです」

「全然可愛くなかったはひどいなあ」

「治癒魔法が宮廷の専属魔法使い並だと聞きました!」

「えっ、そうなの?」

ハナノの言葉にフジノが食い付いた。

「トルドさんが言うには、骨折なら簡単に治せるって」

「へえ」

フジノが珍しく、やるなあ、という表情でカノンを見る。

「あっ、爵位も上位なんですよね」

「いちおうね。でも父の爵位だしね」

「なあ、ハナ。身分なら俺だって、まあまあのやんごとなき身分だぜ」

そう口を挟んできたのはラッシュだ。

 

「えっ、ラッシュ団長ってやんごとないんですか? どうりでくれるお菓子がお洒落な訳です」

「団長。ご自分でご自分の身分について言及するのはカッコ悪いですよ」

「カノン、上司に向かってカッコ悪いとか言うなよ」

「カノンさん、ラッシュ団長は褒めてあげると、照れて可愛くなりますよ」

「ふふ、知ってるよ」

カノンがちょっと悪く微笑む。

 

(うわあ)

「カノンさん、その笑顔もドキドキします」

「あー、もう、ハナ! 行くよ!」

呆れたフジノに首根っこを掴まれてハナノはラッシュとカノンから遠ざけられる。


「お菓子、ありがとうございますー。後でフジノと食べますねー」

引きずられながらハナノは笑顔で二人にお礼を言った。

 

 

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