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魔王少女はそうとは知らずに騎士になる  作者: ユタニ
第一章

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44.ラッシュ団長と(2)


帝都の精霊の森は帝都の北に広がっている。

ここは帝国にいくつかある精霊の森の中でも大きい方で、この森に住む精霊達の加護のおかげでこの辺りの気候は温暖で暮らしやすい。


 そんな森にラッシュとハナノはやって来ていた。騎士団本部は帝都の北寄りにある城の北側に位置しており、ここまでは馬で半時ほどで着く。


「第二団も何回か任務でここに来てました。わあ、何だか来れただけでもうれしいです。精霊の森って私、初めてなんです」

 ハナノはうきうきしながら言った。森の入り口に馬を繋ぎラッシュと二人で徒歩で森へと入っている。


「まあ、見た目は普通の森だけどな、精霊のお陰で薬草やキノコ、木の実なんかは普通の森より多いぞ。そこそこの魔法使いなら精霊の気配を感じたりするらしい……俺はそういうの感じないからなあ」


「精霊の気配かあ……」

ハナノは目を閉じて、感じようとしてみた。

…………うん。何も感じない。


「私もムリみたいです。魔物も出るんですよね」

「出るよ。普通の森よりずっと多いぜ。でもここは3日に1回はどこかの騎士団が巡回してるし、ほとんどいない。いても下級魔物だな。だからよく新人連れて来るんだよ。森の深部に入らなければまず問題ない。強い奴ほど奥にいるからな」

「強い精霊も深部にいるんですよね。最深部は幻想的な光景が広がっているとも聞きます」

「昔、一人で行ったなあ」

「えっ、一人でですか? 危険では」

「おう、死にかけた。興味本意で行くもんじゃねえな」

「死にかけた……ダメですよ。魔物も精霊も怒りますよ」

「何にもわかってないガキだったんだ」

「お子様時代の話でしたか。それにしてもお子様だったのによく生きて帰って来れましたね」

「運がよかったんだ」

 そんな話をしながらさくさくと歩く。


「…………」

「…………」

 静かだ。さっきから話すのを止めるとさくさくさく、と2人の足音が聞こえるくらい静かだ。時々、遠くで鳥の鳴き声がする。


さくさくさく。


さくさくさく。


さくさく……


「静かだな、いつもはこっちの匂いとかで、ワームがすぐ寄ってくるんだけどな」

 ワームは、白い大きい幼虫型の魔物だ。とにかく好奇心と食欲が旺盛でどこにでもいる。動きも鈍く騎士でなくとも大人であれば倒せる最下級の魔物だ。


「前の巡回で根こそぎ討伐したんですかね」

「前回は、確か第三団だな。新しい魔法とか道具を開発してたらその実験で根絶やしにしてる、ってのはあり得るな」

 その後、しばらく歩いたが、やはり何の気配もしない。手持ちぶさたなので、ハナノはラッシュに薬草や毒を持っている植物について教えてあげた。


「ラッシュ団長、これ、虫除けになりますよ」

「あ、それ、それも虫除けになりますよ」

「お、これは特に虫が嫌がるやつですよ」

「そこ!それ、虫除けに」

「虫除けばっかりじゃねえか」

 エントヒヒ達が再び虫に噛まれないようにと虫除け用の植物にばかり目がいくハナノ。


「はっ、すいません、最近虫除けを探す事が多くてつい………あっ、ラッシュ団長! そのキノコ!」

 ハナノが真っ赤な炎の形をしたキノコを指差す。それはラッシュの足元に生えていた。


「うん? これも虫除けか? すげー赤いなあ」

 ラッシュがかがんで採ろうとしたので、ハナノは慌てて止めた。

「触っちゃダメです! カエンタケです! 猛毒ですよ。触っただけで手がただれますよ!」

「うわっ、早く止めろよ」

 ラッシュがさっと手を引っ込める。

「結構早く止めましたよ。ダメですよ、いろいろ勝手に触りませんよ」

「はーい」

「あっ、ラッシュ団長!」

「なんだ、また虫除けか?」

「これ! 虫除けになる花ですよ!」

 もちろん虫除けだった。


 という感じでマジで森林浴となりつつある平和な精霊の森探索。

「いろいろ詳しいんだなー」

 ワームすら出ないし、とりあえず虫除けの花を摘んで歩きながらラッシュが言った。

「フジノがこういうの興味あるんで一緒に覚えました」

 ハナノはへへへ、と笑った。


「さて、そろそろ引き返すかあ、これ以上奥に入るのは危険だしな」

「そうですね、虫除けも摘めましたしね」

「せっかく連れて来てやったのに、何にも出会えなくて悪かったな」

「いえいえ、仕方ないです。帰り道で出てくるかもしれませんし」

「おう、緊張はしとけよ」

「はーい」

 ハナノが軽く返事をして二人が踵を返した時だった。

 

 そこに一人の女が現れていた。


 女??

 ハナノとラッシュはさっと緊張して、身構える。精霊の森の中に木こりでも猟師でもない女が居るなんて異様だ。おまけに振り返って目に入るまで全く気配がなかった。

 

「!」

 女が人間でないことはすぐに分かった。背丈は大柄なラッシュよりも高く、透き通るような白い肢体に薄布のワンピースのようなものを纏っている。体と同じく白い髪が地面まで垂れていて、その耳はエルフのように尖っていた。そして女は見たことないほど美しい女だった。


 ハナノはどうすればいいのか分からなかった。

(魔物、ではない?)

 女が攻撃してくる気配はない。ハナノは念のため、剣に手をかけるが抜くのは躊躇われた。


「ラッシュ団長。これは」

「……ハナ、何もするな。たぶん、精霊だ」

 ラッシュの声は低く、焦りが見られた。

「精霊……でも、人型なんて」

「ああ、きっとかなり高位の奴だ。何でこんな浅いとこにいるんだ? 絶対に刺激すんなよ。本気で怒ったらこの森なんて消し飛ぶ」

「どうしましょう」

「いやあ、分かんねえよ。わざわざ俺らに姿見せるってことは俺らに用があるのか?」

「すでに怒ってるんでしょうか?」

 二人がじりじりしていると、白い女が口を開いた。

 

『大いなるマナを持つものよ、我が森になんの用か』

 不思議な声色だ。鈴のように響いて聞こえる。それは古代語だった。


「なんだ?」

 ラッシュが戸惑う。ハナノは通訳をしてあげた。

「古代語で、何の用だって聞いてます」

「お前、古代語分かるのか?」

「何となくですが」

「ええ!? すげえな」

 ラッシュは古代語が分からないようであるし、ハナノは片言で返事をした。


『あなたの森、知らなかった。すまない』

 通じるかドキドキだったが、通じたようだ。女は返事をくれた。


『かまわない。この世界の森はそもそもあなたにひれ伏している。だが、マナを一切隠しもせずの突然の来訪は遠慮したい。みなが驚く。ここへは戯れで足を運んだだけなのか』

 精霊の女の言う“あなた”とは、ラッシュ団長のことだろうとハナノは思った。


(戯れっちゃ、戯れで来てるよね)

『そうだ』

『大いなるマナを持つものよ、森の小さな精霊達がそなたはこちらに何用なのかと怯えている』

 さすが団長。皆が怯えているようだ。ハナノは深く納得する。


『すまない。こちら、悪意ない』

『そなたに私の加護を授けよう。森の主たる私の加護があれば精霊達は怯えない。従者にも加護が必要か』

 ハナノはもちろん、“そなた”がラッシュで、“従者”が自分だと理解した。よく分からないが、精霊の加護なんて素敵だ。なんて役得。自分も加護をもらうことにする。

『お願いする。ありがとう』

『かまわない』

 そう答えると女は、ハナノとラッシュにふうっと息を吹き掛けた。何だかひんやりして気持ちいい。

 そして、女はぱあっと光ると消えた。

 辺りはしばらく、女の光の名残で輝いていたがやがて落ち着き、元の森の様子に戻った。


「…………」

「…………」

 ハナノとラッシュはしばらく無言で今あった事を噛み締めてから、顔を見合わせて二人同時に叫んだ。


「「うわーー!」」

「ハナ! 見たか? 見たよな? うわあ、俺、形になってる精霊見たの初めてなんだよ!」

「私もです! すっっごく美しかったですね! 肌なんか真っ白で!髪の毛も透き通ってましたね!」

「あれ絶対すげえ高位の精霊だぜ。精霊って普通もっと小さいんだよ。おまけに白いふわっとした光くらいのもんだ。あんな人より大きいサイズなんて下手したらこの森の主だぜ!」

「あっっ! 我が森って言ってましたよ! 森の主だとも言ってました!」

「マジかよ! 最高権力者だな。あいつが出てきてたから、今日、こんなに静かだったんだ。どうりでワームも出ねえわ」

「なるほど。絶対そうですね! 皆、恐れおののいてたんですよ」

「そらそうだろ。主だもんな!」

「あっ! 私達、主から加護もらってますよ!」

「何だよそれー!」

「あの、ふうってひんやりしたやつ、あれ、加護なんです。加護を授けよう、って言うから、ありがとうって言っときました!」

「すげー、精霊の加護ってよく分かんねえけど、良さそうだなあ」

 ハナノとラッシュはしばらくきゃあきゃあ騒いだ。散々騒いで、ちょっと疲れてきた頃、ラッシュが言った。

 

「はあ、興奮しすぎて疲れた。今度こそ帰ろうぜ」

「ふう、そうしましょう」

二人は今度こそ、もと来た道を戻り出す。


 

「そういえば、ハナは何で古代語分かったんだ?」

 歩きだしてからラッシがハナノに聞いてきた。

「ああ、それもフジノが勉強してたので一緒に覚えました」

「しかも喋れるなんてな。通じてたみたいだし。それもフジノか?」

「はい。小さい頃からよく二人で練習しました」

「マジかよ。フジノって何者だ? セシルが言うには古代語って今や生で聞けないから発音は不明だって言ってたぜ」

「天才なんですよ」

 フジノがやたらと何でも知っているのは幼い頃からなので、ハナノはもはや不思議にすら思わない。そしてラッシュはラッシュでとても単純だった。


「天才ねえ、勘で発音を習得したのか? しかし、ハナの発音であの精霊に通じたってことは、お前らの独自の発音で合ってるんだ。セシルに言おう、喜ぶぞ」

「あの、さっきから出てくるセシルとは、どなたですか?」

「あれ、知らないのか。第三団長やってるやつだよ。魔法マニアで魔道具とか古代語とかも研究してるんだ。今度、会わせてやるよ。古代語について話してやってくれ」

「失礼しました、第三団長でしたか。私なんかが団長と話すのは恐れ多いので、そこはフジノを紹介してあげてください」

 第三団長ならローラの配属先の団長だ。ローラから団長が怖いというような事は聞いてないが、怖い人だったら困るのでハナノはそう言った。


「は? 何言ってんだよ。俺もれっきとした団長ですー、めっちゃしゃべってるだろう」

「ラッシュ団長はとっても話しやすいから別です」

 ハナノがそう言うと、ラッシュは顔を赤くして黙った。


(あれ?)

 ラッシュの意外な反応にハナノは驚く。

「もしかして、照れてますか?」

「やめろよ、俺、そういう部下に慕われる系、苦手なんだよ」

「あはは、かわいいですね」

「うわ、かわいいとか最悪だ。あとさっきの私なんか、ってやめろ」

「え?」

「いいか、たとえ天才と一緒に勉強しても、知識が身につくかどうかは本人の努力次第だ。お前はちゃんと薬草の知識も古代語も、ものにしてんだから大したもんだよ」

 ラッシュの言葉にハナノは少しじーんとした。フジノと一緒に勉強してもいつもフジノの方が、覚えるのも理解も早かった。だからいつもフジノが褒められた。「ハナノさんも頑張りなさい。」と何度言われただろう。

 今日、初めて言葉を交わしたラッシュにそんな風に言われてびっくりだが嬉しい。さすが、団長だな、と思う。

 

「そんな風に褒めていただくと嬉しいです。ラッシュ団長はきっと素敵な団長さんなんですね」

 ラッシュがまた顔を赤くする。

 

「ふふ、かわいいですね」

「だ、か、ら、やめろ」

 そこで二人は森から出た。そして森の出口の開けた草原で上級魔物のドラゴンアミーと遭遇した。


 

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