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魔王少女はそうとは知らずに騎士になる  作者: ユタニ
第一章

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40/112

40.留守番のハナノ(7)


ラグノアの微笑みを見て、ハナノはふと気付く。

「ラグノアって女性だったんですね」

 気付いたままにそう言うと、ラグノアが目を丸くしてハナノを見る。


(しまった、不躾だったかも)

ハナノは慌てた。


「すみませんっ、別に今まで男性と思っていた訳でもないんですけど、そもそも性別を気にしてなかったといいますか」

「いや、いい。断定されて驚いただけだ。エルフの雌雄は見分けにくい。私は言葉遣いも完全に男性だし、人の友人達はいつも、親しくなってから恐る恐る聞いてくるんだ。よく分かったね」

ラグノアの声は全く怒ってはいなくて、ハナノはほっとする。

 

「なぜ女だと分かったんだ?」

「目が優しいなあ、と思いまして」

 さっき微笑んだ時にその瞳が優しいな、と思い、そこでフジノに聞いていたエルフの男性と女性の見分け方を思い出したのだ。

『エルフは男も女もすらっとして中性的だから見た目ではどっちかあんまり分からないんだよ。でも女の子は目が優しいから目を見れば分かるよ』

 だからラグノアも女性なのだろうと思った。

  

 ハナノの言葉に今度はラグノアは絶句した。瞳が少し潤んだようになる。

「…………」

 ラグノアはしばらく呆然としてから「参ったな」と呟き、額に手をあてた。


「あの、すみません。変な事を言ったみたいですね」

 突然のラグノアの変化にハナノはおろおろしてラグノアを見上げる。ラグノアは数回ゆっくり息をしてから口を開いた。

 

「あー……すまない。古い友人を思い出してしまったんだ」

「古い友人?」

「若い頃に出会った人間の古い友人だ。彼も私にそう言って、その時はひどく苛ついたんだが……」

「ええっ、ごめんなさい」

「いや、今はとても懐かしくて……大切な友人だったんだ。若かったから別れは上手く出来なかったが」

「喧嘩したんですか?」

「死に目に会えなかった」

 淡々と答えられてハナノはどう答えていいか分からず、口をつぐんだ。エルフは何百年と生きる。そのエルフの古い友人は人間であればもちろん亡くなっているだろう。


「死に目どころか、彼の後半の半生はひと目も会わなかった。悩んでいたようなのに時間が解決すると放っておいた。私は若くて、私の時間と人間の時間の違いがまだよく分かってなかった。少し後悔しているんだ」

「大事な人だったんですね」

「ああ、自信家で無鉄砲で独りよがりな奴だったけどね」

「ふふ、自信家で独りよがりな所は私の兄に似ています」

 ハナノは双子の兄のフジノを思い出して微笑む。フジノは無鉄砲ではないが、いろいろ考えている割には衝動的というか、ずさんというか、緻密な戦略家タイプではないから無鉄砲寄りではあるなあ、とも思う。


「それは大変だな。説得に骨が折れるだろう」

「めんどくさいから、説得しませんよ。大体合ってるし、従います」

「それがいいかもな。説得しようとするとイライラしてしまう」

「基本的には優しいですし」

「私の友人もだった」

 ラグノアが目を細める。その目は一際優しくて古い友人を思い出しているのだろう。とても大切な人だったようだ。死に目に会えなかったのはしんどかっただろうなと思う。


「ハナノと居ると、彼を思い出す事が多いな。君のその魔法も」

 ラグノアが細めた目のままでハナノを見る。その目はエルフとは思えないほど色っぽくてハナノはドキドキした。

「魔法? 私の? 私は魔法は使えませんよ」

「ハナノの魔法ではないよ。君にかかっている…………君は、もしかして知らない?」

 かかっている、と言われて全身を見回すハナノにラグノアは言葉を止めた。


「何か、かかっているんですか?」

「いや、知らないなら止めておこう。私が立ち入る事ではないかもしれない」

「ええー、聞いてしまったので、不安になるんですが……」

 自分に魔法がかかってるらしいのに、それを知らないとはちょっと気持ち悪い。


「とても雑だが、悪いものではないよ。気を使ってカモフラージュもしてあるから普通の魔法使い程度には分からないものだし、気にしなくていい。かけたのはひょっとしたら独りよがりな君の兄かもね。お兄さんは魔法がかなり使える?」

「使えます!」

 ハナノの不安は一気に吹き飛んだ。フジノが魔法をかけたなら納得だし、安心だ。あの兄は心配症だからウルフザン討伐に行く前に何かしている可能性は大いにある。かかっている魔法はきっとフジノの魔法だ。


「じゃあ、そうじゃないかな」

「きっとそうです」

「その魔法の気配も友人を思い出させる。機会があれば君の兄にも会ってみたいな」

「本当ですか? 今度連れて来ましょうか?」

 エルフなんてさすがにフジノも喜ぶに違いない。ラグノアなら年上の女性枠にも入るし失礼な態度も取らないだろう。わくわくしながら提案したのだが、これはあっさり辞退されてしまった。


「それは遠慮しよう。会える時は会えるものだから。強引に会わなくても、必要な時に精霊達が会わせてくれるだろう」

「そうですか」

 残念だ。でもそう言われては無理強いは出来ない。やっぱりエルフの時間と人間の時間は違うようだ。ラグノアの言う通り、会える時には会えるのだろう。


「そんな残念そうにしなくても、何となく会える気がするよ」

 ラグノアが言い、ここでルクルードがハナノを呼ぶ声が聞こえてきた。


「あ、そろそろ戻ります」

「ああ、また今度」

 二人は笑顔で手を振り合って別れた。



 

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