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魔王少女はそうとは知らずに騎士になる  作者: ユタニ
第一章

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29.ウルフザン討伐(3)


ウルフザンの大量発生を受けて騎士団本部を出発してから三日目の晩、第二団の班長達はアレクセイのテントに集まっていた。

最低限の休憩と仮眠しか取ってないが、ここに居るのは選ばれた帝国騎士団の第二団で班長を務める者達だ。明らかな疲れは見られない。

 移動だけであったし三日の強行軍くらいでへばる奴はいないのだ。そんな班長の一人、ファシオも馬車に座りすぎて体がなまっているな、くらいのものでアレクセイのテントへやって来た。

 いよいよ明日、目的地に着くので最終の作戦会議が始まるのだ。


「明日、明け方には出発して昼前には目的の村に到着する。到着する村は今回のウルフザンの最初の発生地の森に最も近い村だ。村が壊滅したのはここと近隣の二つの村で、近隣の二つの村はすでに近くの騎士団が包囲していて、明日、うちが到着する村に今回発生したウルフザンを追い込んでいるんだ」

 アレクセイが地図を広げて説明した。


「僕達は村の東、この開けた場所のある方から近付こうと思う。僕らの気配でウルフザンが寄って来るだろうからできるだけ引き付けて、出来ればここで半数を炎で一掃したい。その後は森に逃げ込んだ奴をしらみ潰しに倒していく。根絶やしにしておかないとまた増えるからね。出来るだけ多くを最初に焼くつもりだけど、今回の討伐のほとんどは森での混戦になると思うから、そのつもりでいてね」


「「「はい」」」

 各班長が返事をする。

 返事をしながらファシオはアレクセイの炎の魔法で最初の一掃をするのだと思った。他の班長も同じように思っているに違いない。

 第二団の騎士達が何度も見てきた光景。驚愕の範囲の広さと強さの炎の魔法だ。あれだけの規模の魔法を使って涼しい顔をしている人をファシオは見た事がない。それ以前にあれだけの規模の炎の魔法もアレクセイ以外で見た事がないのだ。


 今回のウルフザン討伐の一番の要の役目が第二団に回ってきたのは、そしてウルフザンの本陣を叩くにの向かっているのが第二団ただ一団だけなのは、アレクセイの魔法があるからなのだと誰もが知っている。とてもじゃないが、剣と通常レベルの魔法では、これほどの数のウルフザンを仕留めるのは不可能だ。まず大規模な魔法で一気に叩くしかない。

 久しぶりに、あの火の海のような光景が見られるんだな、とファシオは思う。


 その後、明日以降の班の編成の確認や隊列の順が決められた。班の編成を見て、ファシオは顔をしかめる。そうなるだろうな、とは思っていたが、この三日間手を焼いている新人が引き続きファシオの班だったからだ。


「明日の前に一ついいですか?」

 会議の終盤にファシオは口を開いた。


「ファシオ、どうぞ」

 アレクセイが笑顔で先を促す。

「団長、俺はフジノは問題ありだと思います」

 ファシオは自分の班の新人の名前をあげた。


「そう?」

「はい。この三日間、団体行動ができてない訳ではないですが、フジノは独りよがりというか、何というか……あいつ、きっと俺の名前も知らないですよ。俺だけじゃないですけどね。班にも団にも溶け込む気は全く感じられません。俺達を信用してないんでしょうが、信用してないってことは、いつでも俺らを犠牲にするってことです。そういう奴と明日、命を懸けて共に戦うのは無理です」


「そんなにひどいか? 私の名前は呼んでくれるぞ。悪い奴ではないと思うが」

 口を挟んできたのは、ツンツン赤毛の女騎士サーバルだ。


「悪い奴ではないんだろうがな。独りでいいんだろうよ、独りでいいなら騎士団にいなくてもいいだろ? 団長、あいつは入団試験トップらしいですけど、本当にそんなに使えるんですか? そりゃ試験の魔法は見ましたけどね、あの後倒れて本部に運ばれたんですよね? 凄いのを一発出せるだけじゃ意味ないでしょう」

「あー、ファシオ、倒れて本部にって言うのは、表向きでね、うーん」

「えっ、なあ! フジノって試験トップなのか!?」

 困ったようなアレクセイに、ここで再び割り込んでくるサーバル。ファシオはイライラしながら答えた。

「ああ、フジノがトップだよ。ぶっちぎりだ。お前、知らないとかマジか」

 

「ふあー、知らなかったな。えっ、ハナノは? まさかハナノが二番ってことはないよな?」

 まるで検討違いの方向に話を持っていく赤毛の女騎士。

「んな訳ねえだろ、ハナノは普通だ。何なら普通のちょっと下だ。俺が採点した。でもハナノはいい奴だ」

「まあな、可愛いしな」

「お前、ハナノに手え出すなよ」

「アホか、出さないよ、女同士だぞ」

「俺にはお前が女とは、」

「はいはい、ストップ。話がずれてる」

 思わずサーバルと始めてしまった言い合いはアレクセイによって止められた。

 

 言い合いを止めたアレクセイは班長達を見回す。今回フジノはファシオの班に居るのでその態度に一番頭にきているのはファシオだが、サーバルを除いて、他の班長にもフジノの受けは良くはない。皆、困ったような顔をしていた。

 

「ファシオ、フジノは凄いよ。騎士団としては手放したくない逸材だ。明日にもそれは分かると思う。まあ、それだけで受け入れろっていう訳にはいかないのも分かるんだけどね……態度は確かに悪い、悪いというよりもこっちが取りつく島もないんだよねえ。でも、ああいうのは僕にも経験あるし、分かる気はするんだ」


「は? 団長は入団した時から、十分可愛かったですよ。何言ってるんですか」

 サーバルが言う。ファシオは呆れてサーバルを嗜めた。

「お前なあ、団長に向かって可愛いとか言うなよ。でも、団長は今も昔も礼儀正しいです」


「僕は魔法学校でいろいろ学んだからね。自分で言うのも何だけど、魔法に関してはフジノは僕と同じくらい天才だよ。そのせいなのか、元々の性格なのか、まだ子供のくせに変に大人びていると思う。周りの年長者を頼らないし、信用してないようだね」

「そうですか? 私はたまに懐かれてるように感じますよ」

「ハナノが言うには、サーバルは特別みたい……」

「特別?」


「なんかね、年上の女性に弱いらしいよ」


「「「は?」」」

 思いがけない言葉に班長達の声が揃う。

 年上の女性?

 ファシオを含めた班長達は全員、サーバルを見た。その目が「これ、年上の女性か?」と言っている。

 

(これはもう、ちっせえ男だろ)

 少なくともファシオが思うような“年上の女性”では決してない。そもそもサーバルはファシオより年下ではあるが、それ以前に年上の女性と聞いて思い浮かべる、しっとりした優しさ、とか包み込まれる穏やかさ、みたいなものが皆無だ。

  

「何だよ?」

 サーバルは怪訝な顔だ。

「「「いや、何でもない」」」

 さすがにここで、各々の年上の女性像について語る気はないので、全員言葉を濁した。


「ね、びっくりだけどそういう可愛いとこもあるんだよ。あ、これ、僕が言ったって、フジノには絶対内緒にしてね」


「「「……」」」

(団長、たぶん、団長がびっくりしたポイントと俺らがびっくりしたポイント、違うと思います)

 ファシオは曖昧な笑みを浮かべた。

 

「明日は僕もフジノの実力を見てみようと思ってる。フジノは騎士団の魔法の訓練では本気出してないよね。まあ、訓練場が狭いし人が多いからだと思うけどね。細かい調製は苦手みたいだ」

 アレクセイが言い、ファシオは確かに訓練で出すフジノの魔法は明らかにやる気が感じられていなかったと思い出す。そこも気にくわない所だったのだが、周囲に気を遣っての事だったのだろうか。


(なら、それを言って、教えを乞えよ)

 理由が分かった所でイライラはしてしまう。


「さて、とりあえず明日は、ファシオの班でフジノを見てあげて欲しい」

「……」

「僕はフジノもいい子なんだと思うんだよ。ね、ファシオ、ここは大人の余裕で何とか飲み込んでよ」

「……はあ、団長が言うならがんばりますけどね」

「団長、ファシオに大人の余裕なんてありませんよ」

「サーバル、おまえなあ!」

「はいはーい、ストップ。ファシオ、明日はフジノを連れて僕の後ろについているようにしてね」

 また言い合いになりそうなファシオとサーバルをアレクセイが止めて、班長達は残りの調整を済ました。

 ファシオは納得は仕切れてないが、アレクセイに従う事にして自分の班のテントに戻り、明日に備えて睡眠をとった。


 



***


 翌日の昼前、予定通りに第二団は昼前に目的の村の東側に到着した。木々が途切れ、草原が広がり、その向こうにまばらに民家が見える。しかし今、その民家には誰も住んでいない。村の人々はウルフザンに襲われたか、村から逃げ出したかで一人もそこには残っていない。


 心地よい風が草を揺らす。普段は穏やかであろうその草原には、昼前ののどかな雰囲気に不似合いな無数のウルフザン達が集まって来ていた。真っ黒な毛に覆われ赤い目を光らせている。

 ウルフザンは見た目は狼を一回り大きくしたような魔物だ。動きは素早く、牙は鋭い。狼型の魔物だけあって、群れで行動する。

 周辺の村で騎士達に追い立てられたからだろう、こちらへの敵意がむき出しで、様子を伺いながらじりじりと間合いを詰めてきだしている。


(すげえ数だな)

 草原を埋め尽くすウルフザンにファシオは息を呑んだ。草原だけではなく、村の通りにまで黒い影が蠢いている。これだけの数を見るのは初めてだ。アレクセイが居なければ撤退するしかない数だろう。


「フジノ!」

 ここでアレクセイがフジノを呼ぶ。


「はい」

 ファシオの横をするりと抜けてフジノがすぐにアレクセイの横に並んだ。

 ファシオも含めて第二団の騎士達は怪訝な顔をした。ウルフザン達は今にもこちらに駆け出してくる様相で、ここは一刻の猶予もなくアレクセイの炎で片付けるべき所だからだ。なぜこんな時にフジノが呼ばれたのか。

 

「一掃できる?」

 アレクセイはファシオ達の戸惑いは気にせずにウルフザンを見ながらフジノに聞いた。言葉は疑問形であったが、その様子はできると確信している。

 

 フジノはぐるりと辺りを見回してから、平然と返した。 

「どこまでですか? 村も焼きますか?」

「「「!」」」


(は? この規模を焼き尽くせるのか?)

 ファシオは驚いて、茶髪の新人の後ろ姿を見た。その背中に気負いは全くない。

 

「いや、避難した人達は戻ってくるから家は焼かないで欲しい。でもウルフザンはここで、できるだけ多く片付けたい」

 

「分かりました」

 気負いのないまま淡々と返事をしたフジノは、次の瞬間には炎の魔法を使った。

 

ゴウッッッ

 目の前の草原と草原にいたウルフザン達が一瞬で激しい炎に包まれる。視界が赤く染まり、熱風が吹き付け、あっという間に肉が焦げる臭いが、辺りを覆った。


「っ……」

 ファシオは腕で顔を覆い、熱風を防ぐ。


 炎を見た村の中に居たウルフザン達はすぐに森へと逃げていくが、村の開けた場所を逃げる者達については、炎の一部は蛇のようにうねって延びると、追いすがって焼いた。


「マジか……」

 ファシオを始め、第二団の騎士達は皆、驚愕して言葉を失った。これほどの炎の魔法は、アレクセイのものしか見たことない。そして、そもそも、アレクセイの魔法は異常な強さなのだ。こんな大規模なもの、通常なら出したくても出せないし、出せる能力があったとして、普通は魔力が足りない。



(団長に匹敵するレベルの魔法使いかよ……)

 ファシオは驚きを越えてもはや呆れていた。


(こんなのが同時代に2人も居ていいのか?そして子供の時からこれ使えたのか?そら、独りでいいよな、何でこいつ騎士団入ってんだ?)



「やるなあ、あの蛇みたいに動かすやつ、いいね」

 アレクセイだけは驚きもせずに、笑顔だ。

「ありがとうございます」

 炎がウルフザンを焼き尽くす中、フジノは同時に風も操り延焼を防いでいるようだ。

 

「手伝うよ。この規模はちょっと水をかけても意味ないね。サーシャがいればよかったんだけど」

 アレクセイの風魔法が加わり、炎はかつての草原の真ん中へと集められる。黒焦げの魔物の死体の上で小さく燻るまでになった。

 

「ちなみに、フジノが出せる、一番小さい炎はどれくらい?」

 炎がある程度鎮火してからアレクセイがフジノに聞く。

 

「これくらいです」

 ゴウッと、離れた場所に2メートル四方くらいの炎が出現した。


(いやいや、それが最小かよ!? 通常はそれが最大で、そういうの2、3個出したら力尽きんだよ)

 ファシオは心の中で突っ込む。たぶん今、他の騎士達も同じように突っ込んでる。


「うーん、大きいな。これからは森に逃げたウルフザンの掃討なんだけど、フジノは森へは入らない方がいいね。森を焼いちゃうからね」

「剣を使いますよ」

「混戦になるから、新人のデビューには向かないよ」

「僕、できますよ」

 フジノがむっとして言い返す。

 

「分かったよ。でも、今日は村の家屋内の確認もしておく必要があるからそっちをお願いしたい。家から逃げ出すウルフザンを焼いてもらう方が効率がいいから。森の中の討伐は明日も続くから、明日からはそっちに入って」

「分かりました」

「という訳で」

アレクセイがファシオを見てにっこりする。


「はいはい。俺の班が村の確認ですね。ほら、来いよ天才新人騎士」

 ファシオの呼び掛けにフジノは嫌そうに戻ってくる。帝国騎士団第二団は焼け野原になった草原を横切って村へと入った。



 

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