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魔王少女はそうとは知らずに騎士になる  作者: ユタニ
第一章

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32/110

32.ウルフザン討伐(6)


羽織猿の支配から解放されたファシオ達はほどなく、ぎこちなくはあったが半身を起こせるようになった。全身に痺れのようなものがあるらしいが「一晩寝れば平気です」らしい。顔や手にあった火傷はアレクセイが治癒魔法で治した。


「治癒魔法も使えるんですね」

 平然と治癒を使うアレクセイにフジノはもはや呆れた。

(この人、馬鹿みたいに何でも出来るな)

脳裏に前世の仲間で師匠でもあった大賢者ユリアンの顔がちらつく。


「表面的な傷を治せるだけだけどね。大怪我だと気休め程度にしかならないから、これを使えると言っていいかは疑問だよね」

「いや、そもそも、少しでも使えるっていうのが稀有でしょう。普通、攻撃系使えたら治癒は使えませんよ。何で使えてるんですか」

 

 魔法使いが使える魔法の属性は生まれもっての性質によって決まる。基本的には使える属性は一つで、適正や訓練次第で二属性なら使える者もいるが、その場合は相性のいい属性同士になる。フジノのように炎と風は一般的だし、水と土や、水と木、なんかもよく聞く。炎と水のように相反する属性同士は聞いた事がない。そして治癒は一般的な属性とは根本的に成り立ちが違うようで、治癒魔法が使える者は攻撃に利用出来るような属性の魔法は使えない。治癒魔法使いが使えるのは治癒と、それから派生した精神系の魔法だけなのだ。


「何でだろうね。これのせいで僕、魔法塔の研究対象なんだよ。塔では魔力が多すぎるからだろうっていう事になってる。もしかしたらフジノも使えるんじゃない?」

「使えませんよ」

「機会があれば、治癒を学んでみなよ。さて、僕は森のウルフザン討伐に戻るね。ファシオ達は残りの班員と合流して今日はもう休んでて、無理はしないように。フジノ、ファシオ達はしばらく動けないだろうし、辺りを警戒してあげて、優しくしてあげてね」

 それじゃあ、と笑顔のアレクセイは森へと駆けていく。


「えっ、ちょっ」

 残されたフジノは、地面に座り込むファシオ達を見回す。痺れながらもニヨニヨしている四人の騎士。


「泣いてたなあ」

 ファシオが嬉しそうだ。

「煩いですよ。痺れてるくせに、蹴りますよ」

「おいおい、団長は、優しくしろって言ってたぜ。そして、泣いてたなあ」

 その後フジノは、泣いてた事をいじり倒される事になった。




***

 

 討伐の二日目からは、フジノもファシオ達と森でのウルフザンの掃討にあたった。複数人でウルフザンをおびきだして、囲んで首を落とすという地道な作業だ。

 森での討伐は、前世ルドルフの勘があるとはいえ、背丈や腕の長さ、筋力がそこまで及んでいないので、思い通りに動けない事も多かった。

 

(まだまだ、精進しないとな)

 ルドルフ時代のイメージで体を動かそうとするのを止めなくてはいけないな、とフジノは思う。それには今世での場数を踏むしかないだろう。

 フジノは討伐の合間、ファシオに帰還後に剣の稽古をしてほしいとお願いした。自分を知るためには体格の不利な相手との手合わせの方がいいと思ったのだ。ファシオは驚いた後に「いいぜ」と快諾してくれた。


 第二団はその後、約一週間かけて森に逃げ込んだウルフザンの討伐にあたった。一週間後、比較的浅い部分での殲滅は終わり、後は深部に逃げ込んだウルフザンを残すだけとなる。この人数で森へ深入りするのは上級の魔物を刺激する可能性があり危険だ、討伐はここで一旦終了となった。


 深部へ逃げ込んだウルフザンはしばらくは村に出没するだろうから監視は必要で、それは近隣の村を包囲していた第十三団が担ってくれるらしい。


 二日後、第十三団が明日にもこちらに到着するという報せが入り、アレクセイから任務の完了が告げられる。明日、十三団に簡単な引き継ぎをした後、帰還する事も伝えられた。


「お疲れ様、明日、帰れるよ」

アレクセイの言葉に喜ぶ騎士達。

「やったー、終わったー」

「団長、今日は宴会しましょう、宴会」

「携帯食、全部食べちゃいましょう」

「全員はダメー、各班二人は見張りをたてて」

「よし、じゃんけんだ、じゃんけん!」

「あ、僕、見張りでいいですよ」

 宴会参加をかけて色めき立つ先輩達に、フジノは手をあげたのだが、それはファシオによって即効で却下された。

「ああん? フジノ、お前は主役だ。ぜってー宴会参加だ」

「え、嫌ですよ」

「駄目だ、班長命令だ、宴会な」

「ええぇ」

 そうして、フジノはその晩、野営地での祝宴に参加する事となる。



日が沈むと、宴会参加を勝ち取った団員達は、いくつかの焚き火の周りに思い思いに集まり、持参した食糧を惜しげもなく開けて並べた。明日からは帰途につくだけで、食べる間を惜しんでの行程ではない。食事は携帯食ではなく町の食堂でゆっくり食べられるはずなので、もう携帯食の出し惜しみはしなくていいのだ。

ウルフザン討伐のついでに仕留めた獲物の肉も焼かれ、辺りには香ばしい匂いが立ち込める。野営地には任務完了の達成感からの、おめでたい雰囲気が漂っていた。

 第十三団からは引き継ぎに先駆けて、慰労を込めて酒類が届いており、見張りの騎士以外には酒も振る舞われる。フジノは未成年なので飲まない。帝国では十六才からが成人だ。


「おおっ、フジノじゃん、飲むか?」

 宴会の中盤、焚き火で枝に刺したマシュマロを焼いていたフジノの元へ千鳥足のサーバルがやって来た。

 完全にできあがっているサーバル。

フジノは嫌がる事なく端に寄ってサーバルの座る場所を空けてあげた。


フジノが年上の女性に敬意を表すのは、前世で散々「年上の女性を敬え」と言われた記憶のせいだ。

ルドルフの青年期に身近にいた年上の女性達はことあるごとにルドルフに「ちゃんと敬え」と怒っていた。ルドルフが彼女達をあんまり敬ってはいなかったからだが、幼い頃から夢でその小言を聞き続けたフジノは自然と年上の女性には丁寧になるようになっている。


「へへへ、悪いな」

サーバルが上機嫌でフジノの隣に座る。

 どっかりと腰を下ろしたサーバルの横にはもう一人騎士がいた。いつもサーバルの隣にくっついていて、前にハナノがジェラートを買ってもらったと言っていた騎士だ。

 

(えーと、名前、何だったかな?)

 ハナノから聞いたはずだが思い出せない。


「サーバルさん、飲み過ぎですよ」

 名前の分からない騎士が窘めるが、サーバルはフジノにぐいぐいと杯を押し付けてきた。

「まだまだ飲めるよぉ!さ、フジノも飲め」

「僕はまだ未成年なんで、飲まないです。」

 フジノは杯を押し返しながら答える。

「固いこと言うなよお、十五なんてほぼ成人だろ?」

「やめておきます」

「なんだよお」

 サーバルの目が据わっている。


(酔うと絡む性質なんだな……)

 困っていると、名前の分からない騎士が横からサーバルの酒を取った。


「サーバルさん、フジノに絡みませんよ。俺がもらいます、その酒」

「トルド、勝手にとるなよお」

 サーバルが呼んでくれて、フジノはこの騎士の名前が分かった。

「ありがとうございます、トルドさん」

 覚えたての名前を呼んでフジノが礼を言うと、トルドはびっくりしてフジノを見た。

 

「へええ、態度が変わったって聞いたけど、本当だな」

「何ですか、それ」

「いやいや、気にすんなよ」

 トルドがからっと笑う。


「ところでフジノぉ、聞いたぞ、討伐初日に泣いてたらしいな」

 サーバルがニヤニヤしながら再び絡んできた。

「泣いてないです」

「いーや、ファシオの班の奴らが全員言ってるぞ」

 くそう、とフジノは思った。


 ファシオが“主役”だと言ったように、今夜の祝宴での話題の中心はフジノだった。アレクセイ並みの炎の魔法の事もそうだったが、あの生意気でふてぶてしく、しかも実力まであった新人が、泣きながらファシオ達を殺したくないと剣を振るっていた話は大いにウケて、ファシオが散々言いふらしたせいで、今や第二団全員が知っている。

 

 この宴会ではフジノの横に誰かが座る度に、まず炎の魔法を褒め、二言目には「泣いてたらしいな」とからかっていく。通りすがるだけの騎士達も皆、「フジノー、泣いてたらしいな」と声をかけていく。しかも全員、やたらと嬉しそうだ。嬉しそうなのは意地悪な気持ちからではなく、フジノが団に馴染む一歩を踏み出した事を喜んでのようだ。それはフジノにも分かって、宴会が始まってからずっと体がむずむずしている。

 おまけにフジノはこの状況が嫌ではなかった。

 もうどんな顔をしていたらいいのか分からなくて、ずっとむすっとしているが、居心地はそんなに悪くない。


「私はお前がいい奴って知ってたからなあ、皆に伝わって嬉しいよ」

 サーバルが得意そうだ。フジノはまたむずむずする。


「食べますか?」

 フジノは焼き上がったマシュマロを1つサーバルに差し出す。サーバルはそれを嬉しそうに食べた。



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