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魔王少女はそうとは知らずに騎士になる  作者: ユタニ
第一章

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38.留守番のハナノ(5)


木漏れ日の中、ハナノは隣のエルフと共に佇んでいた。どれくらいそうしていただろう、エルフが去っていく様子がないので、ハナノはそうっとその顔を見上げてみた。

 端正な顔のトパーズのような不思議な色の目と目が合う。目が合うとエルフはハナノにこう言った。

『ありがとう。幼い子よ』


(エルフがしゃべった!)

 ハナノは物凄く驚き、そしてすぐに今聞いたのは古代語だと理解する。フジノ以外の口からは初めて聞いたが、確かに古代語だった。小さい頃からフジノと勉強していた古代語。精霊や上級の魔物、魔獣の一部は古代語を使うから必要だよ、とフジノには聞いている。そういえばフジノは、エルフは帝国語も使えるけど、本来は古代語で話すとも教えてくれていた。

 ハナノへの“幼い子”という呼び掛けは童話の通りだ。何百年と生きるエルフにとっては人間は皆幼い。

 

(ありがとう、って何に?ええっ、何に?全然分からない、とにかく今は何か!何か返さないと!)

 ハナノは話し掛けられた嬉しさとお礼を言われた困惑でパニックなりながらも、必死に古代語で言葉を返した。


『森の戦士、会えて、うれしい』

 それはたどたどしい古代語で、片言だったが伝わったようだ。エルフが目を丸くしている。


「古代語が話せるのか?」

 思わずという様子でエルフは流暢な帝国語で聞いてきた。

「はい、少しですが。勉強しました」

 自分の古代語が通じていたようで嬉しい。ハナノはドキドキしながら答える。

  

「勉強? どうやって? 帝国からは既に古代語は失われていた」

「えーと、古書で」

「古書で? どうやって読んだ? 発音は?」

「独学……でしょうか」

 どうやって、と聞かれると答えようがない。フジノと勉強しながら気がついたら読んでいて、話していたのだから。

 

「一緒に勉強する人もいましたし」

 二人で補い合いながらだから何とかなったのだと思う。

「独学……一緒に勉強? 古代語は帝国では100年前には失われていたはずなんだが、残っていたとは……ふふ、人間は奥が深いな。私もまだまだ幼いという事か」

 エルフが笑い、どこからか青い蝶が現れてその周りを飛んだ。エルフはその蝶をついと一度手にとまらせてから放つ。

 

「君は不思議な幼子だな。つい帝国語で話してしまった」

「あ、古代語の方が良ければ、頑張れば話せますよ」

「そのようだね。でも大丈夫だ。私はどちらも使用に問題はない。知らない人間には古代語しか使ってやらないだけだ」

「質問攻めは鬱陶しいですもんね」

「ふふっ、その通りだ。『エルフですか?』から始まる終わりのない問答。今、君に似たような事をしているけどね。少し彼らの気持ちが分かったよ」

 エルフが笑い、周囲を舞う蝶が二匹に増えた。


「先ほど、私の事を森の精霊ではなく、森の戦士と呼んだのはなぜだ? エルフをそう呼ぶ人は少ない」

「親しい人からあなた達をそう呼ぶように教わりました」

「古代語を一緒に勉強した人?」

「はい」

「その人は私達を良く理解しているね。私達は精霊から生まれたが、マナそのものの精霊と違って、食べ物を食べるし、最低限の狩りもする。森の恵みをもらい、森を守るんだ」

「誇り高き戦士だと教わりました」

「本当に不思議な子だな。騎士服を着ているということは、帝国の騎士団に所属しているのかな?」

「はい。第二団に配属されています」

「第二団、アレクセイの所か」

「団長を御存じなんですか!?」

「これでも城で働いているんだ」

「えっ、働いているんですか?」

 エルフが城で職を得ているなんて変な感じだ。そもそも森を離れるのは苦痛なはずなのに、このエルフには何かあったんだろうか。


「…………」

 なぜ城で働いてるのか知りたい気もしたが、それを聞くのはとても不躾な気がした。

「そんなに暗い理由ではないよ。結局、私はエルフにしては跳ね返りで、人間の事が鬱陶しくも好きみたいだ。こうして精霊達もやって来てくれるし、それなりに楽しくやっている」

 ハナノが黙ったのに気付いて説明しながら、エルフはするりと集まる青い蝶を撫でた。

 

「その子達、精霊なんですね」

 すごいなあ、と思う。童話の通りだ。童話の通りの光景が馴染み過ぎていて、ハナノは精霊の蝶達にはもう驚きもしなかった。

「名もない小さな子達だよ。さて、そろそろ戻らないと。久しぶりに口煩い友人が帰ってきてね、仕事をしろと追ってくるのをまいたんだ」

「それは、サボりでは……」

「そうだね。でもエルフに仕事の概念なんてないしね」

 エルフが悪戯っぽい笑顔でウインクしてくる。堂々とサボりを告白し、茶目っ気まで振り撒く余裕があるくらいには城で楽しく働いているようだ。さっき言っていた理由は本当なんだな、とハナノは安心する。


「そもそも、私に責任ある立場を押し付けるのが間違いだと思うんだが……ところで私と会った事は内緒にしておいて欲しいな。城のエルフなんて私一人だからいつもここでサボっているのがバレてしまう」

「はい! それはもちろん、内緒にします!」

 エルフの職場の人達は困るだろうが、ハナノとしてはせっかく知り合えたエルフによく思われたい。ローブを着ているし、城にあるという魔法塔で働いているのだろうか。エルフが使う魔法は精霊の力であるマナを借りて行うもので、制約がある代わりに魔力や属性は関係ないらしいが、魔法は魔法だ。


「ありがとう。君とはまた会いたいな」

「ほんとですか! 私もです! あの、しばらくはそこの獣舎でお手伝いしてるので、ここにも来ます」

「それは楽しみだ。名前を聞いてもいいかな?」

「ハナノといいます!」

「ハナノ、私はラグノアだ」

 ハナノの名前を繰り返した後、エルフはそう名乗った。

 

 


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