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魔王少女はそうとは知らずに騎士になる  作者: ユタニ
第一章

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33.ウルフザン討伐(7)


祝宴の終盤、フジノは暗がりから戻ってきたアレクセイに気が付いた。

「何かありましたか?」

「何にもないよ。見張りの騎士達にお肉を差し入れしてきた」

 何から何まで出来た団長である。

 

「ふーん。暇なら今いいですか?」

「えっ、珍しいね。いいよ」

 アレクセイはフジノの隣にすとんと腰を下ろした。

「聞きたいことがあるんです」

「どうぞ」

「アレクセイ団長は、帝国騎士団で一番、強いですか」

「どうして?」

「任命式で前に並んでた団長達で、貴方以上の魔力を持った人はいなかったからです」

「それを言うならフジノもでしょ。魔力量なら僕と張るよね」

「僕の魔法はまだまだ粗いし、剣も筋力も未熟です。魔法だけではやってけないし、今のままじゃ、ただ魔力が多いだけです」

 特に今回はフジノはそれを痛感していた。魔法だけではどうにもならない事はこの先もあるだろう。その上、自分の魔法はアレクセイに比べると、とても未熟だ。フジノはアレクセイの青い炎を思い出す。


「それなら、それは僕にも言えるよ。団長達に限って言うなら、防御魔法を使える人がほとんどだから魔法一本では勝てない。魔法を無効にする魔道具だって存在はする。それに世の中には魔力がほとんどないくせにアホみたいに強い人もいるよ。まあ、確かにこの大量の魔力は大きなアドバンテージではあるけど。誰が一番かは状況と経緯によると思う」


「そうですか。それでも僕はまずは貴方を目指したいと思っています」

「えっ、そうなの?」

 アレクセイの目がびっくりしたように見開かれる。

 

「そうです。いいですか?」

「いいよ、いいけど、わあ、こういうのって照れるね。」

 はにかむアレクセイ。

「照れるんですか? 散々言われてきてるでしょう?」

「えー、初めて言われたよ。自分で言うのも何だけど、ほら、規格外過ぎて目標には不向きなんだよね」

「自分で言うんですね」

「魔力2000越えは規格外だよー、凄い人で500とかだからね。憧れたり、目標にするのに丁度いいのってそれくらいだよね。でも、そっか、フジノなら僕に憧れるのかあ」

「憧れてはいませんね」

「そこは憧れておこうよ」

「それで目指すと決めたんですけど、僕はまず何をすればいいですか?」

「あ、なんか今、嬉しかったのが無くなった。何すればいいかはフジノが考えなよ」


「若輩者を導くのは年長者の勤めですよね。剣や筋力は訓練で地道にがんばるしかないと思ってます。僕の身長はまだまだ伸びると思うし、そうすればより強くなれます。でも、魔法はどうしたらいいかなって」

「身長のくだりはいらなくない? 嫌みだよね」

 アレクセイの顔から完全に、はにかみが消える。意外にも、騎士団内では背が低い事を人並みに気にしているようだ。


「身長のくだりは嫌みでした。気にしてたんですね、すみません」

「気をつけてよね」

「それで、アレクセイ団長みたいに魔法を使えるようになりたいんです。何をしたらいいですか?教えて下さい」

 アレクセイは、「憧れてるでよくない?嫌みいらなくない?」とぶつぶついいながらもアドバイスを返してくれた。


「フジノの魔法はいちいち大きいと思う。まずは魔法を細かく使えるようにした方がいいね、細部を極めると全体のレベルも上がるよ。見てて」

 そう言うと、アレクセイは指の先に小さな炎を灯した。


「これはただ炎を小さくしたやつね。これを大きさはこのままで、威力を大きくしてく」

 アレクセイの指先の炎が揺れる。ゆらゆらしながら色が青くなり、オレンジになり、オレンジからは揺れなくなって、眩しい光の塊になった。


(凄いな)

 とてつもない量の火力があり得ない小ささに凝縮されているのが分かる。

 

「触っちゃだめだよ」

 アレクセイは囁き声でそう言うと、その光の塊を上空へと放った。


ドオォンッ

 夜空にすごい音が鳴り響き、大きな無数の火花が飛び散る。


「「「わあっ」」」

 第二団の騎士達から歓声があがった。上空でパラパラと小さな爆発音がこだまする中、指笛が鳴らされる。

「団長ー、花火するならするって前もって言ってくださいよー。心構えして見たいです」

「そうですよ、言ってください」

「じゃあ、もう一回するよー」

 アレクセイはリクエストに答えて、もう一発花火を打ち上げた。再び夜空に眩しい光の束が弾けて拍手と指笛が鳴る。

 

「これくらいを目指そうか」

 にっこりするアレクセイ。

 

「まずは指先サイズの小さい炎を灯せるようになって、それが出来たら僕がフジノの魔法を見てあげる」

「指先サイズ……簡単に言いますね」

 フジノの最小の炎は二メートル四方なのだ。本当、簡単に言ってくれる。


「第三団のローラは同期だよね、前に重力の魔法を見せてもらったけど、あの子はこういう細かいのすごく上手だよ。コツを聞いてみてもいいと思うな」

「……聞いてみます。ありがとうございます」

 素直なフジノにアレクセイは目を細めた。


「今回の任務で、フジノは一気に変わったね」

「そうですか?」

 変わった自覚はあるが、認めたくはないのでフジノはすっとぼけた。

「うん。僕達の事を好きになってくれた気がする」

「そんな恥ずかしいこと、よく言えますね」

 フジノの頬に熱が集まる。焚き火にあたっているから顔の表面は元々火照っていたのだが、内面からもじんわりと熱くなるのが分かってフジノは眉を寄せた。

 

「ねー」

 アレクセイは気にせずニコニコしていた。



 

***


「あ、いたいた、団長。ちゃんと飲んでますか?」

 花火の少し後、酒を片手にアレクセイを探していたファシオは隅の焚き火の前にアレクセイを見つけた。

 

「ファシオ、僕は遠征中は飲まないよ」

「知ってますよ、ただの挨拶です。あれ? それフジノですか? 寝てます?」

 ファシオはアレクセイの隣で地べたにマントにくるまったフジノを見つける。

 

「うん、さっき寝ちゃった」

 フジノは身を小さく折り畳んで寝ていた。寝顔はまだあどけない15才の子供の顔だ。普段は表情が硬いので大人びて見えるが、こうしているとその顔は年相応か幼くも見える。

 

 子供だな、とあらためてファシオは思った。

(こんな子供が、羽織猿の時はよく頑張ったよなあ)

 

 ファシオは羽織猿に体の自由を奪われた時、意識は最初からあった。初めは目前の様子を白昼夢だと思った。何かの幻覚を見せられているに違いないと。しかし、他の三人の背中の様子を見て、これは現実なのだと悟る。悟ると同時にファシオは死を覚悟した。フジノは迷わずに自分達を猿ごと焼くと思ったからだ。そして、それは当然の事だった。被害がたった四人で済む。ファシオ達を放置すれば、まずフジノがやられるし、別行動中の他の騎士達にも被害が及ぶ。すぐに自分達を焼くべきだ。

 でも、フジノはそうしなかった。ファシオがそうしろと言った時には、泣いて拒否までした。それは駄々をこねる子供の泣き方で、剣の振りも無茶苦茶になって、このままではやばいな、と思っていたら、気持ちを立て直して背中を斬られる覚悟でまずは一匹の猿を斬りにきた。

 今、思えば15才の新人騎士に、自分達を殺せ、なんて非情な指示だったと思う。普段のフジノの態度から完全に大人扱いしていたのだ。おまけにフジノは簡単に自分達を見限るとも思っていた。

 実際は全然違った。フジノの中には、ファシオ達を猿ごと焼く選択肢はずっとなかった。


(勝手に非情な奴なのかと思ってたけど、大人とどう接していいか分からないガキだったのかねえ)

 あどけない寝顔にファシオは思う。


(俺、大人げなかったなあ)

 ファシオが今までの態度を少し後悔しながらフジノを見てると、フジノの目から涙がじんわりと滲んだ。


「あれ、団長、フジノがまた泣いてますよ。寝ながら」

「えっ? わっ、ほんとだ」

 ファシオの言葉にアレクセイと周りに居た他の騎士達もそうっとフジノを覗きこむ。フジノの涙はつーっと頬を伝った。


「起こしてやります?」

「でも、うなされてる訳じゃないしね」

「何か感動してるんですかね?」

 そんな事をヒソヒソ言い合っていると、フジノの眉がきゅっと寄って、ぽつりと寝言をつぶやいた。


「……ハナ」


「「「!…………」」」

 覗きこんでいた者達は無言でびっくりした後、頬を緩める。

「えっ、マジか。寂しいのか?」

「いやー、可愛いね」

「そういえばハナノが出発の時、1日以上離れたことがないんです、って言ってたなあ」

「もしかして、精神的な部分では、ハナノがお姉ちゃんなのかな」

 騎士達のニヤニヤが止まらない。


 翌朝、フジノはいじり倒されることになる。





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