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魔王少女はそうとは知らずに騎士になる  作者: ユタニ
第一章

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37/110

37.留守番のハナノ(4)


 第二団がウルフザン討伐に向かって、ハナノが置いてきぼりになってから10日が経った。

一時はやる事がなくて途方に暮れたハナノだが、サーシャのおかげで午前中の訓練後まず獣舍でルクルードの手伝いをして、そちらが一段落したら武器庫で1日1本、剣の手入れをするという充実した日々を送っている。


 獣舎管理人のルクルードにもハナノはすっかり慣れた。第一印象は怖そうだったし、ぶっきらぼうで、指示に主語がない事もあるので困ったりもしたけれど、それが素なだけで別に怒ってる訳ではないと分かってからは平気になっている。

 エントヒヒ達もすっかりハナノに懐いて、何ならハナノの髪の毛を毛繕いしてくれようとしたりもする。毛繕いは遠慮したいので必死に断る毎日だ。


 今日もせっせと獣舎の掃除をする中、ハナノは床に落ちているヒヒ達の抜け毛が多いのに気付いた。

「ルクルードさーん、何か落ちてる毛の量が多いんですけど、生え変わりの時期なんですか?」

 おやつの調製をしていたルクルードが手を止めて、ハナノの側へとやって来る。


「……虫だろうな。ノミかダニか。痒みでかくから抜けんだ」

 ルクルードは抜け毛を見て言った。

「あー、そう言われると、みんな掻いてますね。あ、なんか私も痒い気がしてきた」 

「本部で虫取りの薬もらってこねえとな。行ってくる」

「あ、じゃあ私は裏の雑木林で虫除けの草をさがしてみますね」

「裏の林にそんなもんがあるのか?」

「雑草の匂いのキツいのを焚けばいいんですよ」

「ほう、助かるな、やっといてくれ」

「はい!」

 助かると言われて嬉しい。ハナノは満面の笑顔で返事をする。ルクルードも珍しくにっこりすると滅多に着ない騎士服の上衣を羽織って本部へと出掛けていった。


 ルクルードを見送ってからハナノは雑木林へと入る。ヒヒ達の散歩について2回ほどやって来たことがあるので初めてではない。

 ヒヒ達のつけた獣道を進む。木々はまばらで辺りは明るいし、足元もうっそうと繁っていないので歩きやすい。ハナノは上機嫌でさくさくと木立の中を散策した。小さい頃から家の裏山でフジノと一緒に色んなものを探したので、こういうのには慣れている。燻すと匂いのきつい植物をいくつか見つけて、特に虫の嫌いそうなものを選んで摘んでいく。途中、ワイルドベリーもあったので青い実を一房もいだ。フジノとよく食べた実だ。そのまま食べても甘酸っぱいし、家にたくさん持って帰ると母がジャムにしてくれた。

 ジャムは無理でも甘煮くらいなら作れるかな、獣舎にある簡易キッチンで作ってもいいだろうか、なんて考えていた時だった。唐突に隣に人影を感じて、ハナノはびっくりして横を見た。


「!」

 そして隣に立つ人物を見て息を呑む。

 いきなりハナノの隣に現れたのは、比較的長身の人物だった。厚手のローブを羽織っているので体は見えないが、フードは外していたのでその顔はしっかりと見えた。

 細く長い絹糸のようなプラチナブロンドがさらりと靡く。白磁のような肌、すっと通った鼻筋、切れ長の瞳は灰色と水色と緑色が混じったような不思議な色だ。それらがあるべき場所に整然とならんだその顔は美しい。そして、何よりハナノの目を引いたのはその人の耳だった。美しい顔の両側の耳は、細長く伸び先端が尖っていた。


(エルフだ……)

 ハナノの隣にはエルフが1人現れていたのだ。


(エルフだー!)

 隣に突然現れたエルフを見上げながらハナノは心の中で叫ぶ。

 特徴的な尖った耳に、まるで森そのもののような気配。ハナノはエルフを見るのも会うのも初めてだったが、すぐにこの美しい人型の生き物が森の精霊と呼ばれるエルフだと分かった。


(うわあ、本物だ、本物のエルフだ。えっ、何でここに? ローブ姿って事は魔法使いとかなのかな? 騎士団とはいえ城の敷地内だし関係者なんだよね? え? でも、エルフだよ? 森の精霊、森の戦士だよ? 森から滅多に出ないんじゃなかったの?)

 軽いパニックになりながらも、ハナノは何とか沈黙を守った。

  

(どうする? どうする!? とにかく落ち着かないと! 静かに、静かにしてないと!)

 童話や神話に出てくるエルフは、小さい子供なら誰もが一度は会いたいと思う森の精霊の種族だが、会える事はほとんどない。彼らは帝国南端の精霊の森の最深部に住んでいて、人間の世界に出てくる事は滅多にないのだ。

 

 幼いハナノも、もちろんエルフに会いたいと思った。そしてもちろんすぐにフジノに聞いた。フジノは何でも知っているからだ。

「ねえ、フジ、どうすればエルフに会えるかなあ?」

「いやいや、会えないよ。森の奥の奥にいるんだよ。あぶないから行けないよ」

「でも、買い物に来るかもよ?」

「来ないよ。買い物なんかしないもん」

「そうなの? お祭りには? 来る?」

「来ないよ。お祭りなんて嫌いだよ。それに、もし森から出て来てたとしても、勝手に近付いたら嫌がるよ」

「そうなの?」

「騒がしいのも、馴れ馴れしいのも嫌うよ。話しかけちゃダメだ」

「じゃあ、もし会えたらどうしたらいいの?」

「じっとして、お互いを知るんだよ」

 フジノの答えに子供の頃のハナノはぽかんとするしかなかった。じっとしてたら互いに知り合うのは無理だと思ったからだ。意味が分からなかったハナノはそれからも、ことあるごとにフジノにエルフと仲良くなる方法を聞いた。

 

 そんな風にして、ずっと会いたかったエルフがなぜか今隣に居る。今こそ、フジノから教わったエルフの知識を総動員して集大成で挑む時だ。

ハナノは、心臓をバクバクさせながら奮い起った。


 エルフは急な接近は嫌がるはずだから、まずは自然にただ隣に居よう、ハナノはそう決めた。

 興奮で鼻息を荒くしないように気をつけて、森で出会った子鹿の横に立つように気配を殺してそっとエルフの隣に立つ。


 顔はゆっくり正面に戻した。私は貴方を何とも思ってないですよ、何もしないですよ。ただ、偶然、隣にいるだけですよ。と心の中で繰り返す。ハナノはとにかくそっと立つことだけに集中した。




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