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魔王少女はそうとは知らずに騎士になる  作者: ユタニ
第一章

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31.ウルフザン討伐(5)


『殺してくれ』

 そのセリフはフジノにとって鬼門だった。頭の中には何度も夢に見た黒髪の少女が現れる。そしてそれはすぐにハナノの姿へと変わる。

 ざわっと髪の毛が逆立つような感覚になった。


「イヤだっ!」

 フジノは叫んだ。


「イヤだ!  絶対にイヤだ!」

 三人の騎士達が再び動き出して、攻撃が繰り出される。それに対してフジノは今や泣きながら剣を振っていた。

 前世のルドルフの時には何度も死線をくぐり抜けたし、血生臭い場面も悲惨な場面も経験したが、それはあくまでルドルフの人生でフジノの生身の体験ではない。今世のフジノはまだ15才の少年で、これまでは妹への悲壮な覚悟はあったが、田舎で穏やかに過ごしてきたのだ。だから仲間を殺すなんて出来る訳がなかった。


「いやだ!」

 泣きながら剣を振るフジノに、三人の騎士達の動きはますます鈍くなる。班長の騎士は立ちすくんだままだ。他の三人に取りついている羽織猿の小さな翅も、ぶぶぶ、と小刻みに揺れだした。


 フジノは立ち止まったままの班長の騎士の後ろに回り込んで、猿だけを斬ろうとした。しかし、動きが鈍くなっているとはいえ、精鋭の騎士達は連携して回り込ませてくれない。


(どうする? 竜巻で飛ばしてみるか?)

 涙を流しながらも少し冷静になってきた頭で考える。鎌鼬で猿だけ狙うのは難しいが竜巻で全員巻き込む事は出来るだろう。


(だめだな、猿は離れるかもしれないけど、きっと四人は受け身を取れない。首から落ちたら死んでしまう)

(とりあえず斬られる覚悟で、一匹だけでも斬るか?)

 致命傷にならない程度であれば、そして班長の騎士がこのまま持てば、それで一対二になるから状況は良くなる。このままじり貧で戦うよりはマシだろう。

 それしかないな、とフジノは決めると背中をやられる覚悟で三人に向かった。


 狙いを決めて回り込むと、三人が連携して斬り込んできた。フジノはそれらを防がずに、一匹に集中した。騎士服の背中に刃が触れるのを感じる。フジノが身をひねって致命傷を避けながら、目の前の猿の首を斬ろうとした時だった。


ボウッ


 フジノが斬ろうとした猿の頭が、突然小さな青い炎に包まれて燃え上がった。


「えっ?」

 フジノはびっくりして、剣を止め、横に飛び退いた。すぐに背中を確認するが、騎士服が裂けているだけで、切れてはいないようだ。

 見回すと、フジノに剣を振るっていた二人の騎士と班長の背中の猿も同じ青い炎で頭が燃えている。羽織猿達は頭を失い、息絶えた。

 巻き込むような風が吹き青い炎が消えて、猿達の胴体が騎士達の背中から落ちる。四人の騎士達はぷつんと糸が切れたように脱力して地面に倒れ込んだ。


 ここでフジノはすぐ隣に見慣れた黒いボブカットがあるのに気付く。

 

「ふう、間に合ったね」

 柔らかな少し高めの落ち着いた声。

 フジノの隣には艶やかな黒髪をなびかせて、アレクセイが立っていた。


「……アレクセイ団長」

 フジノはへなへなと力が抜けた。体が崩れ落ちそうになる。


「わっ、大丈夫?」

 アレクセイは横からフジノを支えて、頬の涙の跡を見つけた。

「えっ、フジノ、泣いてたの?」

「泣いてないです」

 フジノは何とか力を入れ直して立つと、ごしごしと腕で顔をこする。


「涙の跡に見えるけど?」

「汗です」

 フジノは自分の顔が熱くなるのが分かった。

 最悪だ、泣いてしまった。


「団長、フジノは泣いてましたよー」

 羽織猿に取りつかれている状態でもしゃべっていた班長が、地面に横たわりながら余計な一言を入れてきた。


「ファシオ! もう喋れるの? 大丈夫か?」

 アレクセイがそんな班長に声をかける。

 アレクセイがその名前を呼んで初めて、フジノはその騎士がハナノの入団試験の審査をしたらしいファシオである事に気付いた。

 きっと今までもハナノや他の団員達によってファシオの名前は呼ばれていたのだが、フジノの頭には入ってきていなかった。興味がなかったし覚える気がなかったからだ。でも今は違った。

 

「大丈夫そうです。首の刺し傷と、所々の火傷がヒリヒリしますが、体は脱力してるだけで直に起きれそうです」

 ファシオは倒れたまま、ひらひらと手を振ってみせる。


「じ、自分もですぅ」

 ファシオ以外の三人の内の一人も弱々しく声を出し、他の二人は僅かに手を上げる。


「ほら、フジノ、みんな無事だよ。だからもう泣かないで」

 アレクセイがにっこりしながらフジノの頭を撫でてきた。

「止めてください、泣いてないですから」

 フジノは真っ赤になって、アレクセイの手を振り払った。


「よしよし、1人でよく頑張ったね。大変だっただろう、本当に不甲斐ない先輩達だね」

 振り払われてもめげずにフジノを撫でるアレクセイ。アレクセイの言葉にフジノは黙り込み、俯いてますます真っ赤になってから、ぼそりと言った。


「…………僕一人でじゃありません。ファシオさん達が、取りつかれてるのに何とか手加減しようしてくれたお陰です」

 

「「「…………」」」

 フジノの言葉にアレクセイと四人の騎士は目を丸くした。


「えー!なになに、何があったの?一気にかわいくなったじゃん」

 アレクセイが嬉しそうにフジノの頭を両手でわしわしする。

「ファシオ、聞こえた? 聞いた?」

「ははは、聞こえました。俺もびっくりです」

 ファシオを振り返ったアレクセイに笑い声が返ってくる。


 フジノは俯いたまま、アレクセイに撫でられ続けた。


 

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