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魔王少女はそうとは知らずに騎士になる  作者: ユタニ
第一章

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42/112

42.サーシャの報告


第二団がウルフザン討伐より帰還した翌日、アレクセイの部屋をサーシャが訪れていた。


「フジノとハナノの調査結果と、長兄のフリオの面談内容をまとめた報告書です」

2組の報告書がアレクセイに手渡される。

「ありがとう、サーシャ。大変だったね」

アレクセイはにっこりして忠義の水色眼鏡を労った。サーシャはそれにいつもの穏やかな笑顔で応える。


「ウルフザン討伐と比べるとこっちの方が楽だったと思いますよ。あなたのお側に居られないというストレスはありましたけど」

「そう?」

「どんな時でも団長のお役に立つのが私の幸福ですので」

「重たいなあ。サーシャはサーシャで自分の人生を楽しむべきだよ」

「団長の役に立つのが私の楽しみです」

「重たいよー。ハナノへのフジノの愛みたいに重たいよー」

「私の方が誓いがある分重たいですよ」

「うわ、怖いな」

「冗談はこれくらいにして、報告書をどうぞ」

全く冗談っぽくない目つきのサーシャ。


苦笑しながらもアレクセイはさっそく報告書に目を通す。

その冒頭にはハナノとフジノの故郷ではフジノは神童としてちょっとした有名人だった事が書かれていた。


「すごいな、フジノは4才で魔法を使ってたんだね」

「はい。4才から魔法も使えて、魔道具への魔力の補充もできたようです」

「教えられずに?」

「そのようですね」

「へー、センスの塊だなあ」

 アレクセイは報告書を読み進める。サーシャはハナノとフジノが通った神殿の神官にも話を聞いていた。


「ふうん。6才で古代語に興味を持って神殿の古書を見せてもらってるんだね、途方もないな。古代語、読めたりするのかな?」

「高位貴族の子息なんかは読めたりしますもんね。フジノが読めてももう驚かないです」

「あはは、だね。ハナノも読めたりして」

「ふふ、あり得ますね」

 笑い合う可愛い黒髪の団長と水色眼鏡。フジノとハナノは古代語を読めるどころか話せるのだが、この時の二人はまだそれを知らない。


「でも、これだけいろいろな素養があったのになぜ男爵家では、フジノを帝都に送り出さなかったんだろう?魔法学校もそうだけど、これほどの才能なら高位貴族の養子も可能だったと思うなあ」

 デイバン男爵家の両親に少しの野心でもあれば、フジノを通じて帝都の高位貴族との繋がりを結べただろう。

 家の利益のためでなくても、子供のより良い将来を思えばどうにかして帝都に出してもいいような気はする。


「うーん、それは、たぶん男爵夫妻の性格によるものかと」

「性格?」

「はい、直接お会いした訳ではありませんが、領地での評判を聞く限りとても鷹揚というか、のんびりというか、懐の深い方々のようです。長兄のフリオ卿とは実際に会いましたが、とても良い方でした。彼は人の良さと勤勉さだけで会計係になっています」

「人の良さと勤勉さだけ……いつも思うけど、サーシャってわりときついよね」

 サーシャの言葉にアレクセイはぽつりと言った。


「ありがとうございます。でもまあ、そんな家柄だからハナノも騎士になれたんだと思いますよ。デイバン家は三人の兄弟の下にハナノとフジノの双子です。末っ子で待望の女の子のハナノはとにかく大切に育てられたはずで、実際そのようです。そんな子をフジノと一緒とはいえ、騎士団なんて危険な上に男だらけの職場に入るのを許すなんて、かなりのんびりしています」

「確かに、僕だったら手放さないな。あ、そうだ、ハナノは? 何かあったりした?」

「あー、それが、フジノについての逸話や噂は多いんですけど、ハナノに関してはほとんど何もなかったんです。全部読んでもらえれば分かるとは思いますが、フジノもハナノも不審な点や怪しい点はありません。フジノはやたらと何でも出来たのは不審といえば不審ですけどね。念のため出生記録も調べて、産院にも話を聞いてみました。双子なんて珍しいので助産師さんはしっかり二人を覚えていて、間違いなく男爵夫人から二人とも産まれ、五体満足のなんの異常もない赤ん坊だったと」

「ありがとう。サーシャならきっと産まれまで調べてくれるだろうな、と思ってたんだ」

ハナノが混血や異形の者かもという可能性を考えていたアレクセイとしては、その情報はありがたい。


「ハナノは、小さい頃は病弱でよく熱は出していたようですね」

「そっかあ。魔力少ないもんね」

「そしてハナノについてなら、この留守番中での方が話題があります。ハナノが手入れした剣の魔法が補強されてるらしい事は聞かれてますか?」

「聞いてる、びっくりだよね。フジノと同じくセンスあるんだろうな」

 アレクセイはそれを教えてくれた時の、頬を紅潮させたハナノを思い出して顔がほころんだ。第二団の騎士達に喜ばれて誇らしげで可愛らしかったし、今回の留守番でしぼんでいた自信の回復にもなったようで安堵したのだ。

 

「あと、ルクルードさんにかなり気に入られました」

 サーシャの付け足しにアレクセイのほころんだ顔が元に戻る。

「それもよく知ってる。そっちについては、ルクルードさんから嘆願書まで来てるんだ」

 ごそごそと引き出しから“嘆願書”と太くきつく書かれた封筒を出す。机に置かれたその封筒の雰囲気は嘆願書というより果たし状だ。


「うわ、気合い入ってますね……これは、何の嘆願ですか?」

「ハナノを獣舎付きの騎士にくれってさ」

「わお。どうするんです?」

「もちろん、あげないよ。丁重にお断りしたよ」

「ですよねー」

「しかもこれ2通目だからね」

 そう言ってアレクセイは、机の上の封筒と瓜二つの封筒を引き出しからもう一通出してきた。

 

「おっと、目をつけられましたね」

「ルクルードさんはその内、ハナノに竜馬の世話もさせてみるつもりらしい。もし、ハナノが竜馬を懐かせれたら、ルクルードさん以外で初めて竜馬を正攻法で使いこなす騎士になるね」

「それ、上手くいったら怖いなあ」

「うん、そうなったらハナノはルクルードさんにかっ拐われると思う」

「そうですね、強奪されるでしょうね」

「はあ、剣の補強もさ、錬金術部門に話がいかない訳がないからその内そっちからも何か来そうで怖いな。何なんだろうね、このハナノの力は」

 魔法の補強に魔獣の扱い、どちらも威力は小さいが特異なものだ。

 やっぱり、ハナノの全身の結界には何かあると考えた方がいいな、とアレクセイは思った。そして、何かが判明するまではハナノを帝都の街巡回の任務以外には従事させない方がいいだろうとも考える。

 正体も使い方も分からない能力は、魔物相手には危険だ。

 フジノはウルフザンの討伐で、第二団に溶け込みだしているし、自分にもちょっと心を開いてくれている。訓練期間終了を機にきっかけを作ってフジノにハナノの結界について聞いてみるのもいいかもしれない。

(教えてくれるかなあ)

 今のところ、自信はない。


「団長は、ハナノのこういった能力を知ってて、私に調査を命じたのではないんですか?」

「ううん。具体的には知らなかったよ。何かありそうだなー、くらいだった」

「ふむ、ハナノ本人も知らなかったようなんですよね。剣の魔法の補強には本当に驚いてました」

「もし、ハナノの魔力が100でもあれば、凄腕の錬金師になれたかもね」

「そうなんです、そこは残念ですね」

「でも、そうなると、錬金術部門も寄越せってなるね」

「奪い合いになるところでしたね。ルクルードさんと」

「ねー。そういう意味では危なかった。さて、とにかくサーシャはお疲れ様。報告書、しっかり読んでおく。ハナノとフジノとは引き続き仲良くしてあげてね」

「指示はなくてもそれはしますよ。ハナノは良い子です」

「フジノも良い子だよー」

 アレクセイはそう付け加えておいた。





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